J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2014年06月号

OPINION 1 瞬間瞬間を振り返り、考える―― 「リフレクション inアクション」をOJTに組み込むには

OJT、現場の学びを通して、自ら主体的に考え行動できる人を育てるには、経験学習が不可欠である。では、OJTに経験学習を組み込むとはどういうことなのか。人が経験を振り返り、学ぶ際にポイントとなることとは。また、育て上手はどう考えさせているのか――。経験学習研究の第一人者である松尾睦教授に聞いた。

松尾 睦(まつお まこと)氏
小樽商科大学商学部卒業。北海道大学大学院文学研究科(行動科学専攻)修士課程終了。東京工業大学大学院社会理工学研究科(日本行動システム専攻)博士課程修了。英国ランカスター大学経営大学院博士課程修了、Ph.D.取得。塩野義製薬、東急総合研究所、岡山商科大学、小樽商科大学、神戸大学大学院を経て現職。著書に『学習する病院組織』(同文舘出版)他。

[取材・文]=木村 美幸 [写真]=本誌編集部

仕事中の振り返りが成長を促す

──OJTは「経験から学ぶ力」を育てる格好の機会だと思います。その学びを活かすためのポイントとは。

松尾

人が経験から学ぶプロセスについては、組織行動学者のデービッド・コルブが「経験学習サイクル」としてモデル化しています(図1)。ある経験をしたら、その内容について「本当にこれでいいのか」「もっといいやり方はないか」などと内省し、そこから得た気づきや教訓を次のアクションに活かす。この経験学習サイクルを回し続けることで、人は成長していきます。ところが同じ経験をしても、成長する人としない人がいますよね。経験からより多くを学ぶためには、「挑戦的な目標に取り組むこと」「自らの仕事ぶりを振り返ること」「仕事に意義ややりがいを感じている状態」がとても重要で、私はこの3つの要素を「ストレッチ」「リフレクション」「エンジョイメント」というワードで表しています(図2)。

──経験学習の考え方をOJTに組み込み、自ら考える人を育てるには何が重要になるでしょうか。

松尾

組織学習の研究で知られるドナルド・ショーンによると、「リフレクション(振り返り)」は、仕事中に振り返る「リフレクション in アクション」と、仕事の後に振り返る「リフレクション on アクション」の2つに分類されます。それに照らせば、「On the Job THINKING」というのは、「リフレクション in アクション」に相当すると考えられます。仕事の後の振り返りも重要ですが、仕事の最中の振り返りはさらに大切。何も考えずに惰性で仕事をしていたら、後で一生懸命に日報をつけたところで、得られる学びは限られます。これは神戸大学大学院の高橋潔教授(経営学研究科)から伺った話ですが、サッカーの世界に興味深い例があります。オランダの国内リーグは飛び抜けてレベルが高いわけではないのに、世界で活躍する選手をたくさん輩出しているんですね。実は指導法に特徴があって、練習試合中に30 秒から1分程度の短いミーティングを頻繁に挟むんです。監督が笛を吹いて試合を止め、「今、あのパスを出したのはなぜか」と問い、選手は自分の考えを言う。それに対して監督がアドバイスを与え、「なるほど。次はそうします」と選手が納得したところですぐに試合を再開。次に何かあれば、また集まって対話する。これって、まさに「リフレクション in アクション」ですよね。こうやって考えながらアクションすることは、スポーツに限らず仕事でも、パフォーマンスを上げるうえで極めて重要です。

考えさせるために必要なこと

──考えさせることの大切さは誰もが理解しているものの、実践はなかなか難しいですよね。

松尾

ええ。よく何でも「自分で考えろ!」と言う指導者がいますが、考えさせたいならその前にしっかり教えるべきです。ここ数年、優れたマネジャーを対象に「育て上手」調査を行っているのですが、そうした「育て上手」の方たちは、部下に対して仕事の意味を明確に語っている人が多いことがわかりました。「このような背景のもと、会社の状況はこうなっている。その中でうちの部門の位置づけはこうだから、次の仕事にはこういう目的がある」というように、きっちり教えたうえで「君はどう思う?」と考えさせる。仕事の意味は自分で気づくものという意見もあるでしょうが、何も教えなければ、考えるための手がかりがないのですから、考えようがありませんよね。そして、「ゴールを示す」ということも、考えさせるためには重要です。ポイントは2つあります。1つは、「目標の明確化」。向かうべき方向がなければ、何のために内省すればいいのかわかりません。もう1つは、「ロールモデルの存在」です。「あの人みたいになりたい」「ああいうふうに働けばいいんだ」というように、他人と自分を比べるからこそ、「私にはこの部分が足りないな」と考えられる。こういった「内省の基準」は、リフレクションの質を高めるために非常に重要な要素です。

──先ほどのサッカーの例では、練習中に選手を集めて「考えること」を促していましたが、企業ではどんな工夫ができるでしょう。

松尾

まず、会議のあり方を見直してはどうでしょう。一般的な会議の大半は、おそらくマネジャーの発言が大半を占めていますよね。これでは誰も考えようとしませんから、マネジャーは部下の発言を促したり、考えるためのヒントを出したりすることに徹し、メンバーの発言が8割以上になるようにする。そうすると、1人の社員の意見に対して、多彩なアドバイスやヒントが得られます。経験学習では、こういう他者からのフィードバックが重要です。自分で内省しているだけでは、どうしても限界がありますから。定期的に「振り返り」のためのミーティングを行うのもおすすめです。ある世界的な自動車部品メーカーで、「育て上手」な6人の課長に話を聞いたところ、全員が定期的な「振り返りミーティング」を実施されていました。ほとんどは週1回ですが、毎朝行っている人もいました。30分から1時間に収めているとはいえ、忙しい業務を抱えながら毎日ミーティングをするのは大変ではないかと聞くと、「忙しいからやる。毎朝すべきことが整理され、全員が効率的に動ける」という答えが返ってきました。ダメな部署は、それをやらないから悪循環に陥っているんですよね。最近、人事制度改革を実施したヤフーでも、上司と部下の間で週1回の振り返り「1 on 1ミーティング」が行われています(図3)。

──育て上手の課長の会議の進め方には、何か傾向はありますか。

松尾

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