J.H.倶楽部

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月刊 人材教育 2017年09月号

OPINION1 中途採用者にこそ教育と組織サポートを 上司の関わりと 人的ネットワークの構築が鍵

中途採用者の組織適応に詳しい甲南大学の尾形真実哉教授は、
「中途採用者は、十分な教育もされずに放置されているが、
新卒者以上に組織のサポートが必要」と訴える。
では、どのようなサポートが有効なのか。
「適応エージェントの提供」、「中途採用者研修の実施」、
「中途文化の定着」といった中途採用者を活かす仕掛けについて聞いた。


尾形 真実哉(おがた まみや)氏
甲南大学 経営学部 教授

1977 年宮城県生まれ、2002 年に明治大学商学部卒業、2007 年神戸大学大学院経営学研究科博士課程修了。甲南大学経営学部専任講師、准教授を経て現職。研究分野は、組織行動論、経営組織論。著書に『日本のキャリア研究:組織人のキャリア・ダイナミクス』(共著、白桃書房)、『人材開発研究大全』(共著、東京大学出版会)等。
中途採用者の組織適応に関する研究成果は『甲南経営研究』(甲南大学)などで順次発表していく。


[取材・文]=崎原 誠 [写真]=編集部

重要性増す中途マネジメント

2000 年代以降、日本においても中途採用を実施する企業が増え、労働市場が流動化してきた。転職が一般化し、キャリアの選択肢が増えたことは、働く個人にとって良いことである。

ただ、転職にもいろいろなタイプがある。一番良いのは、給料や役職が上がったり、より満足できる仕事を自ら選ぶという、ポジティブで主体的な転職だが、現実には、ネガティブな転職が多いように思える。ネガティブな転職では多くの場合、労働環境などが悪質な会社に就職し、すぐに辞めてしまう。すると能力・スキルが身につかないので、再度労働市場に出ても需要が乏しく、次も悪質な会社にしか就職できないという負のスパイラルに陥りやすい。

他方、諸条件の良い会社に就職した人が、その良い環境を手放してまでキャリアアップのために転職することは比較的珍しい。日本人の特性として、「安定した会社に長く勤めたい」という「一企業キャリア」志向が高い人が多いことは、働く人の意識調査※を見ても明らかであり、最近の学生と接していてもそう感じる。日本においては、誰もが転職に対して抵抗がないとは言えないのが現状であろう。

ただ、労働生産人口が減っていく中、企業にとって中途採用の必要性は高まっており、今後もその傾向は続いていくと考えられる。コストを払って採用した中途採用者に高いパフォーマンスを発揮してもらうために、組織の中途採用者のマネジメントがより一層、重要になっている。

※『第7回勤労生活に関する調査』図表2-1 望ましいキャリア形成、労働政策研究・研修機構など。

尖りっぱなしでは成果は出ない

中途採用者に即戦力となってもらうだけでなく、イノベーションのトリガーになることを望むケースも多い。中途採用者は既存社員に、従来とは違う仕事の進め方や見方があることを気づかせてくれる。中途採用者と既存社員の間に、そのような“良質なコンフリクト”を生じさせることが、組織の成長につながる。

しかし、仮に、組織に新しい風を吹き込む“尖った人材”を採用したとしても、いったんはその尖りを丸める必要がある。上級管理職や専門家として転職してきたのであれば、当初から自分を貫くことが求められるだろうが、そうしたケースを除けば、最初から尖りっぱなしでは組織に受け入れられず、パフォーマンスを発揮することは難しくなる。まずは組織に適応し、パフォーマンスを発揮できるようになったうえで、後から尖りを出していくことが求められる。

6つの組織適応課題

では、中途採用者が組織に適応するうえでは、どのような課題があるだろうか。ある企業でインタビュー調査を行い分析したところ、6つの課題が浮かび上がった(図1)。中途採用者がこれらによっていかに「窮屈な状況」に置かれているかを、企業が理解することが、非常に重要である。

