J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2013年08月号

TOPIC ASTDレポート2013 世界から人が集うことで生まれる学びの“相乗効果”

中村 文子(なかむら あやこ)
ダイナミックヒューマンキャピタル株式会社代表取締役、The Bob Pike Group マスタートレーナー。P&G、ヒルトンホテルで人材育成・組織開発に携わり、2005年より現職。ボブ・パイクのメソッドを用いたトレーナー養成、研修内製化支援、プレゼンテーションスキル、ファシリテーションスキルを専門としている。ボブ・パイク氏を含め世界で5名だけのマスタートレーナー認定を受けている。Twitter、Facebookともに、IDはayakonm。

情報以上の刺激とネットワーク

毎年開催されるASTD(AmericanSociety for Training and Development:米国人材開発機構)のInternational Conference & Exposition(以下ASTD-ICE)が、今年はテキサス州ダラスにて、5月19~22日に開催された。今回で69回目となるこのASTD最大のイベントに、今年は世界中から約9,000名が参加、うち海外(アメリカ以外)からは87カ国から2,200名が参集した。参加者の多かった国は、1位 韓国(387名)2位 カナダ(235名)3位 中国(172名)4位 日本(128名)5位 ブラジル(124名)である。この順位は昨年と全く同じで、韓国からの参加者数は私の知る限りここ数年来トップである。日本からの参加は、ASTDの日本支部にあたるグローバルネットワークジャパンが発足した2008年の264名が最多だったが、その後減少し、ここ2~3年はほぼ現在と変わらない。ASTD-ICEでは毎年メインテーマが設定されているが、今年は、『Content, Community, Global Perspectives(学びの内容、人の集まり、グローバルな視点)』。このテーマ通り、各分野における第一人者がスピーカーとして名を連ねるASTD-ICEは、「学びの内容」の質も他に例を見ないほど高いといって過言ではないであろう。たとえば、今年とても印象的だった1コマに、ケン・ブランチャード氏、マーシャル・ゴールドスミス氏、スティーブン・コヴィー氏(『7つの習慣』のコヴィー氏の子息)が参加してのパネルディスカッションがあった。この3人が並んでいる姿に、シャッターの嵐が止まらなかったのは全く不思議ではない。さらに、そこにさまざまな国から人々が集まり、交流することによって、その学びに相乗効果を生む。9,000名もの参加者と場を共有することで、その交流から生まれる可能性やエネルギーは、非常に刺激的だった。「情報を得る」ためだけであれば、今の時代、わざわざ参加しなくても、方法はいくらでもある。「情報」だけではない大きな収穫や刺激があるからこそ、毎年参加する価値がある、と私自身も強く感じている。今年のASTD-ICEのメインテーマは、それを端的に表現しているのではないだろうか。

今年注目の3大テーマ

ASTD-ICEの4日間で300を超えるセッションが開催されるが、その基本構成を紹介する。初日は、午前中に初めての参加者向けのオリエンテーションなどがあり、昼頃からセッションがスタートする。各セッションは75~90分で、この日のセッションは、各自が選んで参加するものばかりである。2日目と3日目の朝は、ASTDのCEOやプレジデントによるスピーチの後、基調講演がある。それが終わると、初日と同じように選択式のセッションが続く。2日目の基調講演後には展示会場もオープンし、各出展社がブースや併設会場で行うセッションなども始まる。休憩時間や昼食時間などに展示会場に行き、ブースを見て回ることができる。最終日の4日目は、朝から選択式のセッションがあり、最後が基調講演で終了する。セッション数が多いため、ASTDICEでは、自分の興味・関心に合ったものを選びやすいように、テーマによってトラックに分類されている。今年設定されていた主要トラックは、以下の8つである。・Career Development ̶キャリア開発・Designing & Facilitating Learning̶ 学びのデザイン(設計)とファシリテーション・Global Human Resource Development̶ グローバルHR開発(グローバル化、ダイバーシティ、など)・Human Capital ̶ ヒューマンキャピタル(コーチング、メンタリング、パフォーマンス改善、変革推進、タレントマネジメントなど)・Leadership Development ̶リーダーシップ開発・Learning Technologies ̶ ラーニング・テクノロジー・Measurement, Evaluation, ROI̶ 効果測定、評価、ROI・Workforce Development ̶ 部下・メンバーの育成(ラインマネジャーなど人材育成を本務としていない人による部下・メンバー育成の戦略、成功事例、ツールなど)私が参加したセッションについては後述するが、全体的に見て、今年特に気になったのは、以下の3点である。

1.モバイルラーニングの勢い

3年ほど前から、ASTDのプレジデント兼CEOであるトニー・ビンガム氏のメッセージは、一貫してソーシャルメディアやモバイルを活用しようというもの。学びの場は「教室」だけではなく、テクノロジーを活用することで、利便性、効果性、効率、さまざまな面で飛躍的に良くすることができるからだ。成功している企業の事例なども紹介された。後述するミレニアム世代(2000年以降に成人になった、幼い時から携帯電話などが身の回りにある環境で育った世代)は、タブレットやスマートフォンなどのモバイル機器を使って電子書籍を読んだり、オンラインで何かを学んだりすることに抵抗はないどころか、そのほうが受け入れられやすい現実もある。ゲーミフィケーションも、2~3年前から積極的に紹介されるようになったが、同じ流れにあると感じる。これまでは、「こういう流れがあるから、乗り遅れないようにしよう!」というメッセージだったが、今年は、有名予備校のCMのような「いつやるの?今でしょ!」という危機感を持ったニュアンスで伝えられていたように感じた。人事の世界で、日本とアメリカは10年、いや15年の時差があるという言葉をよく耳にするが、このトピックもそう感じる1つである。だがこれは、決して「教室」での学びの場が全てモバイルに置き換わることを意味しているわけではないだろう。むしろ、「知識提供」が主要な目的であれば、うまくモバイルを活用することで「教室」は不要になり、逆に「教室」では、そこでしかできない内容・質の学びの場を創る必要性が高まっていると言える(学びの質を高めるという観点については後述)。

3.ミレニアム世代

2000年以降に成人になったミレニアム世代であるが、この世代は、これまでの世代とさまざまな点で異なる。モバイルラーニングのところで述べたように学び方も違うし、価値観・仕事観の違い、学習に対する考え方の違いなど、もっと深いところまでの考察が求められている。だからこそ、企業がこの世代の成長をサポートし、活躍してもらえることが、組織としての成功要因の1つになってきている。一方で、現在組織のトップの地位にある世代が一気に退職する時期に来ている。そのため、タレントマネジメントやリーダーシップ開発の必要性が叫ばれ続けている。今回複数の場で耳にした「リバースメンタリング」という言葉も新しい。一般的な、年長者から若者へ行うメンタリングの逆で、若い世代が年長者をメンタリングするというものである。組織における世代交代が進み、若手の台頭と共に部下が年長者であるケースが増えているためであろう。

基調講演で才能を考える

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