経営・組織|スキルベース型組織 “スキル”で照らす人の力、企業の未来「スキルベース型組織」がジョブ型を回す 小野 隆氏 デロイト トーマツ グループ 執行役員 他
ジョブ型雇用を採用する日本企業は、ここ数年急速に増えている。だが、悩みもついてまわるようだ。
「職務を定義するのが難しい」「配置転換がしづらい」などである。
そこで、注目されるのが「スキルベース型組織」とよばれるマネジメントモデルだ。
どんな効果をもたらすのか。デロイト トーマツ グループの執行役員、小野隆氏、坂田省悟氏に聞いた。
[取材・文]=西川敦子 [写真]=デロイト トーマツ グループ提供
「仕事」と「人」をメッシュで捉える
2023年10月、米国ラスベガスで開催された「HR Technology Conference&Exhibition 2023」。ここで注目を浴びたキーワードが「スキルベース型組織(以下、スキルベース型)」という新しいマネジメントモデルだ。
具体的にはどんなモデルなのだろうか。デロイトトーマツグループ執行役員の小野隆氏(以下、小野氏)は、「“ジョブ型に代わる新しいシステム”といったイメージがありますが、そんなことはありません」と前置きする。
「スキルベース型は、あくまでジョブ型をスムーズに運用するためのツール。テクノロジーを駆使して、細かい粒度で業務内容を洗い出し、一人ひとりのスキルとマッチングする。欧米ではすでにユニリーバ社をはじめ、先進的な企業が活用していますが、日本でも金融系、IT系、メーカーなどが導入を検討しています」
そもそもジョブ型は“適所適材”のマネジメントとよばれる。従来のメンバーシップ型が「人に椅子をあてがう仕組み」とすれば、ジョブ型は「椅子に人をあてがう仕組み」といえるだろう。うまく回すには、ふさわしい人を椅子に座らせる必要がある。しかし、どこにどんな椅子があり、どんな人がいるかわからない状態では、運用することは難しい。
変化のスピードが速い時代だけに、ジョブ型が定着している欧米の課題感は切実だ。従業員の仕事を一定のジョブに限定していれば、次々に生じる新しい経営課題に機敏に対応できなくなる。そこで注目されたのが、一人ひとりのスキルをベースにジョブとのマッチングを行うスキルベース型だ(図1)。
このほか、注目されるようになった背景は、大きく2つあるという。
「1つめは深刻な人材不足。高度な専門性を持つ人材の獲得競争はいよいよ厳しさを増しています。獲得できない場合は、社内人材や中途採用人材をアップスキリング、リスキリングしなければならない。いずれにせよ、各ジョブの細かいタスクや個人が持つスキルを見える化する必要があります」
2つめはイノベーション創出のため、よりいっそうのコラボレーションが求められていることだ。社内外の多様なメンバーをうまく組み合わせるには、ジョブ単位ではなく、スキル単位によるきめ細かなチーム編成が求められる。
複雑化した課題、テクノロジーの進展に伴うスキルの変化、そして人材の多様化。「What(仕事)」と「Who(人)」のデータベースをもとにマッチングを行うことで、最適解を探るモデルが、スキルベース型といえるだろう(図2)。