J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2015年03月号

船川淳志の「グローバル」に、もう悩まない! 本音で語るヒトと組織のグローバル対応 第11回 グローバル時代のM&A ~PMI( Post Merger Integration)の課題~

多くの人材開発部門が頭を悩ませる、グローバル人材育成。
グローバル組織のコンサルタントとして活躍してきた船川氏は、「今求められているグローバル化対応は前人未踏の領域」と前置きしたうえで、だからこそ、「我々自身の無知や無力感を持ちながらも前に進めばいいじゃないか」と人材開発担当者への厳しくも愛のあるエールを送る。

船川淳志( ふなかわ あつし)氏
グローバルインパクト代表パートナー。慶應義塾大学法学部法律学科卒業。
東芝、アリコジャパンに勤務後、アメリカ国際経営大学院(サンダーバード校)にてMBA取得。
組織コンサルタントとして活動する傍ら、以下の講師を歴任。サンダーバード日本校 客員教授(1999-2003)、NHK教育テレビ「実践・ビジネス英会話ーグローバルビジネス成功の秘訣」講師(2003-2004)、社団法人日本能率協会 主催「グローバルビジネスリーダープログラム」主任講師(2004-2007)、国際基督教大学大学院 Global Leadership Studies 非常勤講師(2011-)、早稲田大学大学院 ETP 非常勤講師(2011-)。

M&Aの25年間を振り返る

私:「以上、私が関与した事例をいくつか交えて紹介しましたように、日本企業が合がっ従しょう連れん衡こうの時代に突入して何年も経ちます。PMIについて、そろそろ真剣に取り組むべきでしょう。ここで、質問のある方はどうぞ」(※PMI /企業の合併、買収後の両社の人的、組織的統合に関する一連の施策)参加者:「何件か事例を紹介して説明されていましたけれど、皆、外資系の案件ですよね。つまり我々、大手日本企業にはそのPMIでしたっけ、それが果たして影響を及ぼすような課題になるのでしょうかね。銀行などの金融系は外資のハゲタカに買収されるかもしれないですけど……」*******************

読者の皆さんは上記の質問を読んでどのような感想を持たれるだろう。大手企業からの参加者はこの方だけではない。場所は、「経団連セミナーハウス」という名称から推察できるだろう。今から15 年前、2000 年12月、21世紀になる1カ月前のことだ。

当時、日本の大手企業ではM&A、ましてPMIに直接関与した経験を持つ社員は限られていた。しかし、質問をした参加者はそんな時代の空気をまとっていただけではない。「日本の大手企業が海外企業から買収されることなどあり得ない」という誤った時代認識と驕りが感じられた。

この頃の時代背景をよく表しているのが、真山仁氏の小説『ハゲタカ』(ダイヤモンド社)だ。デュー・ディリジェンス、ホワイトナイトなどの言葉が飛び交うこの作品で、M&Aの実態を知ったビジネスパーソンは少なくないだろう。小説では90 年代のバブル崩壊に続く金融危機、ITバブルとその崩壊、さらにファンドビジネスの台頭が物語られる。それまでの日本のビジネス慣行が通用しなくなる「多異変な4 4 4 4時代」がよく描かれていた。

冒頭の私のセミナーで紹介した事例も、『ハゲタカ』同様、外国企業が日本企業を買収するというパターンだが、この数年、急増しているのは日本企業による海外企業の買収だ。

もっとも、日本企業の海外買収は今に始まったことではない。1985年のプラザ合意後の円高を背景に、ブリヂストンが米国の大手タイヤメーカー、ファイアストンを、そしてソニーがコロンビア・ピクチャーズエンタテインメントを買収し、新聞紙上を賑わせたのは1988年。パナソニックのMCA(米国の映画・娯楽会社)買収は1991年であった。その後、バブル崩壊に続く『ハゲタカ』の時代が到来したのは前述の通りだ。

私に関して述べておくと、シリコンバレーで組織コンサルティング業務を経験後、1995 年末に帰国、外資系企業同士のM&A、あるいは外資系企業の日本企業の買収におけるPMI案件に携わった。現在は研修業務がメインだが、それでも依頼に応じ、PMIがらみの支援は行っている。

その経験から、25年間にわたる日本企業と海外企業のM&Aを振り返ってみると、「特定企業の特殊な業務」から、「いつでも、どこの国でも起こりうるプロジェクト」に拡大しているのが明らかだ。加えて、近年は日本企業によるアジアや東欧企業の買収が増えている。まさに本シリーズで述べてきた通り、「全球化の時代」である。それでは、25年間の歴史を日本企業は活かしているのだろうか。現在のM&Aに過去の歴史からの学び、ノウハウの蓄積は活かされているのだろうか。答えはノーと言わざるを得ない。

不明確な買収の“戦略的意図”

M&Aの成功率は高くない。欧米企業による買収では25~ 40%。数字に幅があるのは、調査を行ったコンサルティング会社が複数あるためだ。40%と高い割合が出ているのは、同国内での案件も含めた結果だからである。90年代とかなり前のデータだが、以後、成功率が上がったという話は聞かない。日本企業が海外企業を買収した場合の成功率はさらに低く、5%だった。20 社買って1社成功するという確率である。さすがに成功率5%は低過ぎる、という見方もあるだろうが、どこの企業でも実務者の間では「現実は厳しい」という声が出る。原因として2つの課題が考えられる。

まず、買収の戦略的意図(StrategicIntent)がどこまで明確になっているか、という問題がある。ビジョンやゴールも重要だが、Intentという言葉には目論見、狙いというニュアンスが含まれる。「そもそもなぜこの会社を買うのか」という本質的な問いへの答えが明確でなくてはならない。市場拡大のチャネルがほしいのか、技術を取り込みたいのか、それとも投資効果を狙うのか。戦略的議論を尽くすべきだ。

ところが「競合他社がその国に進出しているから、ウチも乗り遅れないようにどこか買収する」とか「前の役員が推薦してきたから買収を検討する」などという話がいまだに横行している。先日もM&A専門の法律事務所の方から、「お金が余ると海外企業を買収したがる会社が多い」と聞いて、呆れてしまった。

デュー・ディリジェンスの課題

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