J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2014年06月号

巻頭インタビュー 私の人材教育論 “粒ぞろいより粒違い”教育より「発育」

変貌を続ける広告業界にあって、しなやかに業容を広げてゆく博報堂。
2003年の大広、読売広告社との経営統合以降も、インターネット系広告会社を子会社化するなど、統合マーケティングや海外市場に目を向けた戦略をとってきている。
そうした中、多くの企業にとって、多様性への対応は大きな課題だが、同社はかねてより「粒ぞろいより粒違い」と謳う。
一人ひとりのクリエイティビティを磨き上げる、博報堂流の「発育術」とは。

戸田 裕一(Hirokazu Toda)氏
博報堂 代表取締役社長
生年月日 1948年11月12日
出身校 一橋大学社会学部
主な経歴
1972年 博報堂 入社
1988年 第三制作局 クリエイティブディレクター
1998年 経営管理本部経営企画室長
2000年 役員待遇 経営企画局長 
2001年 取締役 経営企画局長 株式公開準備室担当
2002年 取締役 常務執行役員 経営戦略・グループ事業統括担当
2003年 博報堂DYホールディングス 常務取締役
2005年 博報堂DYホールディングス 専務取締役 兼 読売広告社 取締役(非常勤)
2006年 博報堂DYホールディングス 代表取締役社長
2010年 博報堂DYホールディングス 代表取締役社長 兼 博報堂 代表取締役社長
現在に至る

博報堂
1895年創業。明治の広告黎明期より事業を展開する総合広告会社。「生活者発想」と「パートナー主義」をフィロソフィーに、より高い次元の統合マーケティングソリューションの提供をめざす。
資本金:358億4800万円、連結売上高:7452億1800万円(2012年4月~2013年3月、連結ベース)、従業員数:3122名(2014年4月現在、契約社員含む)

インタビュー・文/西川 敦子 写真/西山 輝彦

一人ひとりの“粒”を際立たせる現場体験

──「博報堂マン」という言い方をあまりお聞きしません。個性を大事にされている社風の表れでしょうか。

戸田

人材育成の方針として、博報堂が昔から大切にしている言葉があります。それは、「粒ぞろいより粒違い」という言葉です。

広告ビジネスでは、人を通して商品やサービスが提供されます。人と商品が一体の、いわば「人が商品」と言ってよいビジネスです。博報堂は人が資産で、一人ひとりの違った個性や、その組み合わせが最大の成果を上げます。したがって、金太郎飴のような一律な人材は不要です。理想は、一人ひとりが自分らしく生き生きと輝いていて、粒立っているような状態。こうした多様な個性が集まりチームを組めば、新しい価値が生まれてきます。最近、重視されている「ダイバーシティ」も、平たく言えば“粒違い”ということではないでしょうか。

粒違いのつくり方ですか?

まず、風土です。新人の時から、会議に出て発言しないのなら、会議に出なくていい、と鍛えられます。「自分はどう考えるのか」「自分自身は何をしたいのか」という強い思いを持てと促されます。

次に、制度です。例えば、「多段階キャリア育成制度」があります。入社4年目と7年目の社員を対象に、計画的に異動を行う仕組みです。20代のうちに3つの異なる領域の仕事をします。何と言っても現場の育成力が大きいですね。いろいろな現場で揉まれているうちに、粒が磨かれていくんです。

当社はいろいろな業界のお客様とお付き合いしていますが、特に最近は、宣伝部門ばかりがクライアントというわけではありません。多様な企業の多様な部門が当社社員たちの現場になる。もちろん、現場によってニーズも違えば、提供するサービスも違います。そうしたさまざまな現場で働かせていただくうちに、自分なりのキャリアが積まれていき、能力や個性も伸びていくのだと思います。

──クライアント先で多様なプロと出会う……組織で塩漬けになることがないのですね。

戸田

そもそも広告の世界は職種が多く、粒違いが生まれやすい土壌でもあるんですよ。昔から、営業、制作、マーケティングという異なった職種の人材がチームを組んで働くのが常で、「三位一体」などと言われていました。

ただし、職種が違うと意見が合わないことも多い(笑)。僕が入社した1970年代頃など、夜の打ち合わせはいつも喧嘩のような議論の大バトルでしたよ。

いや、喧嘩は大いに結構なんです。言いたいことを言い合って、よいものができるんだから。「お互いのこともわかったし、もういいや」というところまでいくと、改めてみんなの気持ちが1つの目標に向く。そこで異質な個性と個性が共鳴するのです。

