J.H.倶楽部

無断転載ならびに複製を禁じます。なお内容は取材・掲載当時の情報です。

Learning Design 2020年03月刊

成長の仕掛け人 第11回 原動力は“人の力” 経営者の哲学を 次世代に伝え続ける

“よきモノづくり”を通じ環境や社会課題に挑む、日本有数の消費財メーカー・花王。
組織の原動力に“人”を挙げ、従業員のもち味を引き出すために“智創部”を設ける。
過去の経営者たちの思いを受け継ぎ、次世代につなげる同部トップの薄井光氏に話を聞いた。

Profile
薄井 光 (うすい ひかる)氏
花王 人財開発部門 智創部長
1962年生まれ。法学部出身。1985年花王入社。
和歌山工場事務部配属後、花王高等専修学校、霞ヶ浦研修所で若手の指導にあたる。
以後、社長室、人財開発部門を経て、製造部門および事業部門の人事総務、人財開発に携わる。2017年より現職。

Company Profile
花王株式会社
1887年創業、高級化粧石鹸の製造が始まり。
現在はスキンケアやホームケア製品にとどまらず、化粧品やヘルスケア製品、界面活性剤など企業向けケミカル製品まで、幅広く展開。
世界100の国と地域に販売網をもつグローバル企業。
資本金:854億円
連結従業員数:3万3,664名(2018年12月現在)
売上高:1兆5,022億円(2019年12月期)

[取材・文]=田邉泰子  [写真]=山下裕之

経営陣の純粋な思いを伝えたい

花王は2017年、人財開発部門の教育・研修機能とカウンセリング機能を独立させ、「智創部」という新たな部署を立ち上げた。そのトップを務めるのが、智創部長の薄井光氏だ。薄井氏は、社長室で秘書を務め、当時の代表と行動をともにしていた経験をもつ。

「役員室には扉がなく、常に自由に出入りでき、社長も副社長も専務もフロア中央のテーブルに随時集い、侃々諤々と議論をしていました。彼らはよきモノづくりを通じた社会への貢献と、社員の幸せについて、実に純粋に本質的な議論をされていて、当時の自分には新鮮に感じました。時折、声高に熱気ある議論をしていたのが今でも印象に残っていますね」

だがトップの情熱、思いやその内容は、時に従業員にはそのまま伝わらず様々な解釈や誤解が生じることがある。

「経営陣の素顔を間近で見てきて、その本気度も痛いほど感じていました。ですから、どうすれば経営陣の思いや意志がクリアに社内中に伝わるか、今も試行錯誤の只中にあります」

柔らかい物腰でそう話す薄井氏の言葉一つひとつに、強い思いが宿る。「人」や「学び」と決して切り離されることのなかった、薄井氏のキャリアがそうさせているのかもしれない。

学生時代には教師になることを考えたこともあったが、企業人として就職活動を開始。ところが家族的で温かな雰囲気にも惹かれ入社した花王で、まさかの教職に就くことになる。入社5年目のころだ。

「モノづくりの現場の工場リーダーを早期育成するため、和歌山事業場内に企業内高等専修学校を設けていました。教員資格を有していたためか、そこで授業やクラス担当をすることになりました。生徒たちは、年の離れた兄貴のように接してくれました」

それから数年後、今度は茨城県の霞ヶ浦へ異動となる。新入社員研修から次世代経営者育成までを担う研修施設が新設されたためだ。

「当時の社長である丸田(芳郎氏)は、『国体からオリンピックへ』という標語を掲げていました。花王は、国内ではある程度のポジションを築くことができたが、世界にも通用するようになりたい。つまり、オリンピックでメダルを獲れるような企業になろう、それにはまずは人財ありきだと、経営陣は話していました」

業績が好調なときこそ会社の基盤を見直し、必要な投資をすべきという考えだった。仕事の見直しと機械化や自動化などにより業務効率化を図り、人にしかできない仕事に時間をつぎ込もうという考えで進められた第一次TCR(Total CostReduction)プロジェクトが発足したのも、この時期と前後する。薄井氏自身、第一次TCR プロジェクトで人事業務効率化に携わった1人でもある。

現場で確信したOff-JTの重要性

霞ヶ浦の研修所では、新入社員や若手社員に向けての研修講義の他、中堅研修や次世代経営者研修での講師陣のアテンド役を務めた。研修所には、後に日本の経営学の重鎮となる新進気鋭の講師陣がそろった。

「先端のマネジメント理論を踏まえた講義は、いつ聞いても興味深かったですね。休憩時間には、講師や研修生とともに、研修所内テニスコートで汗を流し盃を傾けることもありましたよ」

だが「Off-JT がはたして仕事や会社業績に貢献できているのか? どのようにOJTと連携すればよいのか?」。学びの提供を続けるうちに、薄井氏にはそんな迷いが生じるようになる。ほどなく異動を言い渡された先が、冒頭でもふれた社長室だった。

秘書時代に経営の神髄に触れ、その後は人財開発部門を経て事業部人事を渡り歩く。秘書に就いていた当時の社長の言葉が何度もよみがえった。

「よく“ミドルアップダウン”と話していました。トップダウンでもボトムアップでもない、ミドルの共感共鳴が組織活動の源泉だというのです。実際に、様々な組織でのミドルマネジャーや責任者たちの人間力を目の当たりにし、本当に驚かされました。それぞれの組織には、経歴や専門性、背景や考え方が異なる多様な社員がいます。自分の子どもよりも若い社員に対して、時に涙を流しながら叱ったり励ましたり。本気で人と向き合えるマネジャーの存在が、それぞれの現場を支えているのだなと思いましたね」

「Off-JT は、実務に役立っているのか」。研修所時代に感じた疑問の答えを見いだせたのも、この時期だ。

「やはり、担当業務経験からだけでは学べないことがたくさんあるのだと感じましたね。研修所にいたときには興味本位で聞いていた経営論が、現場でカチっと噛み合う。実践と論理の往来は、Off-JT なしにはできないものだと納得しました」

こちらはJ.H.倶楽部会員限定記事です。
ご入会後、続きをお読みいただけます。

残り:2,020文字

/

全文:4,040文字

【入会・年会費無料】

J.H.倶楽部は人事の仕事に役立つ特典が満載です!

  1. 総数2000本以上の人事の実務に役立つ記事(※)が閲覧可能
    ※専門誌『Learning Design』(旧『人材教育』)の記事
  2. 新サービス・お役立ち情報(調査報告書・ホワイトペーパーなど)の先行案内
  3. 会員限定セミナーへのご招待/講演動画・配布資料の閲覧
  4. 興味関心に沿った必読記事を、メールマガジンでお知らせ!