J.H.倶楽部

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Learning Design 2020年03月刊

インストラクショナルデザイナー 寺田佳子の学びのキセキ 第11回 アグリゲート代表取締役CEO・左今克憲さん 「おいしい」でつなぐ農業とビジネス

人は学べる。いくつになっても、どんな職業でも。
学びによって成長を遂げる人々の軌跡と奇跡を探ります。

「今、旬の野菜は?」「おすすめの食べ方は?」
そうしたコミュニケーションが、食をより豊かにしてくれるのではないか。
そんな想いで誕生した旬八青果店では、新鮮でおいしい青果を、適正価格で販売しています。
今回は、旬八青果店の創業者である左今克憲さんに、「おいしいインフラ」のお話を聞きました。

Interviewee Profile︱左今克憲氏
東京農工大学農学部を卒業後、総合人材サービス会社に入社。
2009年2月にアグリゲートを個人事業として創業し、2013年10月からアグリゲートの事業経営を本格化した。
東京都内に展開する八百屋「旬八青果店」をはじめ、惣菜・弁当販売を行う「旬八キッチン」、食農業界について学ぶ「旬八大学」などを運営する。

Interviewer Profile︱ 寺田 佳子氏
インストラクショナルデザイナー。IDコンサルティング代表取締役。ジェイ・キャスト常務執行役員。日本eラーニングコンソシアム理事。熊本大学大学院教授システム学専攻講師。
ICTを活用した人材育成のコンサルティングの他、リーダーシップマネジメント、プレゼンテーションセミナーなどの講師として国内外で活躍。
『学ぶ気・やる気を育てる技術』(日本能率協会マネジメントセンター)他、著書・訳書多数。

プロフィールこぼれ話★11 ATD(米国才能開発協会)、
CIPD(英国公認人事教育協会)の会員です。今年5月の
ATD総会はデンバーで。ロッキー山脈を眺めるのが楽しみ。

写真/矢部志保

01 新鮮でおいしい食卓の記憶

左今克憲さんの故郷は福岡県福岡市。祖母と母と自分、という「ちょっと特殊な」家庭だったが、少年のころの思い出を彩るのは、新鮮な野菜や魚が並ぶ食卓の風景だ。

「今思えば、ずいぶんとエンゲル係数の高い家庭だったと思います(笑)」

母親は近所の八百屋や魚屋と仲が良く、「今日はこれがおいしいヨッ、て言われたのよ」と、旬の食材を買ってくるのが常だった。“おいしい”がつくる温かな世界への想いは、こんな記憶から芽生えたのかもしれない。

やがて地元の高校に進学したが、これといって夢中になれるものがないまま、浪人生活に。そこで、1人の予備校講師に言われた。

「本を読め、とにかく本を読め!」

え!

「問題集をやれ」じゃなくて「好きな本を読め」と?

「ええ。ですから小説でもマンガでも、面白そうなものは手当たり次第に読みましたね」

なかでも衝撃を受けたのが、司馬遼太郎の『世に棲む日日』だった。長州の思想家・吉田松陰と、その弟子・高杉晋作という、激動の幕末を駆け抜けた2人の青年の物語である。長い鎖国で世界から孤立していた日本にいながら、「日本の長州」ではなく「世界の長州」の行く末を冷静に見ていた松陰と、司馬遼太郎をして「革命以外には使い道がないほどの天才」と言わしめた激しい熱さを持つ晋作。自分とたいして年の変わらない2人が、明治維新という“革命”のとびらをこじ開けたことに、心が震えた。

維新の志士へのあこがれ、ですね。

「ええ。ただ、2人とも20代の若さで命を落とし、維新後を見ることはなかったのです。それが残念で、『変革の三段階』の最後まで生き残るのはいったいどんな人物なのか、と考えました」

「変革の三段階」とは、社会心理学者クルト・レヴィンが唱えたモデルである。従来の価値観を崩し(解凍)、新たな価値観を取り入れ(変革)、新たな価値観が効果的に機能するしくみを構築する(再凍結)、という3つのプロセスを経て変革は完結するというものだ。

自分も変わりたい。変わらなければならない。そのためには、東京に行かなくては。そう考えた左今さんは二浪の後、東京の私立大学に進んだ。

02 農業×ビジネスのハイブリッド

で、新たな価値観、見つかりました?

「それが……。二浪したのにこの環境にどっぷり浸ってしまうのはまずいよなぁ、と焦っちゃって」

なにしろ、見るからに遊び慣れた学生がキャンパスを闊歩している大学である。福岡から「変革」を求めて上京した青年には、違和感とうしろめたさの方が大きかったのは当然だ。

そんな焦りを抱えた最初の夏休み。左今さんはインカレ系の政策立案コンテストに参加した。参加者の中には、まじめな顔で「将来は総理大臣になって日本をこう変える」と主張する学生もいて、自分はなんと「ボーっと」生きてきたことかと、情けなくなった。

「何かをせねばならない……」

しかし、いったい、何をすべきか。

答えは、コンテストの後、東京から福岡までのバイク旅のなかにあった。道沿いには想像以上に豊かな田畑が広がっていたが、元気な若者の姿はほとんどなかった。急速に押し寄せる高齢化、人口減少の波にのまれた寂しい風景である。こんなふうに地方のパワーが衰えていくことと、都会の食が“不本意”なことに深いつながりがあるんだと肌で感じた。

都会の食が、“不本意”?

「東京で食べる野菜は福岡よりおいしいかといえば、そうじゃない。なのに、値段はびっくりするほど高い。これは、新鮮でおいしい野菜を妥当な値段で手に入れたい、という当たり前の消費者のニーズからすると、とても不本意なことだと思うのです」

地方と都会、つくる人と食べる人、現在と未来。それらを「おいしい」でつなぐ変革が必要だと気づいた。「自分がすべきこと」の輪郭が浮かびあがった夏だった。

2年後、左今さんは東京農工大学農学部環境資源科学科に編入する。

「今度は、垢抜けないけれど、超まじめな学生が多かったです(笑)」

とにかく何でも吸収したくて、出られる講義には片っ端から顔を出した。農業の歴史や農協が生まれた背景を解説する「農業論」も学んだ。

学校ではこうして講義のはしごをする一方、学外のビジネスコンテストにも毎年参加した。

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