OPINION1 自社に合った人材を定義し関係を築く スカウト型採用時代の「ブルーオーシャン戦略」 曽和利光氏 人材研究所 代表/人事コンサルタント
曽和利光氏
スカウトメディアの利用にエントリーシートの廃止、AI 面接の導入と、採用活動は新たなスタンダードが確立されつつあるが、やり方が変わっただけと捉えてはいないだろうか。
人事コンサルタントの曽和利光氏は、「その発想は実に危うい」と警鐘を鳴らす。
深刻な労働力不足により企業と求職者の立場が逆転する今、真に問われるのは手法の更新ではなく、企業側の意識改革だ。
スカウト型から良き出会いを生み、関係性を深めるための「新常識」を伺った。
[取材・文]=たなべ やすこ [写真]=曽和利光氏提供
市場の変化は採用の仕方をどう大きく変えたのか
受付開始と同時に満員になる説明会に、質問の意図を疑うエントリーシート(ES)、書類選考やグループワークを通過し、ようやく面接にこぎつけたと思ったら、面接官の高圧的な態度に辟易……。こんな就活がまかり通っていたころが懐かしい。
効率(タイパ)や合理性を重視し、共感を求める今の学生や若者に、採用する企業側の都合は通じない。採用活動の変化の根底には、10年ほど前から続く慢性的で深刻な労働力不足があると、人材研究所代表の曽和利光氏は指摘する。
「ご存じのとおり、空前の超売り手市場の今、顕著なのは求職者の行動量の低下です」(曽和氏、以下同)
就職難とされた就職氷河期やリーマンショック期には、新卒で説明会に100社以上エントリーし、本選考の応募は30社ほど、1、2社からようやく内定をもらえる具合だった。それが、エントリーは30社ほど、本選考は10社で、内定は2、3社という高打率が今どきの就活だ。そこから就職先を1つに絞るのだから、内定辞退率は60%に跳ね上がっている。
加えて学生が自分からアプローチするのは「エントリーしてでも行きたい会社」であり、それは100名程度の採用予定に1万以上の応募が殺到するような、人気企業ランキングで上位の大手に限られる。
企業は「新卒が採れなければ中途を」と考えがちだが、その採用倍率も学部新卒を上回っている。かつて中途採用は欠員補充の位置づけだった大手も、中途を積極的に採る時代である。中小企業は即戦力を期待し中途に比重を置く傾向にあったが、中途も“レッドオーシャン化”してしまった。そこで昨今、多くの企業で取り入れているのがスカウト型の採用形態だ。自社の採用要件に見合う人材(候補者)を探し、採用担当やリクルーターが個別に接触を図る。スカウトメディアの登録者にメールを送り、本選考より先にカジュアル面談で関心を誘う手法は定番となった。ほしい人材に効率よく出会えることもあり、採用活動の主流となりつつある。
「しかし問題は、求人票や説明会で募るオーディション型採用の感覚のまま、スカウト型採用を行う企業が少なくないことです。フォーマットを変えただけで、採用難が解決するわけではありません」
企業と求職者の立場逆転による3つのアップデート
旧来からの採用手法が“待ち”ならば、スカウト型は“攻め”だ。曽和氏はこの転換に向け、3つのアップデートが鍵と説く。
①志望動機を採用基準にしない
候補者は会社からスカウトを受けるまで、関心がないに等しい。
「オーディション型からスカウト型への移行では、企業と求職者の立場の逆転が起こっています。候補者との関係づくりは、志望動機ゼロからのスタートなんです」
すなわち、面接で志望動機を問うこと自体が矛盾する。ましてや、この質問で入社に対する本気度を確かめるのは、候補者の心理とまるで噛み合わない。
「候補者の志望度は企業側が高めていくもの。接触を通じて働く魅力を伝え、徐々に動機づけを図っていく必要があります」
②採用ターゲットをずらす
求人倍率が高いのは、少ない候補者を企業間で奪い合っている状況だからである。求職者に人気の企業とターゲットが重なれば、獲得難度は一気に高まる。自社に待遇面以外でよほどの魅力がない限り、競り負けしてしまうのが関の山だ。
そこで曽和氏が提案するのは、採用の「ブルーオーシャン戦略」である。詳しくは後述するが、ターゲットど真ん中から焦点をずらし、競争の激しくないところで候補者を見つけ出す。
「文系だと経済学部や経営学部、理系では理工学部や情報工学の出身者が人気です。でもポテンシャルでいえば、文学部や教育学部、理学部や農学部の学生だってそう変わりはないはず。ライバル企業が狙わない層にあえてアプローチするのです」
新卒に限らず、キャリア採用でも未経験者や地方勤務者、定年引き上げが議論となる昨今は、氷河期世代も対象に十分なり得る。

