J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2011年08月号

企業事例② キリンホールディングス 思い込みの枠を超えもう一歩挑戦できる組織づくり

キリングループの「縁の下の力持ち」ともいえる、40代前後のキャリアを重ねた女性社員。同社では、彼女たちが現在の仕事の“見えない枠”を超えて成長できるよう仕組みを整え、活躍を促進している。妥協や諦め、遠慮といった、成長を阻害する中堅特有の意識を改革するのは、“枠を超えてもいいんだ”と思える強い女性たちのつながりだった。

神元 佳子 氏 人事総務部 多様性推進プロジェクト リーダー

キリンホールディングス
1907年、キリンビール株式会社として設立。2007年に持株会社へと移行し、キリンホールディングスに社名変更。現在は傘下にキリンビールをはじめ、メルシャン、キリンビバレッジ、協和発酵キリンなどを抱える。国内酒類の分野では、ビール、低アルコール飲料、ワイン、焼酎、ウイスキーなど幅広いラインナップを揃える総合酒類メーカーである。
売上高:2兆1778億円、従業員数:3万1966名(いずれも2010年12月期連結)

取材・文・写真/石原野恵

多様な社員が生き生き働くポジティブな組織風土へ

2007年に持株会社を設立し、グループ一体となった経営に注力するキリンホールディングス。社員数3万人を超え、ますます多様化する社員の能力を最大限に発揮させることは、長期的な経営構想においても極めて重要な戦略的要素となる。

人事の基本理念に「人間性の尊重」を掲げる同社では、これまでも年齢層に限らず、自ら成長し続けようとする社員を積極的に後押ししてきた。しかしベテラン社員や女性社員など、多様な人材が生き生きと働いてきたかというと、課題が残っていたのも事実。今回は、そのうちベテラン女性社員の課題とその取り組みについて、多様性推進プロジェクトリーダー、神元佳子氏に聞いた。「たとえば優秀な女性社員が結婚や出産で辞めてしまうのはもったいない。ベテラン社員が現状に甘んじてしまってもいけない。組織を強めるには、これまで以上に在籍社員一人ひとりの力が引き出されなければなりません。私たちにとって、社員のモチベーションを向上させ、もう一歩のチャレンジを促すことは大きなテーマです」(神元氏、以下同)

2006年10月、同グループのキリンビールが打開策として先駆け的に取り組んだのが、女性社員の活躍支援策「キリン版ポジティブアクション」である。

アクションのターゲット層は2つに分けられる。1つは、「全国転勤型社員」の若手女性。一般にいう総合職社員で、結婚や出産というライフイベントに際して退職を選ばざるを得ないことが多かった層だ。この層に対しては、メンター制度を導入し、キャリア支援をしながら管理職昇格への意欲を喚起している。

そしてもう1つのターゲットが30代後半から40代前半で、転居を伴う異動がない「地域限定型社員」。キャリアに壁を感じながらも、なかなか次のステップを描くことができないでいた「ベテラン中堅」だ。これらの取り組みが功を奏して徐々に意識変革が起こり、ポジティブな風土がグループ全体へ根づきつつある。

思い込みが阻害する社員のチャレンジ

同社が女性の活躍推進に取り組んだ理由の1つとして、高い能力を眠らせているであろう社員の割合が多かったことが挙げられる。

「キリン版ポジティブアクション」を最初に開始したキリンビールの場合、所属する社員約5000人のうち、女性社員が2割強を占めている。さらにその中の7割に当たるのが、「地域限定型社員」だ。

40代前後の地域限定型社員は、バブル期に大量採用されたことから人数が非常に多い。ところが、経験豊富な社員が多くいるにもかかわらず、そのモチベーションが停滞してしまった人が多かった。その要因は大きく分けて2つある。第一には、将来像が描きにくいことだ。

「社内の意識調査では、仕事内容への不満が多く聞かれました。長年勤めていても業務がほとんど変化しないため、自分の存在意義や成長が見出せず、将来に不安を抱えてしまうようです」

第二の要因は、過去の経験からくる“思い込み”である。地域限定型社員は業務の変化が少ないがゆえに、期待される役割さえも限定されていると知らぬ間に刷り込まれて(思い込んで)しまっている。しかしその思い込みこそ、成長の機会を狭めてしまっていることに気がつかない。

「自分は地域限定型社員だから、これだけやれればいいと自ら線を引く。一方でリーダーも、地域限定型社員の仕事はここまでだろうと線を引く。お互いに“見えない仕事の枠”をつくってしまったがために、新たな仕事には挑戦しないし、任せることもないという風潮ができてしまったのでしょう」

不安による意欲の低下と、思い込みによるチャレンジ精神の欠如。ベテラン中堅の活躍を阻害するこれらの課題を解決するために同社では、

●会社としての人事諸施策・運用の見直し

●女性の活躍の推進役としての組織の立ち上げ

という2つの方向性を打ち出した。そこで新たに立ち上げられた組織が「キリンウィメンズネットワーク(KWN)」である。女性社員同士の横のつながりを強化し、お互いに刺激を与え合うことで挑戦の風土を醸成させることを狙った取り組みだ。

自分の小さな一歩が組織全体を前進させる

KWNは、キリングループの女性社員自身が意識を変えていくボトムアップの活動と、その活躍を阻害する制度や風土を変えていくトップダウンの活動の両輪からなる。活動方針は、「グループの女性社員が将来に不安なく、生き生きと働き続けることができる、組織風土の実現」だ(図表1)。

ベテラン中堅層に限らず、人は先の見通し――自分の明確な将来像が見えないから不安になる。そのビジョンが特に描きにくい地域限定社員に対して、同社では“地域の事情に精通した高い業務スキルを持ち、地域のネットワークを活かして活躍する社員”という「ありたい姿」を提示している。

「簡単にいうと、その人に聞けば、その地域のことが何でもわかるという人。40歳前後の地域限定型社員には、肩書きこそなくとも役割としてリーダーシップを発揮している女性が実際に何人もいます。全国各地に拠点を持つ当社にとって、彼女たちにかかる期待は大きい。この層の社員全員に、そんな姿をめざしてほしいんです」

ところがこの期待に反して本人たちは先述の通り、自らの役割を限定してしまっている。「一歩でも、半歩でも前に踏み出してほしい」と神元氏はいう。

「いわれた通りに働くだけでは将来は限られてしまいます。“見えない仕事の枠”なんて、本当は存在しません。思い切って枠を超えて、やれることに挑戦できる環境が必要なのです」

1人が枠を飛び越えて、仕事のレベルを上げていけば、リーダーやチーム全体の能力が底上げされ、周囲や顧客からの感謝へと連鎖する。自分の小さな一歩が、組織全体を大きく前進させるのだ(図表2)。

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