J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2015年05月号

巻頭インタビュー 私の人材教育論 社内公用語英語化は組織を強める最大の武器

楽天は日本最大級のオンラインショッピングモール「楽天市場」を運営しながら、旅行、証券、銀行、保険、クレジットカード、通信などの多岐にわたる事業を積極展開してきた。
また海外でも、アメリカ、台湾、タイ、フランス、ブラジル、ドイツ、イギリス、インドネシアなどに次々と展開し、今では28の国と地域(日本含む)にも及んでいる。
このグローバル化を推し進めてきた原動力が、代表取締役会長兼社長の三木谷浩史氏だ。
2010年には「社内公用語英語化」を宣言し、2012年からは社内コミュニケーションを英語に全面移行した。
数年が過ぎた現在、改めて人材育成の観点から英語化の意義を問い、人材像、育成の要点、働きやすい環境づくりの工夫なども聞く。

三木谷 浩史(Hiroshi Mikitani)氏
楽天 代表取締役会長 兼 社長

生年月日 1965年3月11日
出身校 一橋大学商学部・ハーバード大学経営大学院
主な経歴
1988年4月 日本興業銀行入行
1993年5月 ハーバード大学経営大学院修士号取得
1996年2月 クリムゾングループ 設立(現 合同会社クリムゾングループ)代表取締役社長(現 代表社員) (現任)
1997年2月 エム・ディーエム(現 楽天)設立 代表取締役社長
2001年2月 代表取締役会長 兼 社長(現任)
2006年4月 クリムゾンフットボールクラブ 代表取締役会長(現任)
2008年1月 楽天野球団 代表取締役会長(現任)
2010年2月 一般社団法人 eビジネス推進連合会 (現 一般社団法人新経済連盟) 代表理事(現任)
2011年10月 公益財団法人 東京フィルハーモニー交響楽団 理事長(現任)
現在に至る

楽天
1997年設立。楽天市場をはじめとしたインターネットサービスのほか、金融サービス、デジタルコンテンツ事業などを行う。
資本金:1116億円、連結売上高:5985億6500万円( 2014年12月期)、連結従業員数:11723名(2014年12月31日現在)

インタビュー・文/Top Communication
写真/西山輝彦

社内公用語英語化とその後

── 2010年に「社内公用語英語化」を宣言し話題となりました。経営戦略や理念を実現する人材を育てるという観点から英語化の意義を問うとすれば、どうなるでしょうか。

三木谷

まず前提として、英語はコミュニケーションツールでしかないと考えています。ですから、ネイティブスピーカーのように話すことは全く求めていません。英語の会話力を評価するのではなく、英語できちんと言いたいことを伝えられる点が重要です。

日本のマーケットはおよそ1億人。それに対して世界を相手にすれば70億人のマーケットが存在します。今、新興国と先進国の経済格差は急速に縮まりつつあるため、当然グローバルマーケットを見ながらビジネスを進める必要があります。かつ、日本だけでなく世界中から優れた技術や知恵を集めることもできれば、ビジネス上で非常に優位に立てます。

英語はそのためのツールに過ぎません。要は、相手に言いたいことが伝わり、ビジネスの結果が出せればいいわけです。第一、英語は毎日使っていれば自然にうまくなりますよ。

── 英語公用語化の直後、コミュニケーションにかける時間が増えたそうですが、現在はいかがですか。

三木谷

確かに当初、日本語で2時間だった役員会議が英語だと4時間かかるといったこともありました。しかし現在は、英語でミーティングしたほうが日本語で話すよりも短時間で済み、効率的です。

とにかく、わかりやすくシンプルに話すようにしています。日本語で何か説明しようとすると曖昧になりやすいのですが、英語なら「ポイントは何?」と話の核心を明確にしやすい、という利点があります。

もちろん、日本語には日本語の美しさがあり、意識すればロジカルで効率的な話し方ができるでしょう。

しかし極端に言えば、“霞ヶ関文学”と呼ばれるような、揚げ足を取られにくくする玉虫色の表現、いくつもの意味に受け取れる表現は、ビジネスでは互いの理解を妨げます。その意味で、ビジネスには英語のほうが適していると実感しています。

──それは日本語と英語の言語的特性からくるものでしょうか。

三木谷

日本語でもよほど気をつければ、ポイントをついたコミュニケーションは可能です。ただ、日本語は主語がなくても通じてしまうのに対し、英語は基本的に主語がなければ伝わりません。英語は「誰が」「何を」「どうした」と、曖昧さがなくなる言語であることは確かです。

