船川淳志の「グローバル」に、もう悩まない! 本音で語るヒトと組織のグローバル対応 第11回 グローバル時代のM&A ~PMI( Post Merger Integration)の課題~
多くの人材開発部門が頭を悩ませる、グローバル人材育成。
グローバル組織のコンサルタントとして活躍してきた船川氏は、「今求められているグローバル化対応は前人未踏の領域」と前置きしたうえで、だからこそ、「我々自身の無知や無力感を持ちながらも前に進めばいいじゃないか」と人材開発担当者への厳しくも愛のあるエールを送る。
M&Aの25年間を振り返る
私:「以上、私が関与した事例をいくつか交えて紹介しましたように、日本企業が合がっ従しょう連れん衡こうの時代に突入して何年も経ちます。PMIについて、そろそろ真剣に取り組むべきでしょう。ここで、質問のある方はどうぞ」(※PMI /企業の合併、買収後の両社の人的、組織的統合に関する一連の施策)参加者:「何件か事例を紹介して説明されていましたけれど、皆、外資系の案件ですよね。つまり我々、大手日本企業にはそのPMIでしたっけ、それが果たして影響を及ぼすような課題になるのでしょうかね。銀行などの金融系は外資のハゲタカに買収されるかもしれないですけど……」*******************
読者の皆さんは上記の質問を読んでどのような感想を持たれるだろう。大手企業からの参加者はこの方だけではない。場所は、「経団連セミナーハウス」という名称から推察できるだろう。今から15 年前、2000 年12月、21世紀になる1カ月前のことだ。
当時、日本の大手企業ではM&A、ましてPMIに直接関与した経験を持つ社員は限られていた。しかし、質問をした参加者はそんな時代の空気をまとっていただけではない。「日本の大手企業が海外企業から買収されることなどあり得ない」という誤った時代認識と驕りが感じられた。
この頃の時代背景をよく表しているのが、真山仁氏の小説『ハゲタカ』(ダイヤモンド社)だ。デュー・ディリジェンス、ホワイトナイトなどの言葉が飛び交うこの作品で、M&Aの実態を知ったビジネスパーソンは少なくないだろう。小説では90 年代のバブル崩壊に続く金融危機、ITバブルとその崩壊、さらにファンドビジネスの台頭が物語られる。それまでの日本のビジネス慣行が通用しなくなる「多異変な4 4 4 4時代」がよく描かれていた。
冒頭の私のセミナーで紹介した事例も、『ハゲタカ』同様、外国企業が日本企業を買収するというパターンだが、この数年、急増しているのは日本企業による海外企業の買収だ。
もっとも、日本企業の海外買収は今に始まったことではない。1985年のプラザ合意後の円高を背景に、ブリヂストンが米国の大手タイヤメーカー、ファイアストンを、そしてソニーがコロンビア・ピクチャーズエンタテインメントを買収し、新聞紙上を賑わせたのは1988年。パナソニックのMCA(米国の映画・娯楽会社)買収は1991年であった。その後、バブル崩壊に続く『ハゲタカ』の時代が到来したのは前述の通りだ。
私に関して述べておくと、シリコンバレーで組織コンサルティング業務を経験後、1995 年末に帰国、外資系企業同士のM&A、あるいは外資系企業の日本企業の買収におけるPMI案件に携わった。現在は研修業務がメインだが、それでも依頼に応じ、PMIがらみの支援は行っている。