J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2013年08月号

Opinion 2 必要なのはリーダーシップ教育 自ら考え判断し行動する経験を与え 抱え込ませない配慮をせよ

就職氷河期世代の新任マネジャーは、後輩を指導した経験が少ない。にもかかわらず、短期の成果を求められている。こうした環境に置かれた新任マネジャーは何をすればいいのか。また、そうした新任マネジャーを支えるために、人材開発部門は、どのような支援を行えばよいのだろうか。
 ASTD日本支部理事兼リーダーシップ開発委員会委員長を務め、『マネジャーになってしまったら読む本』の著者でもある永禮弘之氏に聞いた。

永禮 弘之(ながれ ひろゆき)氏
化学会社の営業・営業企画・経営企画、外資系コンサルティング会社のコンサルタント、衛星放送会社の経営企画部長・事業開発部長、組織変革コンサルティング会社の取締役などを経て現在に至る。建設、化学、自動車、電機、小売、ホテルなど幅広い業界の企業に対し、10,000人以上の経営幹部、若手リーダーの育成を支援。ASTD日本支部理事、リーダーシップ開発委員会委員長も務める。著書に『マネジャーになってしまったら読む本』(ダイヤモンド社)、『ビジネススクールで身につける 問題発見力と解決力』(共著、日本経済新聞社)等、連載には『日経ビジネスアソシエ』の「MBA講座」などがある。

[取材・文]=赤堀 たか子 [写真]=本誌編集部

マネジャーに必要なのは「自分の軸」を持つこと

マネジャーの役割を端的に言えば、「チームの成果をコンスタントに上げ続けること」。そしてそれは、「部下の仕事を通じて成し遂げる」ものである。そこで新任マネジャーが考えるのが、“どうすれば部下と信頼を築き、部下が仕事の成果を上げてくれるか”だ。しかし、それは簡単なことではない。たとえば、マネジャーになると「部下に信頼されるためには、部下より仕事ができなければならない」と考えがちだが、未経験の部署に配属されれば、実務に関する知識や経験は部下のほうが豊富である。そうした中、仕事の遂行能力で部下に頼られることは難しいだろう。同様に「指導力が必要だ」と考えても、年上の部下が相手だと、指導はおろか接し方さえわからない。さらに――これは、プレイヤーとして優秀だった人に多い発想だが――自分のやり方を部下に押しつけてしまう人もいる。そうなると、部下の反発を買うか、単なるイエスマンを生み出すだけになってしまう。

人はマネジャーになると、とかくリーダーシップを発揮して、部下を統率しなければ、と思いがちだ。その時イメージするリーダー像は、戦国武将や維新の志士といった歴史上の偉人たち。そんな偉人と自分を比べ、「自分はリーダーに向いていないのでは」と不安になってしまう。しかし、マネジャーとして経験の浅い人が、いきなり歴史上の偉人のように強く頼りがいのある人になれるわけがない。であれば、新任マネジャーは何をすればよいのだろうか。まずは、仕事をするうえでの「自分の軸を持つ」ことが大事だ。自分の軸とは、大切にしている価値観やめざしている理想、仕事の目標であり、判断や行動の拠りどころとなる。しっかりとした軸を持った上司は、複雑な状況や困難な局面においても判断や行動がブレない。それが部下の信頼を高める土台となる。

まずは「できること」を広げていく

自分の軸を持つために必要なのは、「自分で考えて判断し行動し、その結果から学んでいくこと」、言い換えれば、「自立」と「自律」である。

人が学習するのは、7割が経験、2割が人との関係、残り1割が研修などの勉強からといわれている。つまり、マネジメントスキルや知識だけを増やしたところで、経験がなければ自分の軸は育たないのだ。とはいえ、“自分で考えて行動しろ”と言われても、どこから始めればいいのかわからないだろう。そこで新任マネジャーがまず行うべきは、「自分ができること」を増やしていくこと。いくらやる気があり、責任感が強くても、できることが限られていれば成果は上げられない。であれば、今できることから始め、それを徐々に広げていくほうが現実的だ(図表)。できることが増えれば、達成感、充実感が得られ、その仕事をやりたいという意欲も強まっていく。仕事に対する意欲が高まれば、その仕事が自分の使命だと思うようにもなる。「できること」が「やりたいこと」になり、さらに「やるべきこと」になるというサイクルが回り、それぞれの要素が拡大していけば、おのずと価値観や職業観といった自分の軸が育まれていく。なお、このプロセスは、マネジャーが部下を育成する際にも取り入れることができる。

部下を育成するには、現時点の能力や経験を踏まえ、どの人がどういう順番でどんな仕事を任されれば能力が伸びていくかを考えながら仕事を割り振る必要がある。部下にとっても、「できること」→「やりたいこと」→「やるべきこと」のサイクルを経験することが重要で、この好循環を埋め込むように仕事のデザインをするのはマネジャーの役割だ。そのためには部下を観察し、一人ひとりの意欲、能力や経験を押さえてほしい。仕事を任せる際には、どこからが要相談かといった権限委譲のルールを明確にしておく。さらに、「問題があればいつでも相談に乗るよ」という姿勢を示すことも大切だ。

インストール型研修では学習効果が限られる

では、新任マネジャーがこうした役割を果たしながら成長していくために、会社はどのようなサポートや環境づくりをすべきだろうか。まず、会社が取るべきスタンスは、“短期的な成果を性急に求めない”こと。自分の軸を固めるには、失敗も含め、さまざまな経験を重ねる必要がある。それには時間もかかる。会社は長い目で新任マネジャーの育成を考えることが肝心で、失敗を許容する風土が大切だろう。失敗をあげつらってばかりでは、新任マネジャーは萎縮してしまい、伸びる芽も伸びなくなってしまう。ただし、上司による評価はしっかり行わなければならない。「できていること」「できていないこと」を実績で示し、それに基づき、現時点での評価を行う。さらに、こうした「査定のための評価」とは別に「育成のためのフィードバック」も重要だ。査定が仕事の成果に対するフィードバックであるのに対し、育成のフィードバックは、今後どんな要素を伸ばしていくかという、将来に向けた成長機会に焦点を当てるものだ。日本企業の場合、査定のフィードバックと育成のフィードバックを同時に行うか、後者を行わないケースが多い。しかし、人が、そしてマネジャーが成長するには、育成のフィードバックは欠かせないものだ。

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