J.H.倶楽部

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Learning Design 2020年01月刊

成長の仕掛け人 第10回 自分は、“気さくなおじさん”でありたい 社員を喜ばせる Giveの姿勢を大切に “身近な人事”で 成長を支える

日本ペイントホールディングスグループの一翼を担い、塗装前の表面処理分野をリードする日本ペイント・サーフケミカルズ。
同社の人事トップである杉本敏明氏は、営業職から転身した社内でも異例の経歴の持ち主だ。
過去の経験と失敗を糧に、独自の哲学で若手の成長を支援しており、グループの枠を超え、社員たちからの信頼も厚い。その軌跡に迫った。

Profile
杉本 敏明 (すぎもと としあき)氏
1968年生まれ、1992年日本ペイント入社、茨城営業所に配属。
2009年本社人事部に異動、2011年東京地区人事部、2015年日本ペイントホールディングス総務部を経て、2016年より現職。
社会保険労務士、キャリアコンサルタント。

Company Profile
日本ペイント・サーフケミカルズ株式会社
日本ペイントのホールディングス化にともない、2015年に設立。
自動車、建設機器をはじめとする工業製品の塗装前処理剤をはじめ、電子機器や鉄鋼製品向けの機能性処理剤などを手掛ける。
ホールディングスの強みを生かし、塗料とセットにしたワンストップの事業展開を実現。
社員の70%を技術系が占める。
資本金:1億円
従業員数:130名(2019年4月1日現在)

[取材・文]=田邉泰子  [写真]=山下裕之

過信が招いたスランプ

自動車や建造物の塗装には、長く美しい状態を保つために下処理が不可欠だ。日本ペイントホールディングスで、塗料を塗る前に用いる表面処理剤などを手掛ける日本ペイント・サーフケミカルズ。その人事と総務部門を率いるのが、管理本部人事総務部部長の杉本敏明氏である。

杉本氏をひと言で表すなら、“Giveの人”だ。管理職でありながら、お茶汲みも厭わない。自らを「すぎ企画」と称し、社内イベントも企画する。毎年恒例のビアパーティーでは、率先して余興の前座をこなすという。

「仮装や漫才で、毎年ボケ倒しています。スベってもいいんです。その方が、後に続く新人のプログラムが盛り上がるでしょう? 自分は場を温めれば十分なんです」

入社から17年間は営業ひとすじ。前半の十余年は、関東エリアで建築用塗料の市場開発を担った。折しも、時は都心の再開発ブーム。お台場や汐留、六本木に高層ビルの建築が相次いだ。大手ディベロッパーの代表電話から突破し、大型契約にこぎつけたこともある。成功はやりがいをもたらすと同時に、“1人でもできる”という自信を植えつけた。

それが揺らいだのは、2004年に大阪・名古屋エリアのサーフ部門へ異動したときだ。自信満々で臨んだが、これまでのやり方が通用しない。スタンドプレーが行きすぎて、社内の技術部門と連携が図れずにいたのだ。

「塗料はとても繊細です。同じ用途でも製造ラインや塗装ロボットごとにベストな配合は変わり、特にサーフ部門で扱うものは、より技術的要素が大きい。そこを理解せずに、1人で突っ走っていたんです」

取引先と勝手に商談を進める営業に、技術者たちは反発した。「もっと周りを巻き込め」という上司の助言を頭では理解しながら、当時はどこか納得できない自分がいた。

行動を変えた妻のひと言

営業で結果を残せず悶々としながら、家で愚痴をこぼすこともあった。だが妻の反応に同情はなく、痛烈なひと言を浴びることになる。

「あなた文句は言うけれど、会社の人のために何かやっているの?」

Take ばかりを要求し、何もGiveしていないことが露になった杉本氏は、それから社内の人を気遣うようになる。顧客分析チームには出張の度にお土産を用意し、定年を迎えた先輩技術者の送別会では、幹事を若手に任せず自ら引き受けた。

「先輩は仕事中に何度も衝突した相手でしたが、野球のヤクルトファンと知り、営業の人脈を使って選手のサイン色紙を用意しました。すごく喜んでくれたのを、今でも覚えています」

“小さなサプライズ”を意識しながら社員と接するようになると、徐々に空気は変わっていた。依頼した業務を最優先で処理してくれたり、難しい相談ごとも応えてくれたりと、杉本氏に協力してくれるようになったのだ。現場とうまく噛み合うようになると、大きな契約も受注できるようになった。

ほんの少しの気配りが、こんなに人を動かす力になるのか――。杉本氏は以前の自分を反省すると同時に、信頼を築くことの大切さを身に染みて感じた。同時に、社員を喜ばせることが自分の楽しみに変わり、気づけば社員旅行の幹事役も引き受けるようになっていた。しだいに杉本氏の振る舞いは評判になり、「営業におもろいヤツがいる」と人事部に噂が伝わったのもそのころだった。

若手の前向きな姿勢に感化

杉本氏は2009年人事部に異動となる。現場をよく知る人材がほしいという理由での抜擢だった。

「事業部出身者はほとんどいなくて、周りは人事の専門家ばかりでした。社員の顔を覚えるといっても相当な人数でしたから、大変でしたね。それに外回りや出張もなくなって、1日中、机の前にいるのも苦痛でした」

なぜ自分が人事なのか、という疑問がいつまでもつきまとい、上司から取得を指示された衛生管理者や社会保険労務士の受験勉強も今ひとつ身が入らなかった。

そうしたなか、杉本氏は社員面談を担当することになる。対象は入社3年目と6年目の社員。現場での仕事やキャリア観などを確認するのが目的だ。そこで杉本氏は、若手社員の情熱に圧倒されたという。

「同じくらいのころ、自分はこんなに前向きだったかな、と思ってしまうほどに、みんな熱心に仕事に打ち込んでいたんです。将来はあれをしたい、あの仕事に就くために今これを勉強していると、未来を切り拓こうと自分から行動に移していて、驚くと同時に感心しましたね。自分もボヤボヤしている場合ではないと、試験勉強に打ち込むようになりました」

それからというもの、杉本氏は人事として若手の味方になることに徹するようになる。その後担当した新卒採用でも、自身がかかわることの意味を追求した。

「最初は何をすればいいかわかりませんでしたが、学生目線でいようというのを心に決めました。緊張の面持ちで就活フェアに参加する学生さんを見て、彼らの不安を取り除くことが何よりも大事だと感じたんです」

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