今はデジタル系など、さらに職種が増えていますね。地域で言えば、国内もグローバルもある。職種や地域が増えた分、粒の種類も増えています。チームもますます大きくなっていますね。議論は増えますが、従来はあり得なかった結びつきからびっくりするようなアイデアが飛び出してきたり、新しい価値観が誕生したりする。ますます可能性に満ちた時代になると思います。

──一人ひとりが粒違いとはいえ、めざすところは共通している。

戸田

もちろんです。その指針になっているのが、当社のフィロソフィーの1つ、「生活者発想」です。

そもそも「生活者」という言葉をマーケティング用語として使い始めたのは当社なんですよ。それ以前は消費者という言葉しかなかった。1981年、「博報堂生活総合研究所」というシンクタンクを設立したのがきっかけです。

実は1981年というのは、日本の1人当たり名目GDPが1万ドルを超え始めた年なんですね。それまではGDPの伸びと人の幸福感とは正の相関関係にあった。ところが、この頃からその関係が崩れてくる。モノがあれば幸せになれるわけではないと気づいた人々が、自分のライフスタイルをつくり上げることで幸福を追求し始めたのです。

「生活者発想」とは、この新しい潮流から生まれた考え方です。全てのモノやサービスは彼らの暮らしをより幸せにするための手段、道具に過ぎない。だから暮らしの主体者、生活者をまるごと観察し、その根源にある価値観や欲求の変化を読み解いていこう──というものです。

とはいえ、幸福のものさしは今や一人ひとり違います。誰がどんなものさしを持っているかは、傍目にはわかりづらい。そこで必要になるのが「イマジネーション力」です。

イマジネーションといえば、東日本大震災の後、ビートたけしさんがこんなことを言っています※。

「今、一番大事なのは想像力に他ならない。震災を『2万人が死んだ1つの事件』と考えるのではなく、『1人が死んだ事件が2万件あった』という、事実をイマジネーションする力が求められている」と。これは、一人ひとりの内面まで感受できる想像力があるかどうかで、アイデアも働きかけも変わってくる、というメッセージでしょう。

私もイマジネーション力について語る時、「他人ごとで済ませず、自分ごとに」「自分を“込み”にして考えてほしい」と話します。

生活者をカタマリ、あるいは客観的な観察対象として見ていては、彼・彼女らの気持ちを洞察することはできません。ところが、「私ならどうするだろう」「僕の場合はどうだろう」などと自分のフィルターを通してみると、具体的なイマジネーションが湧いてきます。生活者発想を実践しようとする時、「自分もまた1人の生活者である」という立ち位置が、とても重要なんですね。

創造力は、「頂点の低い二等辺三角形」から

──広告業界をめぐる社会環境は急速に変化しています。ネットの出現で人々の購買行動が変わり、メディアも多様化しました。そのような時代に求められる能力とは。

戸田

「目からウロコ」と言いますが、そうした相手の期待を超えるソリューションを提示する力、「クリエイティビティ」でしょう。

確かに時代は変わりました。昔は、生活者の持つ情報量レベル──私は「情報水位」と呼んでいますが──は低く、圧倒的に企業のほうが情報を持っていた。だから企業はマスメディアで情報を流し、マスプロダクション、マスセールスを実行することができました。

ところが、今や両者の情報水位はほぼ均衡していて、しかも双方向でやりとりできる。生活者が豊富な情報を持ち、自分のほしいものを見つけたり、自ら情報を発信したりできるようになりました。メディアが多様化し、生活者と企業とのタッチポイントもますます多様化している。だからこそ広告会社は、生活者視点に立ち、クリエイティビティを発揮しなくてはなりません。

当社では「生活者発想」と並び、「パートナー主義」をフィロソフィーに掲げています。

パートナーとは、深い信頼と絆で結ばれた関係を指しますよね。クライアントを誰よりも深く理解したうえで、クライアントとは異なる視点、すなわち生活者視点からソリューションを提供すべきです。つまり、生活者発想とパートナー主義は、表裏一体の関係にあるのです。

──「相手の期待を超えるクリエイティビティ」とは、どんな内容を指すのでしょう。

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