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株式会社オートバックスセブンにおける
健康経営の取り組み策

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健康経営の高まりとともに優良法人認定を目指す企業も増加しており、「健康経営優良法人2021」においては、大規模法人部門で前年比約1.2倍の認定数となりました。一方で、新型コロナ感染拡大は、それまでの施策の見直しや工夫を迫っています。
そこで株式会社オートバックスセブン人事・総務・法務担当執行役員の平賀則孝氏をお招きし、同社のビジョン「2050 未来共創」の実現にむけた取り組み策の1つである「健康経営の具体的な取り組み策」についてお話いただきました。セミナーは一般公開開催でしたが、会員の皆様には、以下よりセミナーレポートと動画、当日のレジュメをご用意しました。ぜひ下記よりご覧ください。

こんな方におすすめ

  • 健康経営銘柄や優良認定法人を目指す企業の方
  • 従業員の健康リテラシーを高めていく施策について検討したい方
  • 健康経営の取り組み成果や健康経営への実施率を高めたいと考えている方

登壇者プロフィール

樋口 毅(ひぐち つよし)氏

株式会社ルネサンス 健康経営企画部 部長/健康経営会議実行委員会 事務局長

平賀則孝(ひらがのりたか)氏

株式会社オートバックスセブン 人事・総務・法務担当 執行役員

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第1部

健康経営2021の総括 経営戦略としての健康経営
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オートバックスセブンにおける健康経営の取り組み策
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第1部健康経営2021の総括
経営戦略としての健康経営

  • 樋口 毅氏
  • 株式会社ルネサンス 健康経営企画部 部長/健康経営会議実行委員会 事務局長

第2部オートバックスセブンにおける
健康経営の取り組み策

  • 平賀則孝氏
  • 株式会社オートバックスセブン 人事・総務・法務担当 執行役員

セミナーレポート

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Ⅰ.健康経営2021の総括 経営戦略としての健康経営

●企業規模を問わずに広がる健康経営

私は株式会社ルネサンスという、フィットネスクラブや介護リハビリ事業等を提供する会社に所属しながら、NPO法人健康経営研究会や、経済産業省の健康投資ワーキングの委員を務めたりと、様々な形で健康経営に携わっております。

健康経営に関する情報は、上記や本日のセミナーの他にも、私どもが携わらせていただいている「健康経営会議」や「健康長寿産業連合会」というところでも得られますので、参考にしていただければ幸いです。

では簡単ですが、健康経営2021の総括に入ってまいります。

健康経営は、企業の業績や企業価値の向上に貢献することを目的として、経済産業省主導のもと推進されています。これまでの「健康管理」は労働安全衛生の分野でしたが、「健康経営」の目的は従業員の健康に投資することで企業の業績を向上させるという意味があります。これに合わせて昨今では、厚生労働省やスポーツ庁も健康経営の取り組みを応援するようになってきています。また、日本健康会議という団体も健康経営の取り組みを支えています。

健康経営は、大企業版と中小企業版という形で、会社の規模に応じた取り組みがなされています。大企業については「健康経営銘柄」「健康経営優良法人認定ホワイト500」「健康経営優良法人認定」という3段階の表彰制度がございます。中小企業においては、2020年から「ブライト500」という制度が出てきています。

国がすすめているその他の顕彰制度もあります。その詳細は、図表1の通りですが、従業員の健康、安全、働き方といった取り組みに関して、各省庁が様々な制度設計を行っています。中でも、「健康経営優良法人の認定制度」については、大規模法人部門、中小規模法人部門ともに、他の顕彰制度よりも多くの企業が手を挙げています。

健康経営銘柄に話を戻しますと、2021年の健康経営銘柄は、全33業種から、29業種48社が認定を受けています。また後述するように、経済産業省の新たな動きとして、この健康経営銘柄やホワイト500を取得している企業の取り組みを外部公開する仕組みが整えられています。

