J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2015年05月号

特別座談会 ~組織開発とポジティブメンタルヘルスの出会い~ みんながやる気で、成果も上がる組織づくりに人事ができること

メンバーがそれぞれの強みを活かしながらいきいきと仕事し、互いが協力し合う―
活性化した組織にはポジティブなムードが漂い、生産性も高まる。
しかし、理想の組織づくりとなると、一筋縄ではいかないのが現実だ。
今の企業の「組織づくり」の課題はどこにあるのか。
企業の実務家とメンタルヘルスのプロ、そして組織活性化の第一人者の3人が、それぞれ違う視点で語り合った。

【参加者】
西出恵美氏 日産自動車 アライアンスR&D人事部 R&D人財育成グループ(左)
日産自動車入社後、2001年に人事課教育グループへ。以来、社内の人材開発や組織開発、イノベーション創発に向けての施策や企画の立案、運営などを手がける。2004年以降R&D部門対象に「学習する組織」のプログラムを担当。この他、「ラーニング・オーガニゼーション研究会」や「企業間フューチャーセンター」、「ATDグローバルネットワークジャパン」、「組織開発研究会」など企業の垣根を越えた団体に所属し、組織活性化に向けた情報交換や「成長する組織」の普及に努める。

島津明人氏 東京大学大学院 医学系研究科(精神保健学分野) 准教授(中央)
早稲田大学大学院文学研究科修了後、同大学文学部助手、広島大学大学院教育学研究科専任講師、助教授、ユトレヒト大学社会科学部客員研究員などを経て、2006年より現職。「ワーク・エンゲイジメント」、「ストレス対策」をはじめ、企業組織における人々の活性化・メンタルヘルスを研究している。著書に『ワーク・エンゲイジメント ポジティブ・メンタルヘルスで活力ある毎日を』(労働調査会)など。

香取一昭氏 組織活性化コンサルタント(右)
1967年日本電信電話公社(現NTT)入社後、NTT各社を経て、2004年から2008年までNTT 西日本の常勤監査役を務める。「学習する組織」の考え方に基づいた組織変革を推進し、現在は、組織活性化コンサルタントとして一連のワークショップ手法の普及活動を展開。マインドエコー代表。日本ファシリテーション協会フェロー、ATDグローバルネットワークジャパン理事、IAFジャパン理事。
著書に『ワールド・カフェをやろう!』(日本経済新聞出版社)など。

【司会】編集部

[取材・文]=田邉泰子 [写真]=編集部

働く環境が大きく変わった

―組織の活性化を促す方法は多種多様にありますが、まず香取さんに伺います。香取さんは「学習する組織」の考えに基づくさまざまなワークショップをされていますが、それらは組織に対してどのような効果が期待できるのでしょうか。

香取

学習する組織」って極端な言い方をすれば「対話」なんですね。私はワールド・カフェなどいろいろな対話の手法を紹介していますが、対話を重ねることは組織と個人の関係性がよくなるうえに、メンタル不全の予防にも有効だと感じています。

島津

私の専門であるワーク・エンゲイジメントは、まさに精神的によい状態を維持することがテーマ。「健康でいきいきと働ける組織」は生産性の向上につながり、企業にメリットをもたらすという考えです。

西出

社員のメンタルヘルスの不調は生産性の低下につながり、企業にとって大きな損失です。社員や職場のメンタルヘルスをポジティブに捉えることは、経営の面から見ても非常に大切なことだと思います。

香取

「社員のメンタルヘルス」が課題視され始めた1998 年頃以降、成果主義を導入する企業が現れるなど、働く環境も変わりましたよね。

西出

そうですね。スピードと効率優先で、自分の業務で手いっぱいになる社員も多く、周囲に目を配る余裕がなくなったように感じます。

島津

パソコンのある環境が当たり前になったのもこの頃ですよね。

香取

そう。コミュニケーションの手法がずいぶん変わりました。昔は、誰が何をしていてどのような状況なのかは、わざわざ「情報共有」しなくても、電話や会話のやりとりでフロア中に知れわたるような時代でした。

島津

社内における人員構成のアンバランスがもたらす影響も考えられます。若い社員は年齢の近い先輩からアドバイスされる機会が少なく、コミュニケーションギャップの原因になっているのかもしれません。

西出

日産自動車には、「組織開発」という表現はしていませんが「よいクルマをつくるには、組織が健全でありたい」という考えが受け継がれています。そうした中、対話型のワークショップを通じたポジティブ・アプローチなどは、「よい組織づくり」につながっていると感じます。

「文脈の理解」の必要性

―働く環境の変化は、組織にどのような影響を与えましたか。

香取

以前、ワークライフバランスをテーマにしたワールド・カフェを開いた際、「日頃、職場では仕事の話しかできないけれど、今日は仕事以外の話ができて非常によかった」とコメントする人が、毎回必ず何人もいたんです。しかし、その状態って、ちょっとおかしいと思うんですよね。

