J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2015年03月号

巻頭インタビュー 私の人材教育論 社員と会話し続けることでトップダウン経営が磨かれる

10年前、相模屋食料は売上32億円の中堅メーカーから急成長を始める。
新工場の稼動からわずか4年後、豆腐業界で史上初となる売上100億円を達成。
その後も快進撃は続き、2013年度の売上は157億円と、2位にダブルスコアの大差をつけて業界トップをひた走る。
「社内の仕事でわからないことはほとんどない」と語る鳥越淳司氏は、徹底したトップダウン経営でビジネスチャンスを次々とものにしている。
強いリーダーシップによる経営手腕の実際と、同社が求める理想的な人材像などについて聞いた。

鳥越淳司(Junji Torigoe)氏
生年月日 1973年9月15日
出身校 早稲田大学商学部
主な経歴
1996年4月 雪印乳業 入社
2002年9月 雪印乳業 退社
2002年10月 相模屋食料 入社
2004年10月 専務取締役 就任
2007年5月 代表取締役社長 就任
その他の役職
デイリートップ東日本 代表取締役社長
秀水 代表取締役社長
群糧 代表取締役社長
現在に至る

相模屋食料
1951年に相模屋豆腐店として創業。豆腐、油あげ、厚揚げ等の大豆加工食品を製造販売。業界に先駆けて製造工程の自動化を進め、売上高で圧倒的な業界トップに立つ。
資本金:8000万円、売上高:157億円(2013年2月)、従業員数:480 名(2014年7月末現在)

インタビュー・文/平沢真一
写真/西山輝彦

大きな目標で士気を上げる

──10年で売上を5倍以上にする急成長ぶりが、話題になっていますね。

鳥越

私が入社した2002年当時、当社はどこにでもある中堅の豆腐メーカーでしたが、2005年に新工場を稼動させてから大きく変わり始めました。4年後には国内の豆腐メーカーとして初めて売上100 億円を突破し、昨年度(2013年度)は157億円という売上を達成できました。

2004年のことです。専務取締役になったばかりの私は、全社員が一堂に会する忘年会で「売上1000億円をめざす」と大風呂敷を広げました。当時の売上はまだ32億円です。1000 億円といえばその30倍以上ですから、その時は、従業員の皆さんから笑われるだけでした。しかし、あれから10年が経ち、今では取引先や周囲の方までもが「いつ1000億円を達成するんだ」と言っていただけるようになっています。

もちろん、今の状況から見ても1000億円は高い目標ですし、いつまでにどうやって達成するか、具体的な計画があるわけではありません。しかし、経営トップがそういう大きな目標を掲げていると、社員の士気は高まります。社内の雰囲気が明るくなり、社員の姿勢が前のめりになることで、会社は成長を続けられると思うのです。

──「機動戦士ガンダム」とコラボレーションした「ザクとうふ」も大きな話題になりました。

鳥越

「豆腐は食卓の名脇役」とよく言われます。これは、日本人の食卓に欠かせない食材であることは確かですが「特にほしいと思われるような商品でもない」という意味です。

「ザクとうふ」を出して嬉しかったのは、脇役と言われてきた豆腐が一気に主役になったという感覚を得られたことです。「ザクとうふ」がほしいという目的でお客様が豆腐売り場にいらっしゃり、あっという間に売り切れたことがありました。アイデア次第で脇役が主役になれるチャンスはいくらでもある。その実感をつかめた出来事になったと思います。

また、今年は「神戸コレクション」と「東京ランウェイ」という2つの大きなファッションショーで、モデルさんが当社の商品を持ってステージを歩きました。女性がきれいになれる「マスカルポーネのようなナチュラルとうふ」というヘルシー食品です。豆腐とファッションの初コラボということで、大きな反響がありました。

そのような、「次に何を出すかわからないワクワク感」は、当社にとって重要です。メディアに取り上げられて話題となり、豆腐という食材を再認識していただけるメリットはもちろんですが、何より、そのことで社員が自分の仕事に誇りを持つきっかけを得られることが大きいのです。

──社員が仕事に誇りを持つようになると、どのような効果があるのでしょうか。

鳥越

誇りを持つことで、一人ひとりの仕事のクオリティが高まります。「私は相模屋の人間だから、恥ずかしい仕事はできない」とか「品質の悪い商品は出せない」という考え方が芽生え、意識と行動が高まるのです。