図表1 国がすすめる顕彰制度
図表1 国がすすめる顕彰制度

●大企業、中小企業ともに取り組みが恒常化。外部公開の動きも

直近の現状、2020年度を見ると、大規模法人部門はコロナ禍においても2,523社の申請がありました。そのうち認定企業は1,801社を数え、特に大規模法人については、健康経営の取り組みが当たり前になってきているという現状が見てとれます。

また、ホワイト500という制度は2017年度にスタートしましたが、同年度は539社の認定だったのに対し、2020年度になると1,800社に増加しました。このことによって、少なくとも上位30%に入らなければホワイト500を取ることができなくなりました。ホワイト500が狭き門になってきていますが、良い傾向としては、企業で健康経営に取り組むことが当たり前になり、多くの企業で健全な企業文化が浸透していくと見ることもできることです。

健康経営への取り組みは、中小企業にも大きな広がりを見せています。中小企業版の認定に関しては、制度がスタートしてから毎年3,000社以上の申請件数があり、2020年度は9,400社から申請がありました。

補足になりますが、2021年4月13日の日本経済新聞で「健康経営の『偏差値』開示」に関する記事が掲載されました。ホワイト500に取り組む企業に関して、その取り組み結果である健康経営度調査のフィードバックシートを経済産業省のホームページで外部公開するというものです。実際、5月10日時点で健康経営銘柄を取得している各業界のトップ企業48社については、経済産業省のホームページ上にその結果や取り組みが公表されています。

なお、健康経営の取り組みを、自社だけの取り組みでなく外部公開していくという動きは、今年度になって活発化しています。経済産業省の健康投資ワーキングでも、健康経営の取り組みは投資家から一定の評価を受けることを伝えながら、その取り組みを経済界に広げていきたいと考えています。実際、今年(2022)の健康経営度調査の回答については、ホワイト500の認定(申請)をする企業については、開示が必須になるという動きもあります。

現在、健康投資ワーキングで議論されている論点は大きく3つあります。1つめは、「情報開示の促進」で、これを国が主導すること。2つめは、「パフォーマンスの評価・分析」で、その結果を外部への公表につなげていくこと。ここでは、健康増進だけではなくモチベーションの向上等を通じて、企業業績・企業価値の向上につなげているかどうかも外部公開することを求めてきています。3つめが「持続的な発展」で、健康経営の取り組みの審査・認定について、国だけではなく、民間団体でも担える仕組みについて検討を進めています。これは、投資家からの評価をより受けやすい仕組みの構築を目指すものです。

●経営戦略における健康経営の位置づけを明確にする

続いて、経営戦略における健康経営の位置づけについてです。健康経営の取り組みを深く考えるという意味で、「深化版」の健康経営の定義を、2021年7月にNPO法人健康経営研究会と共に政策提言として出す予定です。これは、健康経営とは従業員の健康管理だけではなく、働きやすさ、働きがい、生きがいを通じて社会の成長と企業の成長を両輪で回す仕組みの中で行われるべきだという提言です。

では、なぜ企業において従業員の健康が必要なのか。この問いをまず皆様方が持って、それに答えていくことが健康経営の第一歩となります。健康増進に反対する人は誰もいません。しかし、経営戦略の観点から従業員の健康についてどう考えていくのか。つまり、ただ従業員が健康であればいいのではなくて、経営の視点で考えたときになぜ従業員が健康である必要があるのか、という点です。これに関して経営層は答えをもつ必要があります。

その答えのもち方については、社会の変化やその中で起きる人の変化がポイントになります。人と仕事の関係、仕事と社会の関係、人と社会の関係というように、各ステークホルダーとの関係の中に健康経営を位置づけて考えていく必要があります。つまり健康経営を、単なる福利厚生やボランティアではなくて、戦略として捉えていくという視点が大切なのです。

