連載 人事制度解体新書 第20 回 アメリカン・エキスプレス・インターナショナル,Inc. リーダーシップ・コンピテンシーの 活用で仕事の成功を引き出す

アメリカン・エキスプレスでは、基本理念から導き出されたリーダーシップ・コンピテンシーなど、新しく開発された人事システムの導入により、「個人の変革」を引き起こすことに成功している。現在、その責任者である人事部門のバイス・プレジデント、木名瀬武氏に伺った。
人事制度改革への取り組み
アメリカン・エキスプレスでは1992年から、大規模な人事改革を開始した。ブランドの強さを過信し、傲慢になっていた企業風土を改めることが大きなテーマであった。前会長であるハーベイ・コーブラ氏がこうした会社の姿勢に危機感を抱き、ビジョンをつくり直してリエンジニアリングを推進。再建といってよいほどの大改革に乗り出したのだ。この間、アメリカ本社の方針の下、以下の人事諸制度が導入された。
①人事改革宣言期(92~94年)
問題をどう解決していくか、どんなビジョンを打ち出すべきか、本質的な議論を重ねていった。91年から「社員満足度調査」、さらに「360度評価」が導入され、公募制、完全職務給、ラインによる人事、評価の公開などが実施されていた。
②人事制度導入期(95~97年)
課題解決の目途がつき始めた3年目ごろから、「バランス・スコアカード」「リーダーシップ・コンピテンシー」「コンピテンシー・ベースト・インタビュー」「マトリックス組織」「マーケット・レファレンスゾーン(マーケットプライスを基にした給与決定)」「ブロードバンド」「ペイ・フォー・パフォーマンス」など、新しい人事制度が次々に導入されていった。
③人事制度活用期(98年~)
上記人事制度導入の完了が98年。その際、人事部の主な仕事が制度導入からコンサルテーションへと移行する方針が打ち出される。導入した制度を十分に活用し、ビジネス上の成果と結び付けていくことが求められていった。
「15年間にわたる人事制度改革を実施し続けてきたわけですが、いつのときでも、人事制度を変えれば必ず、また自動的にビジネスが成功するという保証があるわけではありません。人事制度の浸透には、相当の時間やコストがかかります。そのためのトレーニングにも、大変な労力が必要です。それは間違いなく投資なのです」と語るのは、日本・韓国の人事部門バイス・プレジデントの木名瀬武氏である。同社がそこまで投資したのは、「世界で最も尊敬されるサービス・ブランドとなる」という企業ビジョンを掲げていたからにほかならない。
「ビジョンを実現するためには、収益を上げ、株主の期待に応えながら投資資金も生み出さなければならない。当然、CS(顧客満足度)の向上も必要です。大きな成長を実現し、しかもそれを維持しないと、世界で最も尊敬されるサービス・ブランドにはなれませんから。それを達成するために必要不可欠だからこそ、これら諸々の人事制度を導入したわけです。会社のビジョンが違えば、人事制度の形や重点の置き方も当然違ってきます。当社と全く同じことをする必要はないと思います」(木名瀬氏)
その時々の課題に対応したアメリカの制度
世間の企業では、グローバルで認知された制度、多くの識者が良いとする制度を導入運用する動きが少なくない。問題は、それが本当に自社にとって必要なのか、あるいは必要だとした場合にどの程度必要なのかということについて、ほとんど議論されていないことだ。
「置かれた立場やビジョンが違うのに、他社の話を聞いて人事制度をそのまま当てはめようとするケースがあります。これはおかしな話です」(木名瀬氏)
まずは、自社がやりたいこと、目指すべきことがあり、それを実現するために自社の持つ資産・労力の何%を人事制度や組織改革に向けるべきかを考えていく。これが“本筋”である。それを何年計画で実行していくのか、あるいはいますぐかは、各社の考え方である。しかし、多くの企業は人事改革は当然に必要で、当然に重要だから実施すると考えているのではないだろうか。
アメリカの人事制度を見ると、その時々の課題に対応したものとなっている。例えば、80年代に日本がアメリカ市場で一人勝ち状態になった時、アメリカの企業はプライドを傷つけられながらも、日本企業の良い点を研究し、取り込んだことは周知であろう。
「米系企業を典型とするグローバル企業では、その時々の課題の解決が最優先で、手法自体を絶対視することは少ないと思います。また、ビジネスの仕方としては、他人と違うやり方で成功したいという動機が強いのです」(木名瀬氏)