①スキルや知識の習得

まず、中途採用者の入社パターンとして最も多いのが、前職と同じ業種・職種での転職であろう。しかしながら、同じ業界でも会社が異なれば、仕事の知識や使う用語は異なる。そうした知識やスキルの学習が必要である。

②暗黙のルールの理解

どんな企業にも、固有の文化や慣習、目に見えない暗黙のルールが存在する。そうした文化やルールは、仕事を円滑に遂行するために重要な役割を果たすので、意識的に伝える必要がある。

上記①と②は、新卒・中途に関わらず、新しく組織に入った全ての人に共通の課題といえる。ただ、新卒の場合は、長い時間をかけてそれらを理解・習得していくことが許され、進んで教えてくれる先輩もいる。しかし、即戦力として早急に成果を出すことが求められる中途採用者には、猶予や教えてくれる人が与えられないことが多いため、克服の難易度は異なると考えられる。

③アンラーニング

アンラーニングは「学習棄却」と訳され、いったん学習したことを意識的に忘れ、学び直すことをいう。

中途採用者の場合、過去の経験から得た持論に固執すると、周囲からの反発や、自身の視野の偏りが生じ、新しい組織に適応しにくくなる。全てを捨て去る必要はないが、前職で染み付き、障害になる行動規範、仕事の仕方などは一度脱ぎ捨てる必要が生じる。

④中途意識の排除

「中途意識」というのは、「私は中途だから」という引け目や負い目のようなもの。「自分は異質と思われている」という意識があると、うまくコミュニケーションがとれず、仲間意識を阻害する。既存社員から「外から来たくせに」と見られることもあるにはあるが、本研究からは、中途採用者のほうが過敏になっている様子が見てとれた。

③と④は中途採用者固有の課題であり、身につけたものや意識を排除しなければならない難しさがある。

⑤信頼関係の構築

また、本調査で、「どうすれば(組織内で)信頼関係を築くことができると思うか」と中途採用者に聞いたところ、皆、口をそろえて、「信頼を得るには成果を出すしかない」と答えた。確かに、成果を出さなければ、同僚から信頼を得ることは難しいだろう。しかし、信頼関係がなければ、成果を上げることも難しい。ここに、因果関係のねじれが生じている。

⑥人的ネットワークの構築

仕事は個人の力で達成できるものではなく、他者との協働作業を通じて遂行され、達成されるものであり、組織内の人的ネットワークが欠かせない。しかし、人的ネットワークを構築するには、それなりの時間が必要である。ところが、中途採用者は、既に述べた通り、早急に成果を求められる。

この⑤と⑥を私は「中途ジレンマ」と呼んでいる。中途採用者の「窮屈な状況」が見て取れるだろう。

人的ネットワーク構築が鍵

これらの組織適応課題を解消するうえで特に大事なのが⑥の人的ネットワークの構築である。なるべく早く人的ネットワークを構築させることが、仕事の成果につながり、その結果、信頼関係も構築されていく。誰がどの部署にいて何を知っているのか(know-whom)が分かれば、詳しい人に仕事の知識・スキルを聞くこともでき、暗黙のルールも教えてもらえ、中途意識も徐々に薄れていく。人的ネットワークを構築すれば、その他の課題も解消に向かう。

個人には積極性が必要

視点を変えて、中途採用者の個人属性について見てみよう(図2上)。中途採用者の個人属性とパフォーマンスの関係を分析した結果、高いパフォーマンスを発揮している人には、5つの特性があることが分かった。

転職経験以外の4つは新卒者にも必要な能力だが、その性質が異なる。例えば「コミュニケーション能力」に関していえば、新卒者が相手であれば、既存社員も相談に気軽に答え、先輩のほうから声を掛けてくれることも多い。しかし中途採用者の場合、そうはいかない。既存社員は、中途に対して距離を置き、“お手並み拝見意識”を持っている人もいるため、中途採用者の側が積極的にコミュニケーションをとる必要がある。「謙虚さ」や「柔軟性」は、中途意識の排除やアンラーニングと関連する。素直に教えを乞う姿勢や、新しいやり方を受け入れる姿勢が、新卒以上に求められる。

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