J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2017年10月号

OPINION1 まずは「違和感」を自分の言葉で書き出すクセを あきらめない人間力で、 問題を見つけ、解く力の鍛え方

「意識的な努力と訓練の積み重ねで、誰でも考える力を伸ばすことができる」
そう語る上田氏。物理学の研究において、自らとことん考え抜く経験を重ねてきた同氏は、それを他人に伝授するため、考える力を鍛える訓練法を導き出した。
人生を楽しむため、豊かにするためにも欠かせない、その手法とは。


上田正仁(うえだ まさひと)氏
東京大学 大学院理学系研究科 物理学専攻 教授

1963 年、大阪市生まれ。東京大学大学院理学系研究科(物理学専攻)教授。88 年、東京大学大学院理学系研究科修士課程修了、博士(理学)。NTT基礎研究所研究員、広島大学工学部助教授、東京工業大学教授等を経て2008 年より現職。2012、13年に開講した講義「基礎方程式とその意味を考える」は、立ち見者が続出。考える力の鍛え方をテーマに、講演も多数行う。著書に『東大物理学者が教える「考える力」の鍛え方』(ブックマン社、PHP文庫)など。

[取材・文]=田邉泰子 [写真]=編集部

考える力の鍛錬は筋トレと同じ

突然だが、自分が「筋トレ」を始める様子を想像してみてほしい。筋トレは言うまでもなく、身体を鍛える方法のひとつである。自分の身体に合ったトレーニングメニューを少しずつこなすことで、筋力は徐々にアップする。何もしなければ、身体は衰えるばかりだ。

実は「考える力」も同じである。他の人が疑問に思わないところ、周囲が常識だと考えているところに問題点を見いだし、根本までさかのぼって問題の本質を突き止める。考えることは、新たな創造を生み出すための重要なプロセスといえるだろう。だがこの作業をいきなりやろうとしても、うまくいかない。なぜなら、考えるために必要な思考回路が脳内にできていないからだ。

私たち日本人の能力は、子どもの頃からマニュアル的な処理力重視で鍛えられてきた。私たちが“優秀さ”の指標としていたものは、1つの答えに絞られる問題を、できるだけ短時間で、効率よく解きこなす力だ。その最たる例が入試問題である。

したがって、毎日できることから「考える」トレーニングを積み、新しい脳の使い方を少しずつ身につけ、考えるための思考回路をつくっていく必要がある。

私は「考える力」は3つの要素で構成されると考えている(図1)。

①問題を見つける力

考える力というと、「問題を解く力」を連想する人が多いかもしれないが、考えることの始まりは、これまで意識されなかった潜在的な問題を発見することにある。また問題解決を阻む要素を見いだすことも、「問題を見つける力」の重要な要素である。

② 解く力

①で見つけた問題を、解決に導くための能力である。誰も考えたこともないような問題には、当然参考になる解き方も存在しない。そのため解き方についても自分自身で“考える”必要がある。

③あきらめない人間力

見つけた問題を解く糸口はどこにあるのか。そこにたどりつくまでには、情報を集め、読み込み、取捨選択を行う必要がある。さらにさまざまな情報の関係性を整理し、つながりを検証する。その繰り返しによって、課題や解決の方針は次第にクリアになり、新たなアイデアにつながる。筋トレは毎日続ける必要があるように、「考えること」もコツコツ地道に取り組んでこそ、その能力を身につけることができる。あきらめずにやり抜く力が問われるのである。

ちょっとした違和感を大切に

では、どうすれば「考える力」を伸ばすことができるのか。行うべきことは実にシンプルである。

ひとつは、「あれっ?」という小さな違和感にきちんと対峙すること。なぜ違和感をおぼえるのか。何に対する違和感なのか。もやもやした気分のまま、その原因をうやむやにするのではなく、意識的に違和感を言語化させるのである。

私たちの日常では、忙しいことを理由に、この違和感をないがしろにしたり、ネットで少し調べただけで、分かった気分になったりしてしまいがちだ。だが、これでは考えたことにはならない。短時間、通勤電車やトイレの中で考えるのでもいい。初めは、仕事にこだわらず趣味に関することでもよいので、心のモヤモヤを言葉に変換する過程を楽しむのである。

違和感を言語化させる際は、メモを取ることをお勧めしたい。脳内メモリを頼りにし過ぎると、処理“脳力”を超えてしまいがちだ。違和感や分からないことを書き出すことで、脳は「考えること」に専念できる。また実際に書いてみれば、言語化できたこととそうでないことが明らかになる。

ノートに書く、スマートフォンに入力するなど、やり方は人それぞれで構わない。私は、小さなメモ帳やパソコンをメモ代わりに使っている。コツは、まず「自分の言葉で書く」ということ。資料の言葉をそのまま使うのではなく、自分が腹落ちできる表現を「考える」のである。このように丁寧に仕込んだ情報は脳に情報処理された形でストックされ、ここぞという時にサッと取り出せるようになる。

また、書いた内容は「しばらくしてから読み返す」こともポイントだ。メモした時点では分からずじまいだったことが、別の経験を重ねてクリアになる場合もある。逆に新たな違和感を解決に導くヒントが、過去のメモに隠れているかもしれない。

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