J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2017年09月号

シリーズ 組織開発を追いかける 第3回 「組織開発ワンデイ集中講義@ IN 東京」より③ 事例から学ぶ 組織開発の実際

今、日本企業において「組織開発」に対する関心が高まっている。
いざ組織開発を実践しようとする時、
推進者は、具体的には何をどのように進め、苦心していくのか。
本シリーズは、4月29日に行われた「組織開発ワンデイ集中講義@IN東京」と、
とある講座での実践から、それらを明らかにしようとする試みである。


[取材・文]=編集部・佐藤鼓子[写真]=編集部

第3回の本稿では、企業の実践事例をまとめる。組織開発の全体像について講演した中原淳氏(東京大学)と中村和彦氏(南山大学)に続いて、ベーリンガーインゲルハイムジャパンとヤフーの担当者が、対話を重視した自社の取り組みを紹介した。

【組織開発の実践事例1】 対話型 システムコーチング

泰道明夫氏

ベーリンガーインゲルハイムジャパン 人事本部タレントマネジメント部 組織開発グループ マネージャー

ODスキル向上こそ人事の本領

中原先生と中村先生のご講演から、いろいろなタイプの組織開発があるなと改めて感じました。本日はその中でも、対話型組織開発にフォーカスした弊社の取り組みをご紹介します。

多くの企業において人事がいかにビジネスに価値を提供していくかが問われていると思いますが、「人事の価値」を社内で高めていくために、弊社が注力した1つが、組織開発(OD)スキルの向上でした。

各組織を担当する人事ビジネスパートナーのODスキルの向上を目的に、タレントマネジメント部の組織開発グループが、実際に現場の課題を扱って約1年間にわたるトレーニングを実施しました。中原先生にサポートいただいた「OD実践塾」と題した、ODスキル向上のためのアクションラーニングです。

当然、人事ビジネスパートナーが独自にODを実践していけることが最も好ましいのですが、学びを最大化するために、ODノウハウを持ったタレントマネジメント部のメンバーがサポートに適宜入り、企画の段階から手助けをしていきました。

弊社で人事ビジネスパートナーが組織開発を実践するにあたり、そのベースとして大事にしているのがこの5ステップです(図1)。ODを進めていく際には、この5つのステップを行ったり来たりすることもあります。5ステップの中でも、最初のエントリー、エビデンス収集、真因決定までのプロセスは時間をかけて議論をしました。

特に真因決定は、きちんと真因の“芯”を捉えられていないと介入時の効果が低くなるので、議論に議論を重ねて、分析・精査をしました。

組織全体への関与で関係改善

組織の課題抽出の時に弊社がよく使うのが「ケン・ウィルバーの組織変革の4象限」です(図2)。

この右半分の視覚化されやすい部分の課題については、対応されているケースが多いと思います。我々も、目標設定の方法に曖昧さや不公平さがあれば目標設定の内容を、役割分担が曖昧ということであれば職務記述書の記載を細かく修正するサポートを行うこともします。

ただ、左半分の視覚化されにくい内的な部分がOD実践時の大切なポイントでもあります。メンバー同士の関係性や、組織の中の人間関係を丁寧に見ていくのです。

例えば、組織内で一体感を醸成し、組織のパフォーマンスを最大化させるために、メンバー間の関係性向上をめざしてシステムコーチングを実施することがあります。上司と部下で行う一般的な1対1のコーチングに対して、システムコーチングはグループ全体にコーチングを行います。グループ全体を1つのシステムに見立て、そのシステムの中に存在する関係性をつまびらかにし、それをワークさせるべく、ファシリテーターが徹底的に関わっていきます。

ケース①部門Aのビジョン作成 非言語表現で本音を引き出す

以下に具体的な2つの事例を紹介しましょう。

人事の仕事では「組織のビジョン作成をサポートしてほしい」とリクエストを受けることも多いでしょう。今回依頼のあったこの部門でも、メンバーが自身の言葉で語れるビジョンがなかったため、組織の方向性が見えず、部門長が期待するレベルでメンバーの連携が取れていないことが問題となっていました。

そこでまずビジョンをつくり、そのビジョンを使って対話をすることで組織内の関係性を深めていきました。具体的には、5年後になりたい組織の姿を言葉ではなく、ブロック玩具のレゴで表現してもらいます。

レゴを組み立て、そこで表現したかった意味をキーワードで出していきます。そして「視覚会議」という会議手法を活用して、それらのキーワードを含めたビジョンステートメントを仕立て、その後、システムコーチングを行いました。

ビジョンステートメントに対する理解を高めるため、そこに含まれている9つのキーワードを紙に書き出し地面に並べて、参加者に9つの場所に順番に立ってもらいます。そして、それぞれの場所で感じたことを色や音、身体動作で表現してもらい、さらにその理由を言葉でも説明してもらいます。