特に日本の場合、世界のどの国よりも早く少子高齢化が進み、労働人口が減っていくなかで、50年、100年というスパンで企業活動を考えたとき、いかにして労働力を確保していくのかは、喫緊の経営課題といえるでしょう。また、コロナ禍によってデジタル化やオンライン化が急激に進み、副業・兼業も当たり前になってきましたが、こうした環境下では個人が自分と社会の関係性や、自分と会社の関係性をより深く考えていかなければなりません。

まとめると、目前の課題として少子高齢化のなかで労働人口をどう確保するか。事業継承をどうするか。縮小する国内市場において、企業の成長力をどう維持していくのか。このような社会や人の変化に対応することが経営視点で必要になるのです。

●人という資源を資本化することで企業として成長する

上記のような考え方から、健康経営とは、「人という資源を資本化し、企業が成長することで、社会の発展に寄与すること」という一言でまとめられます。(図表2)一番のポイントは、これからの経営においては、人という資源を資本化する動きが求められることです。今までは人、物、金、情報が経営資源でしたが、これらは、ともするとコストになっていたり、コモディティ化したりしているかもしれません。これからは、コストからキャピタル(資本)へと変えていく必要があるのです。従業員は「代替可能な人」から、「クリエイティビティを発揮できる代替不可能な人」が必要とされるでしょう。

図表2 各ステークホルダーと健康経営
図表2 各ステークホルダーと健康経営

イノベーションや変革をもたらす原動力は誰かの意志・信念であり知識です。AIではなく、人が革新的な発想や行動を起こしていくことがすべての基点になります。そう考えたときに従業員の健康をどのように考えていくのかという健康経営の視点はとても大切になります。

製造現場では、従来、品質の保証は労働の質にかかっていました。この労働の質は健康の質で保証されます。具体的には、労働安全衛生活動をどんなに徹底しても、人が健康問題等でミスや事故を起こしたならば、品質の保証は維持できません。つまり労働の質を担保するためには、健康の質を保証することが必要な社会に変わってきているということです。

また、一人の社員が企業イメージに直結していることも忘れてはいけません。サービス業においては、お客様と接する社員一人ひとりがその企業のイメージでありブランドになります。その社員の行動や社員の立ち居振る舞いが、すべての顧客をつかむのか逃がすのかを決めてしまう。そう考えると、従業員のモチベーション向上も投資価値に変わってくるでしょう。健康経営が対象とする領域は、個々人の健康管理だけにとどまらず、従業員がいきいきと働ける状態をつくっていくための活動へと、広がってきているのです。

●理念を確立してストーリーを描く

健康経営には、従業員がもっている暗黙知を形式化して、これを企業戦略として使えるようにすることも含まれます。そのためには従業員の働きがいを高めていくための居心地の良さやコミュニケーションという要素も押さえていく必要があります。健康経営に投資をする企業は、企業と従業員が共に成長します。

健康経営事業をつくるうえでは、理念・方針をきちんとつくり、その上で従業員の現状分析をして働きかけをしていく必要があります。企業の健康経営の物語では、Why(理念・方針の設定)、Who(課題・重点対象者の設定)、What(プログラムの選択)、How(プログラムの実行)からの取り組みがとても大切になります。What、Howだけの取り組みでは持続しません。Why、Whoが戦略として描かれてこそ、健康経営の取り組みは発展していきます。

私からは健康経営2021の総括と、改めて健康経営の必要性と、その健康経営を戦略として考えるための視点をお話しさせていただきました。ありがとうございました。

Ⅱ.オートバックスセブンにおける健康経営の取り組み策

●オートバックスセブンの企業概要

オートバックスセブンは、カー用品のフランチャイズビジネスを展開している会社で、売上高2,214億円、店舗数583、直営店は12店舗、連結従業員数は4,385名です。オートバックス、スーパーオートバックス、それからセコハン市場(中古用品店)、エクスプレスなどのガソリンスタンドも運営しています。最近は、車の買取と販売もさせていただいています。海外は主にフランス、台湾、シンガポールなどに45店舗を展開しています。

