J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2015年02月号

連載 中原 淳の学びは現場にあり 第29回 「みて、触れて、考える」を実践する看護師の育成法 大学病院の看護師さんたちの学び

少子・高齢化と共に、医療の高度化が進む日本では看護師のニーズが高まり、医療現場では看護師不足が問題になっています。
そうした中、若手看護師の育成は看護の現場における課題のひとつ。
そこで、看護師の育成に力を入れる東京大学医学部附属病院の看護部を訪ね、看護師さんたちの現場の学びについて取材しました。

中原 淳(Jun Nakahara, Ph.D.)氏
東京大学 大学総合教育研究センター准教授。著書に『職場学習論』『経営学習論』
『活躍する組織人の探究』『研修開発入門』『駆け出しマネジャーの成長論』など多数。
Blog: http://www.nakahara-lab.net/blog/ Twitter ID: nakaharajun
[取材・文] = 井上佐保子 [写真] = 眞嶋和隆

東京大学医学部附属病院(以下、東大病院)は、言わずと知れた国内トップクラスの大学病院です。取材に訪れた日も、300席ほどの椅子が並ぶ広い外来棟玄関ホールには、溢れんばかりの人が来院していました。最先端の医療を求めて来院する外来患者は1日平均3000人、入院患者数は1日平均1100人。そうした患者さんたちのケアをするために、約1300人の看護師が働いています。

看護師の仕事は間違いがあってはならない仕事。投薬や注射、点滴などの医療行為は、当然のことながら、少しのミスも許されません。また、多数の入院患者のいる病院では感染予防など手順の徹底も重要です。

一方で、正解のない仕事でもあります。看護師が向き合う人びとは患者である前にひとりの人間。一人ひとりの回復への意欲や、自ら治ろうとする力、自然治癒力を引き出すのもまた看護師の役目です。そのためには、患者やその家族から、言葉にならない要望までも丁寧に汲み取っていくことが求められます。そこには絶対的な正解はありません。容体も刻々と変わるため、常に見守りながら臨機応変に対応しなくてはならない難しさがあります。

確かな知識や技術はもちろん、患者の求めるものに気づく感性や倫理観まで求められる看護師は、日々の現場でどのように学んでいるのでしょうか。

東大病院看護部がめざす看護は「みて、触れて、考える看護」。胃や食道、腸などの消化管の病気を扱う消化器内科の入院棟で働く副看護師長、久保田美穂さんと、新人看護師、石川歩さんに、お話を伺いました。

看護師の新人研修とは

看護師になるには、看護系大学、看護系短大、看護専門学校などで学び、看護師国家試験に合格した後、病院に就職するのが一般的です。石川さんは大学4 年生の夏に就職試験を受け内定、2014年2月に看護師国家資格を得て、4月から東大病院に入職しました。同期は約150 名です。

配属先は入職初日に伝えられ、新人は1週間の全体研修で、院内見学や病院の理念や機能、基本的な看護技術の研修を受け、その後1週間の病棟研修で配属先の先輩について仕事の流れを学んだ後、少しずつ患者さんを受け持ちながら現場での勤務に入ります。

東大病院では、看護職としてのキャリアアップを目的として「キャリアラダーシステム」という能力開発制度を導入しています。「キャリアラダーシステム」では、レベルⅠからレベルⅣの段階があり、新人は1年間で、レベルⅠの認定を受けることが目標となっています。

各レベル認定には具体的な評価基準が設けられており、看護技術の習得や、決められた研修の受講、部署内での役割遂行、自己研鑚などの条件をクリアする必要があります。「キャリアラダーシステムを導入している病院はほかにもありますが、東大病院では、『静脈注射を行う手順はこのように……』など細かいところまで明確な評価基準が整っています」と副看護師長の久保田さん。

キャリアラダーのレベルⅠ認定に必要な看護技術や知識に関する研修は3回にわたって行われます。石川さんは研修について「点滴の機械操作の仕方、床ずれになりにくいマットレスの選び方、清潔を保つ動作など、臨床ですぐに活かせる実務的なテーマを扱ったものが多く、とてもためになっています」と話します。

新人1人に先輩2人

おふたりが所属する病棟には、入院患者44人に対して、30人の看護師が勤務しています。そのうち、2014 年度4月採用者は、石川さんを含めた新卒4人、既卒2 人の6人。病棟には比較的在職年数の短い看護師が多く、3 年目未満の看護師が15人、4 ~10年目までが14人、10 年以上のベテラン看護師が5人といった構成です。

現場では1年間、新人1人に対し身近な先輩としてサポートするプリセプター1人と指導役のエルダー1人がつき、成長を見守ります。エルダーはプリセプターの支援者でもあります。

石川さんのプリセプターは4年目、エルダーは5 年目の先輩。「最初はエルダーさんと一緒に勤務し、振り返りなどを行っていましたが、今はプリセプターさんと月ごとの目標設定や振り返りをやっています。おふたりは気軽に相談に乗っていただける心強い存在です」(石川さん)

病棟での看護体制は、入院患者22人に対し、15人の決まったメンバーで勤務を回していくチーム制です。同時に、患者1人につき1人の看護師が担当となり、看護師が責任を持って看護計画(ケアプラン)を考える、担当看護師制(プライマリー・ナーシング)も採っています。各看護師が受け持つ患者さん(プライマリー)は1~3人です。

看護計画とは、患者一人ひとりの看護目標や処置計画を記したもの。患者にとって今、何が問題なのか、その問題を解決するためにどうすればいいのか、担当看護師が考えて立案します。新人の石川さんも9月から担当患者を持つようになり、プリセプターと共に、自分で看護計画を作成。週に1度、看護計画についてのアセスメント(評価)を行う際にも、担当する患者の床ずれの対応や家族の支援などについてプリセプターのアドバイスを受けています。

「プリセプターがかかわることで、新人は『いつも誰かが見ていてくれている』という安心感を持つことができます」(久保田さん)

多くの先輩たちから学ぶ

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