日常業務とは一味違ったそれらのワークを通じて、メンバーの本音を引き出していきます。そうすることで、普段の思考の枠を超えた発想が出てきたり、「○○さんがそんな考えを持っていたのか」というような、相互理解につながる効果もありました。

このチームではその後も、対話を通して互いの理解を深め、ケーススタディや類似のワークを用いて、部門のビジョン達成のために、メンバーの行動変容を実現していく取り組みを続けています。

ケース②部門Bの生産性向上 肯定感向上でチームを活性化

次は別の部門での実践事例です。本人は日本国内の組織に所属していても、上司は海外に存在するという組織構造を有するグローバル企業は増えているのではないでしょうか。この事例も同様でした。そのため、日本にいるチームリーダーが「チームワークを発揮し皆に誇りを持って働いてほしいが、なかなかそうした状況にできない」と相談に来ました。

そこでチームのメンバー各人に原因をヒアリングした結果、いろいろな課題が出てきました。グローバル組織特有の悩みかもしれませんが、この組織では、組織のスリム化が進むと同時に、業務のマルチタスク化を求められていました。

それに加え、直属の上司は海外にいるので、意思決定に時間を要し、さらに日本人は英語が苦手。本社との意思疎通もなかなか思うようにはいきません。国内でのチームワークも取りづらく、多くのメンバーがストレスを感じていました。

そこで、チームワークがうまく取れない真因を精査したところ、チーム内の肯定性が非常に低く、その結果、生産性が下がっていることが分かりました。一般的に業務量が多いと、プロセス改善で残業時間を減らそうとします。しかし関係性の改善による生産効率の向上がこのチームには重要だと判断し、次のワークを行いました。

まずお互いの強みをメンバー同士で徹底的にフィードバックし合います。お尻がむずがゆくなりますが、チームのポジティビティ(肯定的な考え方や態度)は一気に上がります。場を温めて会話ができるベースを整えた後に、今度は「神話の起源」と呼ばれる手法で、入社したきっかけや、入社当時の夢などをメンバーに聞いていきます。誰でも入社当時は非常にモチベーションが高い時期であるため、当時のエネルギーを聞き出していくことでチーム全体のポジティビティを上げるのです。本人の強い思いがこもった入社時の話は、働き方にも影響し、同時にメンバーの相互理解にもつながります。

その後、ハイドリームという、チームの最高の状態を、身体を使ったりオブジェで表現したりするワークも実施しました。中原先生が言及された「アゲアゲワークショップ」のごとく、徹底して肯定感情を高めていきます。始まる前はいぶかしげな様子だったメンバーが、終了時は何かキラキラしたものをたたえた表情に変わり、チームもとても元気な状態になりました。

その後も、チームビジョンを描き、ビジョンに近づくために、メンバーの行動変容につなげるためのワークを継続実施しました。

人を動かすのは実践者の熱意

私自身、1人のODプラクティショナー(実践者)として強く思うのは、当然ですが、クライアントである組織の長が本気か、もしくはいかに本気になってもらうかが一つの大きな成功要因だということです。それと同時にOD実践者本人の腹くくり、覚悟や熱意も本当に重要だと思います。ちょっと精神論的ですが、そこがないと全てが始まらないという気がしています。

最近は対話を通した組織開発実践の話をよく耳にするようになってきているように感じます。このお話が皆様のお役に少しでも立てれば幸いです。

【組織開発の実践事例2】 対話・調査・ケース化の循環モデル

池田 潤氏・小向洋誌氏

ヤフー コーポレートPD本部 PD企画部

第1フェーズ 真逆への変革で始動したOD

池田氏

当社は2012年に経営改革を始め、以来、丸5年経過しました。当社の組織開発の歴史は経営改革と同時に始まったようなものです。そのため、当時、社内で組織開発に詳しい人はほぼ皆無でした。

私は経営改革のタイミングで人事部門に異動し、当社における組織開発とは何か、常に試行錯誤しながら活動を続けてきました。この5年の取り組みで参考になるところがありましたら、お持ち帰りいただければと思います。

2012年からの当社の取り組みは、大きく3つに分けられます(図3)。

その第1フェーズにおける最大の変化は、トップの交代をきっかけとした全社単位での経営改革です。カリスマ型リーダーの井上雅博から、宮坂学へ社長が代わりました。宮坂は就任早々、「僕は前社長のようなトップダウンのリーダーシップはとれないので、皆さん一人ひとりがフォロワーシップを発揮してください」と宣言しました。

トップダウンだった組織を一気にボトムアップ型にするため、経営陣がビジョンや新たなバリューを、矢継ぎ早に発布していきました。

当時はいわゆる大企業病を患っており、事なかれ主義の蔓延、そして物事の意思決定に非常に時間が掛かるような組織だったのですが、その真逆をいくような経営メッセージが次から次に出され、人事制度などのハードも大胆に刷新し、組織の在り方自体が大きく変わりました。

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