J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2017年09月号

OPINION2 伸びしろが小さい理由とは 中途社員の伸び悩みを解消する 社内の“弱い紐帯”の形成

多摩大学経営情報学部教授の小林英夫氏は、
一般企業での経験を元に、人材の成長について研究を進めてきた。
その結果、中途社員に見られる伸び悩みは、
社内ネットワークなどの“紐帯(ちゅうたい)”が不足していることが
影響しているのではないかと指摘する。


小林英夫(こばやし ひでお)氏
多摩大学 学長室長 経営情報学部 教授

博士(経営学)。日本アイ・ビー・エムを経て、2000 年、イー・アクセス創業に参画。初代人事部長、初代組織管理本部長。関連子会社イー・モバイルの立ち上げにも関わる。イー・アクセス代表取締役副社長、イー・モバイル執行役員副社長を経て、2013 年に多摩大学経営情報学部准教授。2016年より現職。専門領域は組織マネジメントとアントレプレナーシップ。


[取材・文]=田邉泰子 [写真]=編集部

中途社員は“伸び悩む”のか

転職市場が活況だ。中途採用は初期教育にかける時間とコストが節約でき、即戦力を期待できるように見えるため、積極的に行う企業もある。

ところが年次が経つにつれ、状況は変わってくる。仕事はこなせるようになるものの、それ以上の成長が鈍化する。“伸び悩む”のである。

私自身、企業で人事を務めていたことがあり、この現象には当時、何度も直面していた。モバイルやインターネットなどの通信事業を手掛ける企業の立ち上げから参画し、組織管理本部長として、人事制度の整備や採用計画などを進めてきた頃だ。

初期は、縁故採用が中心で、加えて公募の中途採用でメンバーを増やしていたが、設立の翌年からは新卒採用を開始し、並行して中途採用を随時行った。1999 年に12人で始めた会社は、10 年後にはおよそ1300人を抱える大企業に。その過程で、中途社員の伸び悩みが課題となっていたのである。

社員の頃はその現象を感覚的に捉えていたが、実際のところはどうなのか―それを調べるため、一般社員を対象に、新卒と中途社員それぞれの人事評価の経年変化を集計し、比較検討を開始した。それが、現在の私の研究テーマにつながっている。

新卒社員特有の同期意識

ここからは、調査より得られた結果をいくつか紹介したい。図1は、入社年数と業績評価の平均推移を、新卒と中途で比較したものである。

双方の評価とも、入社初年度の段階では全社平均以下ではあるが、中途社員のほうが新卒社員よりも高スコアだ。多少なりともキャリアを重ねてきた中途社員のほうが、仕事の勝手が分かる分、社会人経験ゼロの新卒社員よりもスコアが高くなるのは当然といえる。

入社2年目以降を見ると、新卒社員のスコアは順調に上昇している。対する中途社員だが、2年目こそスコアに一定の伸びを見せるものの、変化の幅は小さい。その後は全社平均のあたりをキープし続ける。そして3年目に新卒社員が中途社員にほぼ並ぶと、4年目には新卒が逆転し、7年目には中途を完全に上回る。

この調査は一般社員を対象としており、優秀な中途社員の中には数年で管理職となった人もいる。そのため単純比較はできないことに留意する必要はある。しかし中途社員が伸び悩む傾向にあることは、この結果から客観的に評価できるだろう。

どうしてこのような差が生じるのか。続けて私は「新卒社員と中途社員の成長意識の違い」に着目し、管理職直前の職階にある複数の社員に、インタビュー調査を行った。すると新卒と中途では、次の2つの要素について大まかな傾向が得られた。

■同期や同年代に対する競争意識

図2はインタビュー調査で得られたコメントと、同時に行ったアンケート結果の一部である。アンケートの結果からは、新卒社員は中途社員よりも社内での競争意識が強いことが明らかである。そしてインタビューでも、新卒社員は共通して同期や近い年代の社員を意識しており、具体的に社員の名前を挙げる人も多かった。対する中途社員には、特定の社員をベンチマークする人もいなくはないが少数であり、相対的に見て競争意識はそれほど強いわけではないといえる。

「負けたくない」という気持ちは成長を支える要因だと、過去に多くの研究者が指摘している。新卒社員の社歴が長くなるにつれ評価を上げる理由には、この競争意識も関係していると考えられる。

■コミュニケーション糸口の違い

人によって入社時期が異なる中途社員は、同期がいたとしても人数が限られる。そのため、他部門とのコミュニケーションの糸口に困難を感じるという意見を、このインタビューで聞くことができた。対する新卒社員は、ここで同期のネットワークを有効活用している。

以上に紹介したのは、ある一企業の結果に過ぎない。だが中途社員と新卒社員との間に、多少なりとも上記のような違いが生じる傾向にある企業は、確実に存在するだろう。

新卒と中途の資本の違い

「同期や同年代に対する競争意識」や「コミュニケーションの違い」というのは、どちらも“人”にまつわる要素だ。一言でいえば、新卒社員は中途社員よりも「社内の社会関係資本が豊富である」ということになる。新卒社員の社会関係資本構築は、中途社員とどこに違いがあるのか。私は大きく2つあると考える。

①同期の存在と育成体系の違い

新卒採用では、会社の規模や経営状況にもよるが、大手企業であれば一度に数十名、数百名の新人が同時に入社する。彼らは採用選考という同じプロセスをくぐり、さらに入社後の新人研修では、プレッシャーのかかる課題をグループで乗り切るといった、連帯感が強まる経験に多く触れている。特に20 代前半という若さや、初めて社会に出る不安を抱えた状況などを考えると、“同期意識”が強まることは想像に難くない。

その後それぞれの部署に配属されバラバラになったとしても、何かあれば気軽に相談でき、意欲の面では刺激し合える心強い存在となり得る。

また、定期的な年次教育で、同期集団として体系的に育成されていく。

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