Vol.1 人的資本経営の時代に求められる組織の形 佐宗邦威氏 戦略デザインファーム BIOTOPE CEO / Chief Strategic Designer
人的資本経営の重要性が増しているいま、新たな組織の形が求められている。
人事はどのように、価値を生み出す人・組織をつくるべきか。
組織風土や個人のキャリア自律といった、人的資本経営を進めるうえで必要な要素について、戦略デザインファーム BIOTOPE の経営者として組織デザインを手掛ける佐宗邦威氏と共に、「人的資本経営」を実現する組織と個人の在り方を探る。
[ 取材・文 ] =村上敬 [ 写真 ] =中山博敬、佐宗邦威氏提供
私が人的資本経営に注目する理由
近年、「人的資本経営」が注目を集めています。本連載では企業への取材を通して人的資本経営の本質に迫っていきたいと考えていますが、初回となる今回は、なぜ私が人的資本経営に関心を持ち、人的資本経営に対してどのような仮説を持っているのかをお話ししたいと思います。
まずお断りしておきますが、私は人事の専門家ではありません。もともとはP&Gでブランドマネジャーを務め、消費財のブランドマーケティング戦略を手掛けていました。その後、ヒューマンバリューで組織開発に従事。さらにソニーのクリエイティブセンターに転職して、社長直轄の新規事業開発プログラム「SAP」(シード・アクセラレーション・プログラム)の全社導入を手掛けました。
マーケティング、組織開発、価値創造―― それらのバックグラウンドを持って、2015年に戦略デザインファームのBIOTOPEを設立しました。デザインファームというと、新しい切り口で企画を提案する会社を想像するかもしれませんが、私たちが主に手掛けているのは、その前の段階、つまり価値創造のプロセス支援や、価値創造するための場づくりです。
新しい価値創造やイノベーションの源泉になるのは、個人の持っている妄想や創造力です。ただ、組織に属す個人が創造性を持っているだけでは価値創造に至りません。個人の能力をお互いに活かし合う組織でなければ、むしろ個人の創造性は死んでいきます。価値創造には、個人と組織、両方へのアプローチが必要なのです。
私がソニー時代にSAPでトライアルしたのも、まさに個人と組織の両方に焦点を当てたアプローチでした。たとえば優秀な3人にリソースを集中させて「売上1兆円を目指す」と肝いりでプロジェクトを始めても、現実にはうまくいきません。それよりも価値創造の風土や仕組みを組織全体に行き渡らせる。その結果、50人、100人と挑戦する人が出てきて、そのなかから選別や淘汰をしていった方が、最終的には大きな事業が育つ確率が高い。つまり個人の能力に依存するのでなく、エコシステム型の価値創造モデルを目指したのです。
繰り返しますが、個人がいるだけでは価値創造できません。しかし、価値創造の主人公が個人であることも間違いありません。では、個人の創造性を活かす場や経営とは、どのようなものなのか。そういった関心から着目したのが、「人的資本経営」だったのです。
人が価値を生み出す「創造する組織」へ
個人の創造性を価値創造につなげる組織とは、どのような組織なのか。人的資本の観点から考えてみましょう。従来、企業が持つ資本はバランスシートに表れると考えられてきました。ただ、バランスシートにはお金や設備投資に関する科目があっても、人に関する科目はありません。人が出てくるのはP/Lのみ。P/Lには人件費というコストとして記載されます。