連載 はじめに夢ありき 第12 回(最終回) 夢の実現プロセスのリードこそマネジメントの仕事

人生に必要なものは、希望と勇気とサムマネー……名作『ライムライト』で、チャップリンが美しい花売り娘に語る台詞だ。彼の言葉どおり、人を動かすのは希望、すなわち夢である。それは企業でも同じだ。私はここ最近、中国やベトナムによく出かけるが、現地の企業を見て思うのは、やはり彼らの原動力は夢であるということだ。企業の原動力、成長力の源は夢。1 年間にわたる連載の最終回である今回は、成長する企業の条件としての「夢」について考えてみたい。
あなたは夢を語れますか? 夢を語れる職場をつくる
成長著しい中国、ベトナム、インドなどの国々の企業に接して感じるのは、彼らの原動力は「夢」にほかならないということだ。自分自身の将来に対する夢でもあるし、国全体としても国家としての夢を持ち、その夢に向かって突き進んでいる。
そんな姿を見て日本を振り返ると、やはり現在の日本に必要なものも夢ではないかと思えてくる。特に日本企業にとって必要なのは「はじめに夢ありき」の発想だと私は考えている。
バブル崩壊後の90 年代。ある意味「夢破れた」20 世紀最後の10 年間に、日本企業はひたすら目の前の現実と対峙し、そこから少しでも利益を出し、付加価値を生み出そうと四苦八苦してきた。そして15年が過ぎ、ようやく成長路線が見えてきた現在、これまでと同様の方法を採っていてよいのだろうか? という疑問が浮かぶ。今こそ「はじめに夢ありき」の発想に立ち戻ろう、それが今回の最大の主張だ。
あなたは夢を語れますか?
あなたの部下は夢を持っていますか?
正直に考えてみよう。マネジメントの立場にあるあなた自身が、そして、その部下が夢を語れているだろうか。夢を語れる職場であること、夢を語れる企業であることは、潜在的に成長力ある企業の特徴の一つであるといってもよい。
「夢」といった時に必ず思い出すのは、ホンダの前社長の吉野浩行氏の言葉だ。吉野さんは新入社員を迎える入社式で「自分の夢を常に3つぐらいは持ちなさい」と語った。壮大な夢を一つしか持っていない人もいるが、それでは夢の実現まで30 年、40年かかることがある。大きな夢もよいが、小さな夢、中くらいの夢などを取り混ぜて3つか4つの夢を持つ。そうすると4~5年に1回くらいは夢が実現していく。そのプロセスを経ることで、大きな夢も実現に近づいていく、そんな夢実現への具体的ステップを示した言葉だといえる。
個人同様に企業も夢を語ることが重要である。今や世界を代表する自動車メーカーとなったトヨタ、そして、その好敵手として長年競合関係にあるホンダ。両社のブランド・コピーに、期せずして「夢」という言葉が使われているのは印象的である。トヨタは"Drive Your Dreams"、ホンダは"The Power of Dreams"である。
このような企業メッセージを語るのは、まずは各社のトップである。各社のホームページには必ずといってよいほどトップメッセージが掲げられているが、誰もがアクセスできるホームページで、トップがどのようなメッセージを語っているのか、これは非常に重要だ。驚くほど、その企業の本質、姿勢が表れているからだ。
例えば注目のワタミのホームページでは、社長の渡邊美樹氏が「『地球上で一番たくさんのありがとうを集めるグループになりたい』この大胆な野望を胸に、これからも夢に日付を入れつつ、一歩ずつ、一歩ずつ、体の重い亀のように歩んでまいります」というメッセージを発している。
また、あまり知られていないが、最近私が注目している企業の一つ、富山県にある田中精密工業のホームページでは、社長の田中一郎氏が「創業以来、夢に挑戦する情熱を忘れず、品質最優先の意識、厳しさを増すグローバル競争に打ち勝つ力、次世代技術に対応できる開発力の強化など、圧倒的なQCD総合力で世界から注目される企業を目指す」とメッセージを発している。
成長力のある企業の条件は、第一にトップが夢を乗せたメッセージを発していること。そして重要なのは、その夢を社員がどれだけ共有しているかである。逆の言い方をすれば、現在元気であるといわれる企業は、トップがメッセージとして夢を発信しており、それを社員が共感できている企業なのだ。