J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2013年04月号

Opinion 1 マインドセットは変えられる 舞台づくりと適切な評価で シニアの意欲を刺激する

高年齢者雇用安定法の改正により法律で雇用が維持されることに安住し、
自己を高める意欲を失うシニアたち。企業からは、彼らへの対応を懸念する声が聞こえてくる。
だが問題はシニアの心の持ちようだけではない。
彼らの意欲をそぐ原因は企業の体質にもあった。
シニアが積み上げてきた能力を企業の力へと転化させるには――。
これまで、シニアのマインドセットやシニア雇用の実態について、
100名以上のインタビュー経験を持つNTTデータ経営研究所の加藤真由美氏に聞いた。

加藤 真由美( かとう まゆみ)氏
日本アイ・ビー・エム、国際航業を経て現職。定量分析を含む組織風土改革、シニア・ミドル人材育成、ダイバーシティ・65歳雇用延長関連コンサルテーションなどを手がける。社団法人産業カウンセラー協会認定「産業カウンセラー」、NPO生涯学習認定「キャリア・コンサルタント」としても活躍。
[取材・文]=髙橋真弓 [写真]=NTTデータ経営研究所、株式会社いろどり 提供

働きぶりを反映した処遇でやる気を引き出す

高度経済成長期、退職後の人生は10 ~ 15 年程度だった。しかし、現在の男性の平均寿命は79.44歳、女性は85.90歳※1。60歳で定年を迎えれば未就労期間は20 ~ 25 年に及ぶ。さらに、2050年の男性の平均寿命は84.46歳、女性は91.38歳※2と予測され、60歳定年なら未就労期間は25 ~30年以上にもなる。

高年齢者雇用安定法の改正により2013年4月からは、定年後も、企業は原則的に希望者全員を再雇用しなければならない。「働けるうちはいつまでも働きたい」と考えるシニアは約40%にのぼり※3、再雇用を望むシニアは今後も増え続けることが予想される。だが、そこには大きな問題が横たわる。再雇用されるシニアが、必ずしもやる気や能力に溢れた人材ばかりではないということだ。

定年退職後の働き方の選択に関する調査結果によると、退職後に働く時の共通意識として、5つの因子が潜んでいるという(図表)。①、②は言葉通りだが、③の「取引」とは、再雇用により働く条件を低下させた会社側と、自分の働き方のバランスをとる意識である。また、④の「気遣いと気詰まり」は、再雇用されたものの安定した雇用継続を希望するあまり、周囲にやや過剰に気遣い、保守的な姿勢が現れること。さらに⑤の「合理性の追求」は、「給与や労働条件が低下しても仕事は頑張らなければいけない」という労働者としての美意識が薄れ、働く条件・対価と、自分が上げるべき成果の均衡を追求した姿勢だ。

加えて、自分の健康・生活と仕事とのバランスをとり、「無理をしたくない」という気持ちがより強くなる。こうした結果からも、再雇用者のモチベーションを維持させるのは容易ではないことがわかる。さらに、企業の側にも問題がある。60歳以上の同一賃金、一律処遇だ。再雇用者は定年前のような昇進や昇給制度から離れ、一度決まった処遇内容が継続されるケースが多い。だが、「体力・意欲・知識・技術」は、歳を重ねれば重ねるほど個人差が大きくなる。その差を無視し、待遇を一律化すれば、能力・やる気があるシニアのモチベーションをも下げてしまう。60歳以上にも、働きぶりをしっかりと反映した給与基準を適用すべきだと私は考えている。

“普通の人”が活躍できる舞台づくり

いわゆる“2・6・2”の法則からいえば、上位2割の人は年齢に関係なく、自分を生かす舞台を自らつくることができる。しかし、平均的な6割の人を生かすには、活躍できる舞台を与え、出番を増やしてあげることが必要だ。これは人事・人材開発部門の役割である。

私が最近読んだ『生涯現役社会のつくり方』(横石知二/著)という本に、そんな“舞台”をつくるためのヒントがあった。過疎化・高齢化が進む徳島県上勝町で、料理のツマモノとして使われる葉っぱや花などを育てて出荷する、おばあちゃんたちの“葉っぱビジネス”。高年齢者が率先して行動し、活躍できる環境がつくられた背景やノウハウが載っている。この本の中で、人間を元気にする要素として“出番”“評価”“自信”の 3つが出てくる。おばあちゃんたちはパソコンを使い、自ら需要を予測し、どんな葉っぱが求められているかをマーケティングしながら収穫する。月100万円以上を稼ぐ人もいるそうだ。さらに、本の著者であり、葉っぱビジネスを興した横石氏は、毎日のようにおばあちゃんたちにファックスを送る。仕事ぶりを褒めたり、励ましたりする手書きの文章やイラストで、“ラブレター”と呼ばれている。ここで見えてくるのは、おばあちゃんたちには活躍する場があり、仕事ぶりが正当に評価され、それが次の意欲につながるという循環だ。

ならば、企業で“舞台”をつくるにはどうすれば良いのか?人事領域では、「自社の既存ビジネスを分析し、シニアの職域を拡大していく」方法と、「高年齢者の視点を取り入れた新規ビジネスの開拓」の2つが考えられる。もっともこれは、人事部だけで考えようとせず、経営戦略を担当する部門と連携して対応していくことが不可欠だ。具体的には、今やっている仕事を細分化し、ワークシェアリングのような形を構築する。それまで1つの大きなタスクとして捉えていた業務を細分化し、個々の能力によって与えるセルの大きさを変えていく。そしてそのセルの大きさによって給与を支払うのだ。

ある百貨店の実例では、それまで管理職に就いていたシニア社員が再雇用を機に接客業務に戻り、店頭に立つようになると、「安心感が持てる」と同世代の買い物客に好評だったという。シニア社員が持つ熟練の対応や言葉遣い、気配りといったスキルがうまく活用された例だ。全ての産業に適用できるものではないが、サービス業では実効性のある方法として、今後、拡大していくだろう。

シニアを生かすための「人員構成」と「働く場」

既存・新規ともにシニアの職域を開発する際に工夫すべきことが、「人員構成」と「働く場」である。まず、「人員構成」には3つのパターンが考えられる。1つが、若手と高年齢者をミックスした構成だ。しかし、これを確立するには多少時間を要する。シニアと若手の双方が世代の違いを認識し、それぞれが持つ良さを引き出し合いながら、業務を一緒に遂行していくという意識改革と風土づくりが必要だからだ。

2つめが、グループや会社をシニア人材だけで構成するパターン。シニアを対象にしたビジネスを、シニアだけで利益を追求して行う。私自身、これが最も現実的ではないかと考えている。高年齢者が消費の中心となるこれからの日本において、このスタイルの確立は期待が持てる。

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