また、楽天ではほとんどのミーティングがグローバルネットワーク上で開かれますから、英語でコミュニケーションをとることになりますが、外国人に、含みのある日本的な表現は通じません。

英語だけの人は評価されず

──そのグローバルな会議で、日本人社員はネイティブスピーカーの社員とスムーズに会話できていますか。

三木谷

全く問題はありません。日本人スタッフもヒアリングの理解力は高いです。話すほうの発音やスピードにはまだ差があります。

しかしミーティングには、北米やイギリス、オセアニア圏の、英語を母国語としない国籍のスタッフも多くいます。要するに、イングリッシュでなく“グロービッシュ”※が話されているのです。

ネイティブほど英語が流暢に話せなくても、発言権が弱まるなど周囲からの評価が下がるわけでもありません。

※グロービッシュ:意思疎通に重きを置いたシンプルな英語。元々はフランス人のジャン=ポール・ネリエールが提唱したもので、単純な英文法と使用頻度の高い英単語を使う。

── 英語力は評価の対象ではない、というわけですね。

三木谷

周りからの信頼度や発言の影響力と、英語力とはほとんど関係がありません。「英語が下手だからあの人の発言は聞くに値しない」とは誰も考えないでしょう。英語が苦手な人はゆっくり話せばいいし、そういう時は周囲の人たちもゆったり構えて聞く姿勢ができています。

極端にいうと、英語だけうまい人は逆に評価されなくなってきました。みんなが英語でコミュニケーションできるようになったので、英語だけの人は「英語は上手だけど、それ以外は大したことがない」と思われるようになるんです。

──他の日本企業から、英語公用語化について聞かせてほしいという依頼がたくさんあったのでは。

三木谷

あります。ただ、踏み切る勇気がないのか、メリットが実感できないのか、実際に、本格的に後に続いてくれる企業はありません。

もちろん、導入は相当に大変でしょうが、それを上回るメリットがあります。楽天が長期的に成長するためには、この道以外ないと思っています。ですから、自社の成長を願う経営者には「まずは社内公用語を英語化せよ!」と言いたいですね。

楽天で評価される人材

── 仕事で評価されるのは、英語力とは別の部分というお話ですが、どのような人材が評価されますか。

三木谷

楽天で評価される人は、自ら成長意欲があり実現意欲も高く、また高い倫理観を持ち、お客様に対してサービス精神が旺盛であることです。それに加えて常に科学的な思考力が発揮できることも重要です。

科学的思考力というのは、いわゆるPDCAサイクルが回せる力と、仕組み化できる力が合わさったものです。仕組みをつくれる人が当社にとって重要な人材なのです。

そして当然、英語という共通のプラットフォームで、世界ベースでビジネスを進めていくのが楽天の基本戦略であるため、グローバルな思考も不可欠です。

──そういう人材を育て、配置する際に特に気をつけている点は。

三木谷

楽天はインターネット・サービス企業ですから、技術者とデザイナー、それからいわゆる営業一般と本部機能があるわけですが、中でも技術者が人材の中心になります。

配置については、最初は本人の特性や希望を考慮します。その後は、既存の育成プログラムでどう育てるかを考えます。また、新規の技術やサービスに挑戦してもらう場合は、それに応じて特定の人を選び、力量と技能を上げる教育を提供しています。

私は人材教育においては、「マインド」「スキル」「ナレッジ」の3つが特に大切だと考えています。

マインドは「このプロジェクトを成功させる」とか「お客様を喜ばせる」、あるいは「チームが一致団結する」といった精神です。スキルは実務を遂行する能力、ナレッジはマーケティングや技術などの知識です。

──マインド、スキル、ナレッジを向上させる具体的なプログラムはありますか。

三木谷

例えば、「グローバル・エクスペリエンス・プログラム(GEP)」という教育プログラムを実施しています。GEPは、海外で働くことを前提とした学校教育を受けてこなかった社員に対し、海外拠点に3カ月から6カ月間滞在してもらい、グローバルなビジネス経験の中で、この3つを複合的に習得できるプログラムです。

GEP終了後、グローバルな職務を遂行する能力が十分あると認められれば、すぐにグローバル業務に配属されるか、将来の配属候補としてグローバル人材のリストに登録される可能性が高くなります。

また、反対に海外から日本へ3カ月から6カ月間来てもらうプログラムもあります。それは日本と外国とで相互理解を深めることにも役立っています。

ベンチャー感を失わない

──グローバル化が進むほど、組織としての価値観共有が重要になってきます。そこに難しさを感じる日本の企業も多いようですが。

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