先日、「マスカルポーネのようなナチュラルとうふ」を社内販売しました。ある社員がそれを買い、近所の方に配ったところ「相模屋は次から次に新しい豆腐を作って凄いね」と言われたそうで、嬉しそうに私に報告してくれました。話を聞き、私も嬉しくなりました。お客様や周囲の方に「凄いね」とか「さすがだね」と言ってもらえる経験は、社員の誇りを育ててくれます。

1日24時間のうち、会社にいる時間は長いですし、多くの人にとって、仕事が人生に占める割合というのは大きいと思います。ただ給料をもらうために働くのでは面白くありません。どうせなら楽しく、誇らしく働いてもらいたいですし、私もせっかく会社を経営するのであれば、社員に誇りを持って働いてもらえる会社にしたいと思います。

社長は全ての業務に精通

──相模屋食料に入社される以前は、雪印乳業にいらしたそうですね。

鳥越

私は現会長の末娘との結婚を機に、勤めていた雪印乳業を退職し、当社に入りました。雪印乳業時代は営業の経験しかなく、商品の作り方を知らないことの無力感を感じていましたので、当社に入ったら、必ず豆腐の作り方に精通しようと考えていました。

きっかけは、雪印乳業で経験した食中毒事件です。営業の担当者として毎日お客様のところへ出向き、謝罪する日々が続きました。私はそれまで雪印乳業の社員であることに誇りを持ち、商品に自信を持って営業していました。しかし、実はその商品がどのように作られているかを、全く知らなかったのです。

つまり、私は社内の誰かが作った商品を、よく知りもしないで勝手に誇りに思い、根拠のない自信を持っていただけなのです。私はものづくりの会社の営業でありながら、ものづくりを知らなかったことへの無責任さと罪悪感に身を焼かれるような思いで、謝罪を続けました。その結果、自分が誇りや自信を持ってよいのは、自分が本当にわかっていること、自分の手でやったことだけだという考えに至りました。

当社に来てからは、その轍を踏まぬよう、まずは自分で豆腐を作れるようになろうと思いました。毎日深夜1時から工場に入り、同じ日の夕方7 ~ 8時頃まで、豆腐にかかわる全ての業務に加わり、豆腐作りを勉強しました。豆を水に浸し、それを挽いて豆乳を作り、できた豆乳を固めて四角く切り、パックに詰めて出荷します。社員の方々は担当の仕事が終わると上がるのですが、私は全ての仕事を覚えようと、必死で工場に張り付きました。

── その経験は、今の経営にどのように活かされているのでしょうか。

鳥越

お陰様で、私はあらゆる豆腐の製造方法に精通し、今では営業、銀行との折衝、経営の数字管理などまで全部1人で見ています。社内の仕事でわからないことがほとんどないということは、社長という仕事にとって大きな強みになります。

その強みが顕著に表れるのは、会社が危機的な状況に陥った時です。当社の場合、例えば4年前に起きた東日本大震災がそうでした。

当社は地震の揺れによる被害はほとんどありませんでした。しかし問題は、計画停電が頻繁に行われる地域に当社が含まれていたことです。4時間ほど通電して、また4時間停電するという日々が続きました。当社の工場は自動化が進んでいますので、生産ラインを一度止めると、再開するまでに5時間以上の準備が必要です。つまり断続的に停電が起きる状況では、ほとんど稼動できないのです。当面、停電のない夜間しか製造ラインを動かせなくなりました。

──まさに危機的状況ですね。

鳥越

商品が作れないのですから、全てのお客様の注文には応えられません。このような時は、どのお客様を優先して出荷し、どのお客様に出荷休止をお願いするか、その判断に会社の存亡が懸かってきます。私は営業を全て把握しておりましたので、その判断を自分の責任で行い、商品を出すお客様とお断りするお客様を営業に指示しました。もし、この判断を営業社員に任せてしまうと、めいめいが自分の担当するお客様のために商品を確保しようとして混乱し、正しい判断ができません。

一方、製造に関しては、作る商品の品目を3分の1に絞り、それだけは欠品しないように工場を動かしました。多くの品目を作り続けて欠品を出すより、作る商品はこれだけと決めて欠品を防ぐほうが、お客様の信用を失いにくいと考えたからです。

どの商品を作るかの判断は、全て私が独断で行いました。これは営業と製造の両方を把握していないとできません。製造の人は営業がわからないので、製造現場の事情を優先します。一方、営業は工場の事情などお構いなしに「この商品を作ってくれなければ困る」と要求します。結果、現場は大混乱し、作れるはずのものまで作れなくなってしまうのです。

製造品目を減らすが、受けた注文は欠品させない。このやり方で、なんとかお客様の信用を守り通すことができました。

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