社名の由来ですが、AとUは、アピールとユニークで、オートバックスのありたい姿を示しています。その下のTOBACSは、タイヤ、オイル、バッテリー、アクセサリー、カーエレクトロニクス、サービスと、商品の頭文字を取って並べたものです。ロゴの6つのラインは、6つのハイウェイに見立て、商品が真ん中に集まっているという意味です。そして「セブン」には、この6つだけではなく、7つめの何かを探そうというメッセージが込められています。

続いて経営者の紹介をさせていただきます。創業社長の住野利男は、「怒りの経営」とも呼ばれたトップダウン型の経営者でした。2代目の住野公一は、創業者の長男です。怒りの経営の初代に対して、2代目は正反対の「笑いの経営」でした。スーツをやめてカジュアルを推奨するなど、柔軟な発想でお客様をお迎えしようという経営方針でした。この時に、漫才のM-1グランプリが弊社の冠スポンサーで始まりました。3代目社長は湧田節夫です。彼はJ-SOXが入ったタイミングで就任し、店舗の接遇接客の質向上を徹底して行いました。

そして4代目が現社長の小林喜夫巳です。カー用品の販売だけでなく、車の修理や整備も行うことができる、地域密着型の整備ローカルネットワークの構築を推進しています。

●健康経営の最近の具体的な施策

弊社の健康経営への取り組みの歴史という点では、創業時から各チェーン本部の従業員に配布された「店舗経営の基本」という冊子があるのですが、そのなかで経営の3本柱の1つめとして「健康法の実践」が明記されています。私が入社した頃は、経営理念になぜ健康法が書いてあるのだろうと不思議に思ったものですが、今となってはそれが経営と連動していることが理解できるようになりました。なお経営の3本柱の2つめは「SMI」(目標管理ツール)、3つめは「オートバックス信念」です。

また、1992年に研修施設を「健康センター」に改修し、これを機に健康セミナーを実施しています。

●6つの重点取り組み課題と組織体制

最近の具体的な施策としては、2014年に、「オートバックスセブン健康経営宣言」を行っています。これは、健康保険組合が厚生労働省とコラボヘルスのモデル事業に応募し、そのタイミングに合わせて「健康宣言」を発信したことがきっかけです。その後、2018年度に「健康経営宣言」に切り替え、カードをつくって全従業員に配布しています。ここでは、「『2050未来共創』の実現を目指し、経営・労働組合・健康保険組合・従業員とその家族が一体となって健康増進につとめ、”こころ”と”からだ”の元気を推進」することを謳っています。

健康経営の重点取り組み課題としては、①禁煙促進活動の推進、②生活習慣病予防対策の推進、③がん対策の推進、④こころの健康づくりの推進、⑤女性特有の健康関連課題への取り組み、⑥『健康経営』を推進する職場環境の整備、の6つを設定しています。

図表1は、健康経営組織です。青の組織はオートバックスセブン本体の人事部内の組織です。そこに、健康保険組合、労働組合、そしてオートバックスチェーン全体の福利厚生を担当しているオートバックスグループ共済会という団体が加わり、包括的に取り組んでおります。

2021年度は4つの施策を掲げています。まず1つめの健康経営全体の課題は、ホワイト500を取得して健康経営への推進姿勢を社内外に発信することです。ホワイト500は、2018年度に取得したものの、その後は取得できていません。3年ぶりの取得を目指して力を入れているところです。2つめは禁煙促進活動の推進、3つめが高リスク者対策、4つめがこころの健康づくりです。

本日は、このなかから禁煙促進活動と、高リスク者対策の2つを紹介します。

図表1 健康経営組織
図表1 健康経営組織

●トップからの発信など、あの手この手で禁煙促進活動を推進

まず、禁煙促進活動については、喫煙率20%未満という目標を掲げています。それに伴った要因分析、アウトカム目標の設定、アウトカム目標達成のために何をするか、という行動のリスト化を行っています(図表2)

