J.H.倶楽部

無断転載ならびに複製を禁じます。なお内容は取材・掲載当時の情報です。

月刊 人材教育 2014年06月号

中原淳の学びは現場にあり! 第25回 絶対にミスが許されない職場での育成法 空の安全を守る航空管制官の学び

1日に約1200回もの離着陸がある羽田空港。約1分に1回の間隔で離着陸する航空機の交通整理をしているのが航空管制官です。航空機の安全かつ円滑な運航を支える航空管制官の仕事は、航空管制に関する知識、語学力はもちろんのこと、空間認識力、判断力、集中力など高度な能力が必要とされます。航空管制官たちは、決してミスが許されない航空管制の仕事をどのようにして学んでいるのでしょうか。航空管制官の現場での学びを取材しました。

中原 淳(Jun Nakahara, Ph.D.)

東京大学 大学総合教育研究センター准教授。著書に「職場学習論」「経営学習論」「活躍する組織人の探究」「研修開発入門」「駆け出しマネジャーの成長論」など多数。
Blog:http://www.nakahara-lab.net/blog/ Twitter ID:nakaharajun
検証現場 『羽田空港 管制保安部』

[取材・文] = 井上 佐保子 [写真] = 眞嶋 和隆

特別に取材許可をいただいてやってきたのは羽田空港の管制塔。羽田空港の管制塔は日本一高い115.7m。360度見渡せる開放的な管制室からは、空港ターミナル、4本ある滑走路はもちろんのこと、遠く富士山も東京湾も一望できます。このタワー管制室では1チーム10数名の管制官が働いています。管制官たちは常に窓の外を見ながら、ヘッドセットを使用し無線でパイロットに離着陸の指示を出したり、空港内の地上走行の指示を出したりしています。航空機は次々と離着陸し、現場には一瞬たりとも気が抜けない緊張感が漂っていました。管制官たちはチーム毎に交代制で24時間365日管制を行っています。タワー管制室では離着陸を担当する飛行場管制席、地上走行の指示を行う地上管制席、飛行計画の承認を伝える管制承認伝達席、関係部署との連絡調整を行う副管制席の4種の業務を行っています。管制の仕事は集中力が求められるため、管制官たちは40~50分毎に席を変え、業務を交替しています。タワー管制業務では1人で10~15機を担当します。管制官は便名など航空機毎の情報が書いてある「ストリップ」と呼ばれる札を順に並べ、間違いのないよう、業務を行っています。羽田空港の管制業務には、もう1つ、管制塔から空港内、空港近辺の管制業務を行うタワー管制のほかに、レーダー管制室でレーダー画面を見ながら、もう少し広い空域の航空管制を行うレーダー管制という仕事があります。レーダー管制室にはタワー管制室とは異なり、窓1つありません。その代わり黒いレーダー画面が部屋の両側にずらりと並び、管制官たちはじっと画面に見入っています。レーダー画面には上空の航空機の便名、高度、速度、進路などの情報が映し出され、管制官はそれを見ながら航空機の位置を把握し、管制間隔を設定したり、到着機の順位づけを行っています。ここでは、羽田空港担当、成田空港担当、各10名ほどの管制官が管制業務にあたっています。レーダー管制にはパイロットに指示を出すレーダー管制席と、タワーや、より広い空域を管制している航空交通管制部との連絡調整を行う調整席があり、やはり40~50分で交代しながら仕事をしています。

