J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2015年02月号

OPINION 日本人派遣者が現地で評価されるには 英語力+コミュニケーション力を改めて考え直す

グローバル競争が激化し、ビジネスパーソンにとって語学力が必須のスキルと言われるようになって久しい。
しかし、実際には今も語学力不足に起因するさまざまな問題が発生し、日本企業の国際競争力を低下させている。
なぜ英語やコミュニケーション力に注力しなければならないのか。

白木三秀( しらき みつひで)氏
国士舘大学政経学部助教授・教授を経て、1999年4月より早稲田大学政治経済学部教授。博士(経済学)。2005年よりトランスナショナルHRM研究所所長を務め、他にも日本労務学会会長、国際ビジネス研究学会常任理事等を
兼務。専門は、社会政策、人的資源管理論。最近の著書として『グローバル・マネジャーの育成と評価』(早稲田大学出版部、2014年)などがある。

[取材・文]=井戸沼尚也 [写真]=編集部

急増する日本人派遣者の問題

 

2000 年以降、日本国内の経済は発展しなかったが、日本企業の海外直接投資は急増した。特にアジアへの投資はリーマンショック後の落ち込みも少なく、ほぼコンスタントに伸びている。

それに伴って、現地民間企業に勤務する日本人も急増。2000 年当時は約16万人だったが、2012 年の時点で26万人を突破し、10万人も増えている。その中には現地採用の日本人や外資系企業に勤める日本人も含まれているが、多くは日本人派遣者である。

日本人派遣者は、現地法人の経営(トップ・マネジメント)や現地スタッフのマネジメント(部長や課長クラスのミドル・マネジメント)を行うために派遣されているが、「現地で十分にパフォーマンスを発揮できない」「現地スタッフとコミュニケーションがとれない」などの問題が起きていることが、調査で明らかになっている。

これにはさまざまな原因が考えられるが、日本人の「英語を中心とした語学力が不足していること」も大きな理由のひとつと考えられる。

調査を行った研究プロジェクトは、文部科学省「専門職大学院等における高度専門職業人養成教育推進プログラム」のひとつとして2008 年に選定され、2010年まで継続した「海外経営専門職人財養成プログラム早稲田大学コンソシーアム」である。

このプログラムを通して2008年度に中国、2009年度にはASEANとインドを対象に、日本人派遣者調査、日系企業における現地スタッフ調査(上司が日本人派遣者である場合/上司が現地国籍である場合)の計3 種の調査を実施した。調査内容は日本人グローバル・マネジャーの特徴、ローカル・スタッフからの評価などで、調査対象は日本人派遣者880人、現地スタッフ2192人に及んだ。

派遣者に必要なコンピテンシー

本研究では経団連が提示したコンピテンシーリストを用い、海外赴任者が62 項目について自分にどの程度当てはまるかを回答。そこから海外赴任に求められるコンピテンシーとして4つの因子を抽出した。

①経営手腕

②PM(パフォーマンス・メンテナンス)リーダーシップ

③行動の柔軟性

④現地文化に対するリテラシー

これらのコンピテンシーとパフォーマンスの関係は、職位によって異なる。例えば、トップ・マネジメントがパフォーマンスを上げるうえで特に重要なのは①と②である。

トップ・マネジメントに経営手腕が必要なのは当然として、PMリーダーシップについては少し説明が必要だろう。リーダーシップにはパフォーマンスを重視するタイプとメンテナンスを重視する対応があり、どちらのタイプが重要かは“ビジネスのライフサイクル”によって異なる。

つまり、まだ事業を立ち上げたばかりの状態であれば“自ら結果を出し、周囲を引っ張っていくパフォーマンス型リーダーシップ”が適しているし、事業が軌道に乗っている状態では“集団をまとめるメンテナンス型リーダーシップ”が適している。

本来は両方を兼ね備えたタイプが理想だが、現実にはなかなかそうはいかない。そこで研究では、能力によってタイプ分けを行っている。どちらかと言えばパフォーマンス色が強いラージP・スモールm 型(Pmタイプ)、よりメンテナンス色が強いスモールp・ラージM型(pMタイプ)などだ。

トップ・マネジメントも当然、語学力が必要になるが、通訳をつければ問題はないという場合も少なくない。だが、ミドル・マネジメントの場合、どのタイプであれ、パフォーマンスを上げるにはトップ以上に語学力が不可欠だ。ミドル・マネジメントは現地のスタッフと接する機会が多く、直接会話するための高い語学力やコミュニケーション能力が欠かせない。ミドルに求められるコンピテンシーは③の「行動の柔軟性」と、④の「現地文化に対するリテラシー」だ。④を満たすためにも、高いレベルの語学力が必要になる。

日本人ミドル層の評価の現実

注目したいのは、日本人ミドル・マネジメントに対する現地の直属の部下の評価である。調査では、業務遂行能力、情報発信、異文化理解など58 項目について、日本人マネジメントと現地マネジメントを部下から評価してもらい、それを比較した。その結果、「日本人ミドル・マネジメントが現地ミドル・マネジメントより高く評価される項目は、ほとんどない」という非常にショッキングな結果となっている。

反対に、日本人ミドル・マネジメントが現地ミドル・マネジメントより低く評価される項目は、45に及んだ。

特に評価が低かった“ボトム3”は、「現地の商習慣をよく理解している」「現地の文化や風俗習慣を理解している」「現地語を熱心に勉強している」だった。要するに、派遣先の言語や習慣に対する関心の低さが問題となっているのである。

自国の文化や言語に理解を示そうとしない人物と共に仕事をしたいと思う者はいない。外資の海外本社から人材が日本に派遣されてきて自分の上司になった場合を想像してほしい。その上司が日本のことに全く関心を持たず、日本の食べ物を食べようとせず、挨拶程度の日本語すら話そうとしない──そんな上司と仕事をすることになったら、あなたはどう感じるだろうか。

日本企業の多くは1960 年代にASEANに進出している。つまり、現地各国には日本の業務オペレーションを導入して50年の歴史があるということだ。導入当初に現地で新人として入社した人材はもう定年を迎える時期である。日本のオペレーションに習熟した人材が十分に育っているのは言うまでもない。

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