巻頭インタビュー 私の人材教育論 社員と会話し続けることでトップダウン経営が磨かれる
10年前、相模屋食料は売上32億円の中堅メーカーから急成長を始める。
新工場の稼動からわずか4年後、豆腐業界で史上初となる売上100億円を達成。
その後も快進撃は続き、2013年度の売上は157億円と、2位にダブルスコアの大差をつけて業界トップをひた走る。
「社内の仕事でわからないことはほとんどない」と語る鳥越淳司氏は、徹底したトップダウン経営でビジネスチャンスを次々とものにしている。
強いリーダーシップによる経営手腕の実際と、同社が求める理想的な人材像などについて聞いた。
大きな目標で士気を上げる
──10年で売上を5倍以上にする急成長ぶりが、話題になっていますね。
鳥越
私が入社した2002年当時、当社はどこにでもある中堅の豆腐メーカーでしたが、2005年に新工場を稼動させてから大きく変わり始めました。4年後には国内の豆腐メーカーとして初めて売上100 億円を突破し、昨年度(2013年度)は157億円という売上を達成できました。
2004年のことです。専務取締役になったばかりの私は、全社員が一堂に会する忘年会で「売上1000億円をめざす」と大風呂敷を広げました。当時の売上はまだ32億円です。1000 億円といえばその30倍以上ですから、その時は、従業員の皆さんから笑われるだけでした。しかし、あれから10年が経ち、今では取引先や周囲の方までもが「いつ1000億円を達成するんだ」と言っていただけるようになっています。
もちろん、今の状況から見ても1000億円は高い目標ですし、いつまでにどうやって達成するか、具体的な計画があるわけではありません。しかし、経営トップがそういう大きな目標を掲げていると、社員の士気は高まります。社内の雰囲気が明るくなり、社員の姿勢が前のめりになることで、会社は成長を続けられると思うのです。
──「機動戦士ガンダム」とコラボレーションした「ザクとうふ」も大きな話題になりました。
鳥越
「豆腐は食卓の名脇役」とよく言われます。これは、日本人の食卓に欠かせない食材であることは確かですが「特にほしいと思われるような商品でもない」という意味です。
「ザクとうふ」を出して嬉しかったのは、脇役と言われてきた豆腐が一気に主役になったという感覚を得られたことです。「ザクとうふ」がほしいという目的でお客様が豆腐売り場にいらっしゃり、あっという間に売り切れたことがありました。アイデア次第で脇役が主役になれるチャンスはいくらでもある。その実感をつかめた出来事になったと思います。
また、今年は「神戸コレクション」と「東京ランウェイ」という2つの大きなファッションショーで、モデルさんが当社の商品を持ってステージを歩きました。女性がきれいになれる「マスカルポーネのようなナチュラルとうふ」というヘルシー食品です。豆腐とファッションの初コラボということで、大きな反響がありました。
そのような、「次に何を出すかわからないワクワク感」は、当社にとって重要です。メディアに取り上げられて話題となり、豆腐という食材を再認識していただけるメリットはもちろんですが、何より、そのことで社員が自分の仕事に誇りを持つきっかけを得られることが大きいのです。
──社員が仕事に誇りを持つようになると、どのような効果があるのでしょうか。
鳥越
誇りを持つことで、一人ひとりの仕事のクオリティが高まります。「私は相模屋の人間だから、恥ずかしい仕事はできない」とか「品質の悪い商品は出せない」という考え方が芽生え、意識と行動が高まるのです。
先日、「マスカルポーネのようなナチュラルとうふ」を社内販売しました。ある社員がそれを買い、近所の方に配ったところ「相模屋は次から次に新しい豆腐を作って凄いね」と言われたそうで、嬉しそうに私に報告してくれました。話を聞き、私も嬉しくなりました。お客様や周囲の方に「凄いね」とか「さすがだね」と言ってもらえる経験は、社員の誇りを育ててくれます。
1日24時間のうち、会社にいる時間は長いですし、多くの人にとって、仕事が人生に占める割合というのは大きいと思います。ただ給料をもらうために働くのでは面白くありません。どうせなら楽しく、誇らしく働いてもらいたいですし、私もせっかく会社を経営するのであれば、社員に誇りを持って働いてもらえる会社にしたいと思います。