アウトカム目標の「喫煙による自身の健康被害を理解する」という項目に関して例を挙げると、喫煙による健康被害のことを理解できてない方も多いという実態を踏まえ、eラーニング教材の「健康経営ライブラリ」を推進しています。

また、東京都が主催する団体「禁煙推進企業コンソーシアム」に参加しましたが、これに合わせて、取締役、執行役員全員でタバコをやめるとともに、喫煙する方は採用・契約更新をしないという「サンドイッチ作戦」を展開しました。

もう一つは、社長からのDMの送付です。社長が卒煙を呼びかけているポーズをした写真をDMにして、2年間、喫煙する方の自宅に郵送しました。これはかなりインパクトがありました。社長直々のDMが家に届くこともそうですが、それを見た家族が本人に卒園を勧める動きもあり、禁煙のきっかけにつながった人が多くいました。

3つめは、イントラネットへの卒煙・禁煙の記事掲載です。卒煙に成功した人の体験や、遠隔禁煙外来を受けている方の途中経過などを記事にして発信しています。

こうした取り組みの結果、2020年度にようやく喫煙率30%を切ることができました。全国平均の17.9%にはまだまだ遠いですが、まずは20%を切ることを目標に日々取り組んでいます。

図表2 禁煙促進策の検討
図表2 禁煙促進策の検討

●健康状態を4段階にレベル分けして、生活習慣病予防対策を推進

続いて、生活習慣病予防対策の推進についてです。これは健康保険組合とコラボヘルスにより従業員を階層化したものです。(図表3)のように、検診結果と健康保険組合のレセプトデータを数値化して、従業員の健康状態を4つのカテゴリに分けています。

ブラックは、危険な状態です。突然死の防止をするために、主には産業医の定期的な面談を必須としています。レッドは、糖尿病、高血圧などの重症化の防止が必要な方です。主には私と人事、産業医、所属している部門長が一緒になって二次検診の受診勧奨を行っています。イエローは、今後レッドになりそうな方で、今後の発症防止が軸になります。特に健康マネジメント研修への参加を促し、グリーン(正常な状態)に改善できるように指導しています。

高リスク者対策としては、禁煙活動と同じように目標を掲げて取り組んでいます。「ブラックとレッドのゾーンの該当者を30%以下に」という目標を掲げ、要因分析を行い、アウトカム目標と、それを達成するためのアクションプランを設定しています。健康状態を自身で把握できていないと重症化するリスクもあるので、検診結果などを見ながら改善してもらえるようにeラーニングの受講も徹底しています。

健康増進研修(現「健康マネジメント研修」)も、1992年に研修施設を「健康センター」に改修して以来、継続しています。当初は5泊6日で食べ物や栄養について学んだり、運動や冷たい水と暖かいお湯を交互に入る温冷浴をしたりと、みっちりと学ぶ研修メニューでした。ただし、時代の流れとともに長時間の拘束が難しくなったため、また、なるべく多くの方々の受講を促すため、2018年度からは産業医・保健師の講話中心に1日の短縮版メニューで行う研修になりました。2019年度からは、運動のパートについてはルネサンス社にご協力いただき、我々の保健師がフォローをする形で実施しています。

図表3 生活習慣病予防対策の推進
図表3 生活習慣病予防対策の推進

●楽しみながら取り組める、さまざまな施策を展開

部長・課長層にはJMAMのeラーニング「健康経営ライブラリ」の受講を必須としています。また、高リスク者対策として、セルフチェックと健康知識の10コースを指定受講してもらっています。前述の「健康マネジメント研修」の健康知識の講話の中でもマイクロクッキングコースを紹介しています。以前は、リアルで調理実習を行っていましたが、時間の制約があり、たくさんの料理の紹介はできませんでした。マイクロクッキングは、たくさんの料理を紹介できるので好評です。

