「変革」と「グローバル」を柱に 成長を続けるマインドセットを醸成 鮫島 光氏 テルモ 代表取締役社長CEO

100年を超える歴史を持つ大手医療機器メーカー、テルモ。
成長を続ける同社に欠かせないのが、世界3万人を超えるアソシエイト(社員)である。
同社では、どのような戦略を描き、人財の能力を引き出しているのか。
2024年に代表取締役社長CEOに就任した鮫島光氏に話を聞いた。
[取材・文]=村上 敬 [写真]=山下裕之

キーワードは「変革」と「グローバル」
―― 2021年に創立100周年を迎えられました。業績も好調で、2025年3月期は初めて連結売上高が1兆円を超える見込みとのことです。さらに成長するための戦略を教えてください。
鮫島光氏(以下、敬称略)
テルモは「医療を通じて社会に貢献する」という企業理念や、Respect(尊重)、Integrity(誠実)、Care(ケア)、Quality(品質)、Creativity(創造力)といった5つのコアバリューズを大切にしています。それをベースに置いたうえで、中長期的なゴールとして、グローバルでトップティアカンパニーになることを目指しています。
トップティアとは、単に売り上げの大きさだけを指すのではありません。医療従事者や患者さんに信頼され、医療の発展や患者さんのQOL向上に貢献するという意味も含まれています。
そのためには、これまでやってきたことを続けながら、大胆なプラスアルファを実行していく必要があります。たとえば強固で安定的なグローバルのオペレーションを構築したり、事業部門が市場に集中できるように生産性の高いシェアードサービス部門をつくることも大切です。これらが今私の頭の中にある成長のフレームワークです。
―― トップティアになるには、どのような組織や人財が必要だと思われますか。

鮫島
成長戦略から紡ぎ出されるキーワードは「変革」と「グローバル」の2つです。まず変革からお話ししましょう。
テルモは様々なイノベーションを生み出しています。製品の薬事承認および販売状況は、国や地域により異なりますが、イノベーションの一例は、致死性の高い大動脈瘤や大動脈解離を治療するデバイス。治療には外科手術と、カテーテルを用いたステントグラフト内挿術、さらに二つを組み合わせた術式があります。大動脈の形は一人ひとり違うため、柔軟に術式を選べれば理想的です。ただ、以前はメーカーの都合で、選べる術式が限定されるケースがありました。テルモはそれらすべてに対応して、さらにデバイスを血管の形に合わせてカスタマイズできる製品を開発しました。これらの製品やサービスが評価され、24年にイギリス子会社バスクテック社は「英国王賞(企業部門)」をイノベーション部門で受賞しています。
他にも血糖管理のためのスマホアプリを開発するなどイノベーションには積極的ですが、トップティアになるためにはさらなるイノベーションが必要です。
そこで2024年度にイノベーション担当役員を新設し、その役員のもとにイノベーションに関する機能を集約しました。R&Dはもちろんのこと、知的財産の管理部門、薬事承認を取る薬事部門、DXを担うデジタルソリューションセンター、さらにスタートアップに投資するCVCまで、1人の担当役員が束ねています。これまではレポートラインがばらばらでしたが、1人の役員が見る形になれば、イノベーションの創出をより加速できるはずです。