J.H.倶楽部

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Learning Design 2020年09月刊

成長の仕掛け人 第13回 チャンス思考の合言葉 「それはちょうどいい!」 人事が自ら楽しむことで 人の意識に火をつける

システム構築やICT導入等のソリューション提供を行う都築電気。
人材開発部の部長である渡辺剛史氏の人事としてのキャリアは、モノづくり現場から抜擢された10年前にさかのぼる。
多くの挑戦を前向きに楽しむ渡辺氏に、仕事への思いや使命を聞いた。

Profile
渡辺 剛史 (わたなべ つよし)氏
都築電気 総務人事統括部 人材開発部 部長

1998年コクヨ入社。生産管理や企画開発を経て、2010年にHR開発部に異動。
以降、研修企画やグローバル人材育成、子会社の人事部長といったキャリアを重ねる。
2018年に都築電気入社。2020年より現職。

Company Profile
都築電気株式会社
1932年創業当初から、電気通信設備工事を主たる業務とする。
現在はネットワークシステムおよび情報システムの設計、開発、施工、保守と、電子デバイス、情報機器の販売ならびに受託設計開発などの事業を展開。
資本金:98億1,293万円
従業員数:1,510名(2020年3月現在)
連結売上高:1,253億6,600万円(2020年3月期)

[取材・文]=平林謙治  [写真]=中山博敬

変化もリスクも「それはちょうどいい!」

新型コロナウイルスの感染拡大は、日本企業の新入社員研修を直撃した。都築電気も例外ではなく、主管する人材開発部では急遽オンラインでの実施に切り換えたが、部長の渡辺剛史氏は、その判断を決して「急場しのぎの苦肉の対応」などと後ろ向きにはとらえていない。最初こそ環境の急変に戸惑ったものの、むしろ「それはちょうどいい!」とポジティブに考えたという。何が、ちょうどよかったのか――。

都築電気の新人研修は9月末まで、実に半年間も続く。一般的なそれよりはるかに長丁場で、密度の濃い研修スタイルは、渡辺氏が中途入社する前から同社に定着していた。

社会人としての、また都築電気の社員としての心構えやICT の基礎知識を学ぶだけでなく、研修の後半では職種別に分かれ、営業は営業、技術系は技術系に最低限必要な専門知識とスキルの習得を目指す。ある程度自分で動けるところまで成長を促したうえで、10月1日から晴れて現場へ本配属となるわけだ。

そこまで手厚い研修内容だけに、オンラインで代替できるのか不安はあったが、「実際にやってみたら、思っていたよりずっとうまくいったんです。開始して3日目ぐらいで、手応えを感じました」と、渡辺氏は胸を張る。

「新人たちはちゃんとついてくるし、討論やグループワークも問題ない。新しい技術への適応能力がすごいんです。オンライン会議のツールも、彼ら自身でいろいろな機能を活用して使いこなしていきました。そこで、私は確信しました。新人研修でここまでできるのなら、従来は集合するのが当たり前だった他の社内研修もオンラインでできるなと。よりによってコロナは新人研修と被りましたが、当社にはそれがちょうどよかった。やればできると実感できたおかげで、今年予定していた研修すべてをオンライン化するという業務改革の意思決定ができたのですから」

渡辺氏は、どんな状況に陥っても闇雲にリスクやピンチととらえず、「それはちょうどいい!」とあえて口に出し、思い、考えるようにしている。そうすることによって物事のプラス面に思考が向かい、可能性やチャンスが見えてくるからだ。

そうしたポジティブな「チャンス思考」が、自分の軸として固まっていったのは30歳代。前職のコクヨ時代だという。それは、モノづくりから人づくりへ、自らのキャリアが大きく転換した時期でもある。

見込まれて人事パーソンへ転身

入社して最初の2年は生産管理。その後の10年は商品企画や開発の現場でキャリアを積んだ。コクヨのモノづくりの最前線を担う一方で、「もともと人への興味はあまりなかった」という渡辺氏が、なぜ人材の育成に携わるようになったのか。

転機は1人のリーダーとの出会いだった。2010年夏、当時在籍していたコクヨS&T(2004年にコクヨが分社化して発足)の森川卓也社長に見込まれ、開発系の部署から、組織風土改革や社員の意識改革の活動を推進するHR 開発部への異動を命じられたのだ。

「実はその少し前から、開発部隊全体のスキルアップや業務効率化のために、自主的な勉強会を開いたりしていました。会を重ねるたびに、参加者の知識やスキルが伸びていくのを見て、人の成長を助けることが面白いなと思える自分に気がついたんです。だから、それを開発部隊の中だけでなく、全社に向けてやってほしいと、社長から言われたときはうれしかったし、すごくやりがいを感じましたね」

2005年に就任した森川社長は2つの経営方針を掲げ、あらゆる機会をとらえてその浸透を図った。1つは「人にとっての経営」。人を経営の手段と見なすのではなく、社員一人ひとりがやりがいをもって、自立・自律しながら働くこと自体を経営の目的とする考え方だ。

そして、もう1つの方針が「チャンス経営」。変化やリスクをピンチではなく、チャンスととらえる姿勢をいう。これを組織全体に浸透させるためのスローガンが、件くだんの「それはちょうどいい!」だったのである。渡辺氏は当時をこう振り返る。

「森川さんがはやらせて、みんなの合言葉みたいになっていたんですよ。何か問題があっても守りに入らず、とにかく『それはちょうどいい!』と言っちゃおうと(笑)。私には、ものすごく刺さりましたね。実際、前向きに考えられるようになって、今では自分の思考のクセになっています。森川さんからの学びなしに、その後の私はありません」

HR 開発部では社員の意識改革に向けて、型どおりの施策とは一線を画す大胆な取り組みに力を入れた。各職場で組織活性化の核になり得る人材をつくるために、参加者自身がその場のノリで内容を決めるというユニークな研修を仕掛けたことも。自発的に動けるように当事者意識を養うのが狙いだった。

「育成よりもまず社員の意識改革が重要なのだと実感しました。HR開発部には3年ほどしかいなかったのですが、私が加わる前から継続していた活動も含め、いくつもの点が線につながり、徐々にですが、社内の雰囲気も変わっていくような手応えがあったんです。3年とは思えないほど濃密な時間でしたね」

その後も、コクヨグループ全体のグローバル育成担当や別の子会社の人事部長を歴任した。経験と実績を積むほどに、人事パーソンとしてのポリシーも固まっていく。しかし、あるときからグループ全体の方針が変わり、それが渡辺氏自身の信条や価値観と齟齬を来し始めた。

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