西出

弊社でも、朝から晩まで1日中誰とも言葉を交わさずに自席で仕事をして、そしていつの間にか帰っている、というエンジニアもいます。そうした人が、周りが気づかないうちにメンタルヘルス不全になってしまうリスクも考えられます。

島津

そうですね。職場でのコミュニケーションの質とメンタルヘルス不全者の数には相関があるという調査報告もあります。

香取

コミュニケーションの基本といえば「挨拶」ですよね。

西出

私が在籍している事業所が大切にしている価値観に挨拶があり、ある時は役員が、朝、従業員口に立って「おはよう!」と社員一人ひとりに挨拶をしました。職場での挨拶をきっかけに、社内が言葉を発しやすい雰囲気に変わりました。

島津

なるほど。

西出

例えば、出社した部下がちょっと疲れた様子なら、「どうしたの?」って上司が声をかけると、「子どもが夜泣きして眠れなかった」といった会話が自然と生まれて。日頃からこうしたやりとりを繰り返すと、上司が部下のことを雰囲気から察知できるようになってくるんですよね。

これこそ、「学習する組織」の原点じゃないかと思います。

香取

発言や行動の裏側にあるお互いの考えや背景といった「文脈」を理解し合うことは、社員同士の人間関係の構築に実はものすごく影響していますよね。最近は、SNSを使ってコミュニケートする企業もありますけど、コンプライアンス面をクリアできれば、そこで補完するのも悪くないんじゃないかと思います。

―「文脈の理解」が組織活性化に必要なのはなぜでしょう。

島津

日頃の会話が少ない部署では、組織改善のミーティングの最初に、「自分語り」をするとうまくいくそうです。まずは、相互理解という段階をクリアして、初めて組織の話の段階に移せるということです。

西出

弊社でAIのワークショップを行う時も、成功体験の共有からスタートします。

香取

ストーリーテリングだね。

西出

例えば、若手エンジニアが頑固で口うるさい昔気質のエンジニアに委縮してしまう、ということが現場では起こりがちです。しかし、成功体験を語り合うと「あの技術の実験をされた人なんだ!」とか、「あの若造、意外と考えているんだな」などと、互いを見る目が変わってきます。やはり対話を重ねることが、円滑な組織運営につながる気がします。

「小さな成功」の承認

―「成功体験の共有」は、社員にどのような効果をもたらしますか。

香取

互いのポジティブな面を認め合うことは、「自己効力感」につながっている気がします。

島津

成功体験は、自己効力感を高める効果が最も高いといいます。意欲の向上にも作用しますよ。

西出

若手社員に実行できそうな小さな仕事を任せることは、成功体験を積ませるために大切だと、マネジメント層がよく話しています。

島津

すごく大事ですね。経験の浅い人が、最初から大きな仕事を成功に導くことは難しいですし。いかにして「成功できるように仕掛けるか」という部分は、マネジャーの腕の見せどころではないでしょうか。

西出

そうした日々の小さな積み重ねが、組織の成長やパフォーマンスにつながっていきますよね。

香取

組織の成長は、「質的な変化」ですから、どうしても時間がかかります。しかし、関係性の質の向上に向けたアプローチは、成果を生み出すための基盤に当たるので、無視できない要素のはずです。

西出

取り組みの成否が、目に見える形として表れにくいと感じます。

香取

だからこそ「小さな成功を祝福する」ことが大切です。例えば、お客様から自社の社員や仕事を褒められた時は、社内で共有し合うだけでも社員たちは気分がよくなるもの。小さなことだけど、こういうことがすごく大事じゃないですか。

西出

おっしゃる通りだと思います。「外から見た自社の評価」って、社内の人間は意外とわかりません。弊社の社員も異業種交流会などで、社外の方から「あの車を開発されたんですか! すごいですね」と感心されると、自信につながるようです。

島津

システムエンジニアは、メンタルヘルス不全に陥りやすいといわれていますよね。プログラミングは分担作業になるので、自分の関わる仕事の全体像が把握しづらいうえに、お客様にはプログラムのよしあしが伝わりにくいから、フィードバックを得られにくい環境にあります。しかし、営業担当がお客様の声をエンジニアにきちんと伝えるようにすると、その部署が元気になるといったことも起こるんですよ。

西出

クルマづくりでも同じことがいえます。車体のデザインからエンジンの製造、さらにネジ1本に至るまで、業務が細分化されています。自動車業界もメンタルヘルス不全の発症率が低くないので、仕事への関わり方の影響もあるかもしれません。

仕事の意義と多様性

―「外部からの承認」以外に、組織の一員としての自覚を高める方法はあるのでしょうか。

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