J.H.倶楽部

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Learning Design 2019年11月刊

インストラクショナルデザイナー 寺田佳子の学びのキセキ 第9回 弁護士・海老澤 美幸さん 切り開いた「クリエイティブを守る」道

人は学べる。いくつになっても、どんな職業でも。
学びによって成長を遂げる人々の軌跡と奇跡を探ります。

ファッション業界専門の弁護士として活躍する海老澤美幸さんは、自らスタイリングも手掛けるフリーのファッション・エディターでもあります。
その異色の経歴と、「ファッション業界を法律でどう守り、育てるか」について、所属する法律事務所のオフィスで伺いました。

Interviewee Profile︱海老澤 美幸氏
1998年慶應義塾大学法学部卒業後、自治省(現総務省)入省。1999年に宝島社に入社。
2003年に渡英し、ロンドンでスタイリストのマルコ・マティシック氏に師事する。
帰国後はフリーランスのファッション・エディターとして活動したのち、一橋大学法科大学院入学。2016 年に最高裁判所司法研修所を修了し弁護士登録。
ファッション関係者のための法律相談窓口「fashionlaw.tokyo」を主宰する。

Interviewer Profile︱寺田 佳子氏
インストラクショナルデザイナー。IDコンサルティング代表取締役。
ジェイ・キャスト常務執行役員。日本eラーニングコンソシアム理事。熊本大学大学院教授システム学専攻講師。
ICTを活用した人材育成のコンサルティングの他、リーダーシップマネジメント、プレゼンテーションセミナーなどの講師として国内外で活躍。
『学ぶ気・やる気を育てる技術』(日本能率協会マネジメントセンター)他、著書・訳書多数。

プロフィールこぼれ話★9 IDの恩師に言われたのが「現
場で、現場の課題を発見し、現場のために解決しなさい」。
だから事故の現場へもヘルメット姿で駆けつけます!

写真/矢部志保

01 司法試験なんて全然ムリ!

いま、ファッション業界が大きく変化している。限られたデザイナーやモデルたちだけで創る世界から、SNSの浸透によって「一億総ファッショニスタ」の時代になったからだ。服や小物を自分流にコーディネートした写真をSNSに上げてフォロワーの支持を集める、いわゆる「インフルエンサー」とよばれる人のなかには、権利関係の知識がないために、知らぬ間に他人の権利を侵害していたり、逆に自らの権利を守れずに利用されてしまうケースもある。

これからのインフルエンサーには法律のリテラシーが必要だと考え、若手インフルエンサー育成プログラムで著作・肖像権の基礎知識を教えるファッション・ローの専門家が今回のお相手、海老澤美幸さんである。

「おしゃれの現場に弁護士を!」という海老澤さんの“おしゃれの思い出”は、父の転勤先だった青森県の三沢で過ごした子どものころにさかのぼる。

「米軍基地の街でしたから、外国人と接するのは日常でしたね。そんな雰囲気の影響なのか、母親の洋服を着て、鏡の前でポーズをとったりするおませな子だったみたいです」

10歳で東京に来ると、中学時代には少女向けのファッション雑誌に夢中になり、女子高では、「演劇祭の衣装係になってドレスを縫ったり、ハロウィンでおしゃれに仮装するのが楽しくて」。

しかし、大学進学で選んだのは、意外なことに法学部。将来、自立するなら法律か経済がいいのではと考えた末の選択だった。

では、法曹界へ進もうと?

「周りには司法試験を目指す人がたくさんいたので、私もかじってはみたのですが、『難しすぎて全然ムリッ!』って、早々にあきらめました(笑)」

というわけで、ダンスサークルとセレクトショップのアルバイトに明け暮れ、ふと気がついたら3年生。友人たちはすでに内定をもらっていて、民間企業の就活は“時すでに遅し”だった。

普通ならここで「ガ~ン!」と途方に暮れるところだが、海老澤さんはこう考えた。

「あっ、そうか! だったら、公務員なら間に合うのかな?」

目の前に立ちはだかる課題を、「新たな世界に一歩を踏み出すチャンス」ととえられる、この「レジリエンス(回復力・柔軟性・弾力性)」が、どうやら海老澤さんの強みらしい。

そのうえ、

「どうせ挑戦するなら、コクイチ(国家公務員一種)がいいな」

と、屈託なく最高の高みを目指すのだから、最強のレジリエンスである。

サークルを引退し、バイトも辞めて、受験勉強に集中して1年余り。「滑り込みセーフで受かった」という海老澤さんが選んだのは旧自治省(現総務省)だった。青森で過ごした懐かしい日々が、地方自治への興味をかきたてたのかもしれない。

02 ロンドンでの学びを東京へ

晴れて国家公務員になり、入省1年目で出向したのが岐阜県庁だった。

「せっかくだから、全市町村を回ってレポートを書きなさい」と知事に勧められ、上司とともに市町村をめぐり、村長さんの話を聞くなど、充実した毎日を送る。しかし、海老澤さんは1年半で自治省を去る決心をする。

いったい何があったのですか?

「岐阜は繊維で栄えた街。おしゃれな衣料品店が並んでいたに違いない駅前が、すっかり寂れてシャッター街になっていたんです。これは、なんとかしないといけないと」

公務員という立場でも、「なんとかする」ことはできただろう。しかし海老澤さんは、ここでも、

「あっ、そうか! だったら、ファッションについて学べる仕事をしなくちゃ!」

と、新しい世界に目を向ける。間もなく公務員をやめ、運よく目にした出版社の中途採用に応募して、ファッション雑誌の編集者として歩み始めたのである。

当時はファッション雑誌の全盛期で、担当した雑誌も月2回発行していた。

それは忙しかったでしょう!

「毎日が“文化祭の前夜”みたいでしたね(笑)。でも忙しすぎて、悩んでいるヒマもなかったです」

ハイな気分のままにファッション・エディターとしての4年を駆け抜けたころ、ある課題が浮かんできた。編集者である自分の説明不足で、思い通りのスタイリングを実現できず、誌面のビジュアルに物足りなさを感じるようになったのだ。

「大好きな服をもっと魅力的に見せるために、自分でスタイリングができたらいいのに」

調べてみると、海外ではスタイリストがファッション・エディターを兼ねていることを知る。有名なファッション誌の編集長も自らスタイリングをしていた。

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