気づきが人間力を育む ―人間力を育む学習方法

人は気づくことで成長していく。気づきと人間力は不可分の関係にあるといえよう。そこで今回は、長年にわたり体験学習を通じての気づきや人間関係づくりをテーマに研究してこられた南山短期大学名誉教授の星野欣生氏に、気づきとはいったい何か、さらには人間力を育てるための学習方法について考察していただいた。
いま、なぜ人間力なのか
バブル崩壊をきっかけにして、日本経済の姿は大きく転換した。組織の存立をかける企業価値も、ここしばらくは短期的な成果中心で推移してきたが、景気動向の安定化とともに、少しずつ足元に目が向くようになってきた。つまり、長期的に成果を持続させていくためには、組織の人間的な側面に、改めて陽を当てようという気運が強くなってきているように思われる。
組織が人の集合体で成り立っている以上、組織の活性化の原点は“人”の活性化である。ビジョンの実現や目標の達成に向けて、一人ひとりが充分に生かされていることが実感できる組織、また、そこにいることの安全が保障されている組織、そして、生き生きと活動できている組織こそが、結果として高い成果を生み出し続けていくことができるのではないだろうか。
“人”の活性化の原点は“人間力”のパワーアップとその全力展開である。人間力といっても幅広いが、一人ひとりの持っている想いや能力が組織の目標達成に向けて力として提供され、全力展開されることである。それはまた、目標の達成過程で一層パワーアップされていくものであり、いわば、人間力が成果を生み出しながら、同時に成果が人間力を育むような組織風土の形成が必要である。
人間力とは何か
一言でいうならば、人間力のある人は仕事ができる人、そして魅力的な人。何かわからないが強く引きつけられてしまう。別のいい方をするならば、存在感がある、あるいは存在感を感じさせる人である。人間力は“存在力”といっても良いかもしれない。人間力は特定の人のものではなく、その人の想い次第で無限に高めることが可能なもの。したがって、人によって大きさ、豊かさに差があるのは自然である。まさに一人の人がどのように生きてきたか、その生きざまを証明するようなものであるかもしれない。生の体験からの気づきを、どれ程自分のものにしてきたかによるものともいえる。
人間力を構成する諸力
ここでは、人間力を形づくっている要素を力の形で取り上げてみたい。
1.関係力(コミュニケーション力)
人である以上、私たちは関係を避けて通ることはできないし、関係のありようが人間としての力を大きくしたり小さくしたりするものである。
(1)反応力
“反応”はコミュニケーションの基本である。相手の言動に対して、その都度丁寧に返していくこと。ツーウェイ・コミュニケーションが強く求められる。人はきちんと返してもらった時、その内容よりも返してもらったことに満足するものである。そのためには、二つの力が求められよう。
① 傾聴力
それは、ただ、生理的に聞こえているのでなく、相手の立場に立って言わんとすることをそのまま捉えることができること。特に、わからない時にはわかったふりをするのでなく、わからないと返すことである。まさに、反応すること。
② 伝達力
相手に誤解が生まれないように、伝えたいことを明確に表現すること。私たちは、誤解された原因を自分はきちんと言ったのにとして、相手のせいにしていることが結構多いものである。
(2)受容力
相手を“あるがままに”受け容れること。特に自分とは異なった考え方などに対して、無視したり拒否するのでなく、違いをそのまま受け容れることである。そのことは、自分の考え方を変えるものではない。互いの違いを確認し合うことから相互理解が深まっていく。人間力が感じられる瞬間である。
(3)観察力
器官に障害がないことを前提に考えれば、言葉はコミュニケーションの有力な手段であることはいうまでもない。しかし、言葉は便利なもので、私たちはいつも心のなかで起こっていることをそのまま言葉にしているわけではない。相手の様子を見ながら、時にあいまいな表現をしたり、全く逆な言い方をすることもある。しかし、“からだ”は正直である。言葉で何と言おうと、表情、しぐさなど、からだは心のなかで起こっていることをそのまま外に表している。つらい時にはニッコリと笑えないもの。とすれば、相手の本当の気持ちをくみ取ろうとすれば、“からだが出すサイン”に注目すること。つまり、相手をよく観ることである。人は自分の内面を理解してもらうことで、相手に対する信頼感を増していくものである。