OPINION4 混沌から編み込む価値創造アプローチ “わからなさ”をデザインするクリエイティブファシリテーションのすすめ AKI(野口正明)氏 とんがりチーム研究所主宰/未来創発デザイナー

会議の場で本音が言えない、当たり障りのない意見や結論に終始してしまう―
こんな状況は誰しも経験したことがあるだろう。
型どおりのファシリテーションでは解決しえない、見えない本質がある。
ではどうすれば、このような状況を打破できるのだろう。
問題の本質を解きほぐし、新たな可能性を創発する“クリエイティブファシリテーション”を提唱する、組織開発コンサルタントのAKI(野口正明)氏に話を聞いた。
[取材・文]=長岡萌以 [写真]=AKI氏提供
“わからなさ”への対峙が鍵
ファシリテーターの役割には、どのような印象があるだろう。「わかりやすく議論を進める」、「参加者間の関係性をスムーズに保つ」、「時間内に結論まで出す」―― これらはいずれも間違いではない。一方で、こうしたアプローチだけでは限界があることを感じている人も多いだろう。
「結果的に、出てくる意見が浅い、狭い、ばらばら、になってしまう―― ファシリテーターの呪縛が、そこにあるのではないでしょうか」
そう語るのは、組織開発コンサルタントで、「新たな可能性を創発するプロセス」を促す“クリエイティブファシリテーション”を提唱するAKI(野口正明)氏だ。
実際、ファシリテーションを実践するうえでの困難さに関する研究※によると、「意図した方向に議論が進まない」「参加者の意見を引き出せない」「創発的な議論を起こせない」といった課題が生じているという。
「議題の定義も解決方法もわかっている問題や、複雑だが最適解は存在しうる問題であれば、これまでのファシリテーションでも対応できたでしょう。しかし、何がどうなれば解決といえるのかもわからない『厄介な問題』=Wicked Problemにおいては、この手法では対応しきれません」
VUCAとよばれる現代においては、この『厄介な問題』は避けてとおれない。しかし、この“わからなさ”への対峙を避けていることが、ファシリテーションが機能しない真因ではないかとAKI氏は言う。穏便な空気を保ったまま時間内に会議を終わらせるために、真因を深掘りせず結論を出してしまう状態、と考えれば想像がつくだろう。
そこでAKI氏が提唱するのが、クリエイティブファシリテーションだ。
「私はこれを『問題を複雑なまま捉えて“わからなさ”を大切にしながら問題の本質を解きほぐし新たな可能性を創発するプロセス』と定義しています」
AKI氏がこの考え方に至った原点には、18年前に行った、ある企業の風土改革支援があった。当時所属していたコンサルティング会社では、日常の役割や立場に縛られない気軽でまじめな雑談を重視していたため、担当企業に対し、3年かけて、2000名超の社員を対象に全国で対話を広げていった。
「衝撃だったのは、経営幹部への最終報告時に、『ここから先は事業戦略の話なので、以上で結構です』と告げられ、その瞬間にすべてが終了したことでした。価値創造支援のつもりが、お客様にはまったくそう思われていなかったのだと実感しました」
「関係性の質」向上には十分な貢献ができたものの、それはあくまで土台。組織の価値創造につながらなければ意味がないことを骨身に染みて痛感したという。
「その経験以降、『創造性の質』向上を伴わない支援は絶対にしないと誓い、試行錯誤してきました」