J.H.倶楽部

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Learning Design 2018年07月刊

連載 中原淳教授のGood Teamのつくり方 第1回 僕が「チームアップの研究」を始める理由

素晴らしいチームはどのように立ち上がり、どのように共通の目的を目指すのか?
長年、「人材開発」「組織開発」を研究してきた中原淳氏が、新たなテーマに挑戦します!

中原 淳(Jun Nakahara)氏
立教大学 経営学部 教授

立教大学経営学部教授。立教大学経営学部ビジネス・リーダーシップ・プログラム(BLP)主査、立教大学経営学部リーダーシップ研究所副所長などを兼任。東京大学教育学部卒業、大阪大学大学院人間科学研究科、メディア教育開発センター、米国・マサチューセッツ工科大学客員研究員、東京大学講師・准教授などを経て、2018年より現職。
著書に『職場学習論』、『経営学習論』(共に東京大学出版会)、『研修開発入門』(ダイヤモンド社)『駆け出しマネジャーの成長論』(中央公論新社)など著書多数。
研究の詳細は、Blog:NAKAHARA-LAB.NET(http://www.nakahara-lab.net/)。Twitter ID : nakaharajun

取材・文/井上 佐保子 写真/宇佐見 利明 イラスト/ asuka sachiko

みんなが困っている「半径5メートルの問題」

「職場で困っていることを3つ挙げてください」とお聞きしたら、皆さんはどう答えますか? 「若手がすぐに辞めてしまう」「上司が仕事を任せてくれない」など、さまざまな答えが出てくるかと思いますが、恐らく7、8割が「人がらみの悩み」を抱えておられるのではないでしょうか。そしてその中には「チームがまとまらない、目指すものがバラバラ」などチームに関するものも少なくないはずです。

では、働く人たちのこうした「チーム」についての悩みに、経営学はきちんとした答えを提示してきたのでしょうか。

人的資源管理や組織論などの研究はいろいろありますが、「半径5メートルの小さな組織」に目を向けたものは、それほど多いわけではありません。つまり、多くの人が知りたいチームの悩みに答えるような研究知見はほとんどないのが実情です。僕は常々、この部分の“解答集”となる研究をやりたいと考えていました。

そんな折、長年勤務していた東京大学を離れ、2018年4月より立教大学経営学部に移籍し、教鞭をとることとなりました。

立教大学経営学部では、ビジネス・リーダーシップ・プログラム(BLP)という、チームで問題解決を行うリーダーシップ教育プログラムを行っており、1年生は360名全員、2年生も7割が履修しています。また、立教大学では、僕の移籍後、学習データを分析するチーム(データアナリティクスラボ:田中聡助教が就任)を新たに立ち上げ、学生やチームに関する大量のデータを収集することになりました。

つまり、この移籍で僕は、国内最大級規模のリーダーシップ教育に携わる機会を得ると同時に、「チーム研究やリーダーシップ教育の効果性を研究する現場」をディレクションする機会に恵まれたというわけです。それが「チーム研究」をスタートさせるに至った経緯です。

「人材開発」と「組織開発」のハザマにあるもの

僕はこれまで「人材開発」領域の研究を続けてきました。しかし、働く人の成長は、組織の状態に大きく左右されます。そこで、ここ数年は「組織開発」研究も行うようになりました。これから始める「チーム研究」はその中間にあるものと位置づけています。

組織全体に働きかける「組織開発」は、企業の合併時など、危機的な状況にもダイナミックな効果をもたらしてくれます。しかし、先述の通り、多くの人が頭を悩ませる職場の問題は、もっと小さな、半径5メートルのチーム内で起きているものがほとんどです。大規模な「組織開発」が必要になる「組織課題」が生まれる前に、こうした半径5メートルの問題を解決できれば、結果的にそこで働く「人」の成長を後押しすることにもつながるのではないでしょうか。

今後も「人材開発」研究を進めつつ「組織開発」にも興味を持ち続けますが、その間を埋めるものとして、「チーム研究」を始めていきたいと考えています。

チームアップの科学がミドルマネジャーを救う!?

チーム研究の中でも、特に注目しているのが、「チームアップ」です。チームに関する研究では、形成期(Forming)-混乱期(Storming)- 統一期(Norming)- 機能期(Performing)の4段階で発達するというタックマンのチーム発達モデルが有名です(注:後に散会期(Adjourning)を含む5段階論に展開)。「チームアップ」は、このうちの形成期、つまり、チームが立ち上がる段階を指す言葉です。

僕は今、日本企業のミドルマネジャーたちに一番必要とされているのは、「チームアップの科学」ではないかと考えています。日本の企業経営の要(かなめ)は、今も昔も現場でチームを束ねるミドルマネジャーたちです。今後、人材の多様化が進むことを考えると、その重要性は増すばかりです。

しかし、今、日本のミドルマネジャーたちは元気がありません。彼らの多くはチームのつくり方を知らないままマネジメントを任され、我流でチームアップをやっては大火傷を負い、自信をなくしています。

失敗パターンはほぼ決まっています。最初のつまづきは、チームメンバーとの「目標設定」をきちんとせず、「なぜこの仕事をやるのか」「なぜ自分がやるのか」をみんなが握れないままスタートしてしまうことでしょう。その結果、メンバーのモチベーションが低下し、仕事が回らなくなる、あるいはメンバーが放棄した仕事をマネジャーがひとりでカバーして疲弊してしまう、といった末路をたどりがちです。

実は、こうした失敗は、ちょっとしたやり方、「チームアップの科学」を知っていれば未然に防ぐことができるものばかりです。経済が成熟したこの時代において、ビジネス上の大成功はもはや“アート”の世界であり、再現が難しいものですが、「グッドチームをつくること」は誰でも実現可能です。僕はグッドチームのつくり方、すなわち「チームアップの科学」を追究し、現場のミドルマネジャーたちに届けたいと考えています。

人手不足ニッポンにグッドチームの知恵を

未曾有の「人手不足」問題が進行している日本では、今後もますます人材の多様化が進んでいくこととなります。

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