J.H.倶楽部

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Learning Design 2019年11月刊

特集│OPINION 2 目的を明確にした最小限のデータの収集・活用が不可欠 日本のデータ人事を阻害する要因、 そして活用のステージとは

「日本におけるデータ人事の活用は、欧米に比べて周回遅れ」と話すEY アドバイザリー・アンド・コンサルティングの鵜澤慎一郎氏。
企業として一番大切な「人材の確保と活用」で手遅れになる前に、日本の人事はどのようにデータの活用を進めていけばいいのか、話を聞いた。

profile
鵜澤 慎一郎(うざわ しんいちろう)氏 
EYアドバイザリー・アンド・コンサルティング ピープルアドバイザリーサービスリーダー
兼アドバイザリービジネスデべロップメントリーダー

事業会社での財務・人事・新規事業開発経験を経て2005年からコンサルティング業界に転身。
グローバルトップコンサルティングファームで一貫して組織・人事コンサルティングに従事し、主にグローバル人事組織設計・業務オペレーション改革・人事システム改革を手掛ける。
2017年4月より現職にて、日本のEYアドバイザリー組織の経営会議メンバー、人事・組織コンサルティング事業統括責任者、組織横断的な事業開発のリーダーを担う。

[取材・文]=平林謙治

日本のデータ人事は“周回遅れ”

「人工知能(AI)に人間が仕事を奪われる」「ロボットに人類が支配される」。そんな漠としたテクノロジー脅威論が叫ばれて久しいが、この種の話に、より強いリアリティーを感じ、真剣に恐れる向きは、実は日本ではなく欧米に多い。彼らにとって科学技術が行き着く未来の共通イメージは、まさに米映画『ターミネーター』が示す世界に近いのだ。

一方、我々日本人にとってのそれは『鉄腕アトム』であり、『ドラえもん』や『ガンダム』である。そうした“善玉”キャラの好影響もあって、AIやロボットにはどちらかというと、好奇心やロマン、仲間意識に似た親しみさえ感じるのではないか。ビジネスへの導入を考える場合も、心理的な抵抗感は比較的少ないだろう。

実際、人事・組織コンサルティングサービスを提供する当社では、ここ1、2年の間に、いわゆるデータ・ドリブンHRやピープルアナリティクスといった、人と組織の領域にAIなどのテクノロジーを活用する取り組みに関して、日本企業からの相談や問い合わせが急増した。

ただし、その多くは調査やPOC(Proof of Concept:パイロットとしての実証実験)を含む企画検討の域を出ない。国内でデータ活用のシステムや分析ツールを実装し、具体的な業務に全社的に活用している例はまだ稀だ。当社のクライアントでも、メーカーをはじめとした伝統的な業種では、関心こそ高いものの、自社で何ができるのか、どれぐらい使えるのか、まだ様子見にとどまっているのが現状だ。

翻って欧米の動向を見るに、日本は“周回遅れ”に甘んじていると言わざるをえない。アメリカのHRテック関連のイベントでは毎回、大手からスタートアップまで数百社にも及ぶ企業の新技術が出品されて目を見張るし、クライアント内部の組織設計でも、情報システム部門でなく人事部門内にHR テクノロジーチームやピープルアナリティクスチームのような専門部隊が配置されているという現実がある。

一番のネックは「データ整備」

なぜ、日本ではHR 領域へのテクノロジーの導入が大きく前進しないのか。その障壁は何なのか。

先述のとおり、心理的なバリアがあるとは考えられない。また、日本企業の人事は文系出身者が多く、統計学の知識やデータの分析スキルをもつ専門人材が足りないとの指摘があるが、その点も今はさほど関係ない。本格的な分析・活用のフェーズに入り、AIがデータに基づいて人事の重要な意思決定まで支援するようになれば、そうした人材も必要になるだろう。しかし、現状、日本企業はそれ以前の段階にあるのだ。

問題の本質は、心理面でも人材面でもない。高度な技術はあっても、分析の土台となるデータの整備ができていないという業務環境の物理的な制約が、実は一番のネックなのである(図1)。ここでは大きく次の2つの点を指摘しておきたい。

第一は、人事データの標準化対応への遅れである。多くの日本企業はカスタマイズにこだわりをもち、自社特有の人事データ定義やデータ保持のやり方のまま、長く過ごしてきた。いわゆるベストプラクティスとよばれる標準製品に移行すると、定期的にリリースされる新しい機能の活用や外部ベンチマーク比較が可能になるが、自社特有のやり方が障害となり、データ移行や標準化作業に多くの苦労と手間が発生している。

第二の問題は、データガバナンスの問題だ。人事データを分析しようにも、だれがどんなデータを収集すべきなのかという役割分担や運用面の編集権限、閲覧権限を整理できていない。現場部門にセールスパフォーマンスや組織貢献活動のデータがあり、人事部門のなかでも、人材開発に関するデータは教育担当者が、採用に関する情報は採用チームが、給与情報は給与担当者が、それぞれ別々のシステムで管理していることが多いため、データが集約・共有されず、扱いづらい状態のままなのだ。

あらゆる人事データをクラウドで一元管理するというプロセスを経て、すでに分析・活用のフェーズに進んでいる欧米企業に対し、日本はそうしたプラットフォームをいかに構築するかという段階である。そもそも必要なデータが自社のどこにあるかわからない、集めるのに時間がかかる。そんな議論がまだ多くの企業で続けられていることが、欧米企業との差を如実に表している。

欧米は「採用」、日本は「配置」

国内外の比較でもう1つ興味深いのは、HR領域のどの分野の課題解決にAIやデータを活用したいかという、具体的なニーズの在り処がはっきりと分かれる点である。

雇用流動性の高い欧米の企業では、「採用」分野へのニーズがもっとも大きい。多様なバックグラウンドをもつ大量の応募者のなかから、ポテンシャルの高い人材を効率よく見きわめ、選び出すために最新のHRテックが導入されているのだ。

では、日本はどうかというと、採用分野への期待や関心も少なくはない。しかし、企業からの相談や問い合わせを通じて、私がそれ以上に大きなニーズを実感するのは「ジョブマッチング」、すなわち人材の適正配置のためのデータ活用である。

これまで多くの日本企業は、新卒一括採用一辺倒で、同質性の高い社員集団と画一的なキャリアパスを前提とする人材開発を行ってきた。そのため、異動にせよ抜擢にせよ、過去の記憶や経験則に基づく意思決定がさほど大きな誤りを引き起こさずに済んだのだ。しかし、中途採用の増加やグローバル人材配置、女性活躍推進によって組織の多様化が進むとそうはいかず、職場の生き字引的なベテラン人事のノウハウも機能しなくなってきた。

たとえば、新規事業の立ち上げの度に、役員から「彼は10年前にも新規プロジェクトを成功させたから……」と同じ名前が挙がるようでは、アンフェアとの批判や不満は避けられないだろう。情報の偏りや個人の思い込みによるバイアスを払拭し、人材配置の最適解をだれもが納得できる形でより効率的に、より精度高く見いだしたい。データ分析・活用のニーズがジョブマッチングの領域に集中するゆえんである。

経験とスキルの“棚卸し”が急務

ところが、ここでもまた、企業のデータマネジメントの不備が日本を周回遅れにとどめているのが現状だ。そもそもジョブマッチングを実践するには、人を配置する職務の内容や範囲、必要な経験・スキルなどを定義し、明記した「ジョブ・ディスクリプション」(職務記述書)が必須である。評価の基準となるジョブの要件が明確でなければ、いくら高度なAIをもってしても、マッチングのしようがないからだ。

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