航空管制官になるには

絶対にミスが許されない上、非常に専門的かつ高度な技術が要求される航空管制官ですが、いったいどのようにして育成しているのでしょうか。先任航空管制官の佃健次さんにお話をお聞きしました。実は航空管制官は全員、国土交通省の職員。「航空管制官になるためには、航空管制官採用試験を受け、採用されると、大阪にある航空保安大学校に入り、航空管制官基礎研修を受講します。1年間の研修課程を無事に終えると、全国各地の空港や航空交通管制部に赴任、各官署で研修生として現場での訓練を受けます」羽田空港では新人の場合、約1~2年の現場研修期間を経て、晴れて資格を得て一人前の管制官となることができますが、研修の中心となるのが実際の業務を行いながらのOJTです。管制業務では、新人といえども、絶対にミスは許されません。そこで、OJTは、訓練生が管制業務を行う背後でトレーナーがウオッチ(つきっきりで見る)し、適宜アドバイスをしたり、このままいくと危険、といった場合はカットイン(パイロットとの交信に割り込む)したりして、仕事のやり方を実地で身につけられるようマンツーマンで行われています。取材に訪れた日も、タワー管制室では、訓練生に対するOJTが行われていました。訓練生がヘッドセットをつけて指示を出す横で、トレーナーはその指示を聞き、同じ方向を見ながら、その指示内容が適切かどうかを確認。訓練生はもちろん、トレーナーも一切気が抜けない、まさにつきっきりのOJTでした。「このOJT訓練のやり方は、管制のシステムを米軍から引き継いだ際、一緒にアメリカ方式を引き継いだもので、戦後からずっと続いています」とのこと。もちろん研修生たちは、OJTに入る前に、繰り返しシミュレーターを使っての訓練を行っていますが、やはり実際の業務はOJTでしか学べません。レーダー管制の新人訓練生、佐々木正憲さんは、シミュレーターと実機との違いについて、「学校では今のように10機以上を同時に管制することはなかったです。数が多いと、一機一機の把握が難しくなり、降下指示を出したら、他の航空機との距離が近づきそうになりカットインされたこともありました。また実機では風の影響を受けたり、なぜか航路を外れて飛んでいる航空機がいたりと想定外のことが多々起こるので、頭の中で『こうやって飛ばしたい』とイメージしていても、なかなかその通りにはいきません」と言います。現場でのOJTでは、いろいろな先輩のやり方を学べるよう、トレーナーも毎回変わります。その理由について佃さんは「管制の基本というものはもちろんあるのですが、管制官は職人的なところがあり、それぞれ自分なりの方法論を持っているので、10人いたら10通りのやり方がある。いろんな訓練監督者(トレーナー)のやり方を知ることで、自分なりのやり方を見つけてほしい」と話します。

トレーナーも訓練生に──終わらないOJT

先輩からOJT指導を受ける日々を重ね、資格が取れれば一人前の管制官となるわけですが、実はOJTはこれで終わりではなく、その後もずっと続きます。「その資格は空港限定の資格であって、勤務地が変わると、また訓練生からやり直しなんです」(佃さん)管制官は、管制のキャリアを積むため、全国各地にある空港や航空交通管制部などへ、ほぼ3~10年毎に転勤する、というのが一般的です。ところが、航空管制官の資格は各勤務地限定となっているため、管制官は勤務地が変わるたび、訓練生となって資格を取らなくてはならないのです。「もちろん管制官としての資格はあり、経験もあるので、最初の勤務地よりは数カ月程度は短い期間で資格取得ができます。ですが、空港によって違いがあるので、経験豊富なベテランであっても、初めての勤務地では必ず、訓練生としてOJTを受け、空港限定の資格を取る必要があるのです」

こちらはJ.H.倶楽部会員限定記事です。
ご入会後、続きをお読みいただけます。

残り:2,467文字

/

全文:4,933文字

【入会・年会費無料】

J.H.倶楽部は人事の仕事に役立つ特典が満載です!

  1. 総数2000本以上の人事の実務に役立つ記事(※)が閲覧可能
    ※専門誌『Learning Design』(旧『人材教育』)の記事
  2. 新サービス・お役立ち情報(調査報告書・ホワイトペーパーなど)の先行案内
  3. 会員限定セミナーへのご招待/講演動画・配布資料の閲覧
  4. 興味関心に沿った必読記事を、メールマガジンでお知らせ!