その他にも、新入社員研修で食事指導を行っています。最初は何も伝えずにコンビニで好きな弁当やパンを買ってきてもらい、それをもとに健康指導を行います。次の日には学んだことを意識して買ってきてもらうのですが、こちらは身近な話題で、実際に買ってくるということからも、結構盛り上がります。

また、保健師から、ふだん事務所でお昼にカップラーメンやおにぎりを食べている方が多いという指摘を受けたことから、「オフィスおかん」と「OFFICE DE YASAI」を導入し、事務所で安価に野菜や栄養バランスのよい惣菜を食べられるようにしました。

運動習慣の促進策については、2014年度から「ザ・コーポレートゲームズ」(主催:一般社団法人スポーツフォーライフジャパン)という企業対抗の運動会に6年間続けて参加しています。「ランナーズ24時間リレーマラソン」(主催:一般財団法人アールビーズスポーツ財団)にも協賛しておりますが、2019年度からコロナの影響で中止になっています。

2021年度は「さつき・ラン&ウォーク」にも参加しました。アプリを利用して、ウォーキング、ランニングの平均歩数、距離を競うものです。

●コロナ禍での取り組み

また、コロナ禍で横のコミュニケーションが取れないという声をもとに「AKC77(オートバックス・ナレッジ・サークル)」を開催しました。これは、テーマを決めて集まって、みんなで盛り上がろうという企画です。キャンプに詳しい方が先生となって、いろいろと教わりながらキャンプを楽しむ会や、男子で料理が得意な方が講師になって、作り方を紹介する「男子の料理族」といった企画を実施しました。

なかなか海外に行けないのでオンラインでの海外ツアーや、外出の機会が減って歩かなくなっていることから、ウォーキングキャンペーンも行いました。これはチームで参加をして、1人1日平均8000歩を達成すると500円のQuoカードがもらえるというもので、多くの方に参加していただいています。人事部も参加していますが、仲間に迷惑をかけられないので全員が毎日歩いて、盛り上がりをみせています。

●今後の健康経営の課題と展望

最後に、今後の健康経営の課題と展望についてです。(図表4)は、オートバックスセブンが中期的に取り組む人事戦略です。

中期的なテーマとしては、企業価値を最大化させるための「人の成長」が最重要課題です。パフォーマンスを最大化し、生産性を向上させていくことが大きなテーマとなっています。具体的には、①働きがい(評価・報酬)、②チャレンジ(企業風土・ワークスタイル)、③戦略的配置(採用・戦略的配置)という3つの観点で、それぞれ取り組んでいきます。

そして、健康経営の推進なくしてはこの3つに対応・対策ができない、ベースになるものだと謳っています。これは、創業時から変わらない姿勢、取り組みです。

図表4 人事戦略
図表4 人事戦略

健康経営で解決したい経営課題については「健康経営戦略マップ」に落とし込みました(図表5)。ゴールは、「明るく元気で活力みなぎる組織の実現」です。そのための施策としてアクションプランを設けており、効果を測っていこうとするものです。資料としては出来上がっていますが、まだまだ道半ばのものです。「明るく元気で活力みなぎる組織」を実現するためには、どういった指標を設定して、どんな評価をすればいいのかを検討中ですが、現時点では傷病と体調不良による欠勤休職日数を減らすことを評価軸にしようとしています(2021年4月発表当時)。

ワークエンゲージメントの向上についても、現時点ではストレスチェックの結果等を用いて活力度を測ることを検討していますが、今後も引き続き検討を続けてまいります。

弊社は2050年に100年企業になりますので、「2050未来共創」を目指すビジョンを掲げています。社会、車、人の暮らしと向き合いながら、明るく元気な未来をつくりたい。そのキーワードは「Professional & Friendly」です。プロフェッショナルについては、お店の技術はもちろん、オートバックスグループがプロ意識を持った一流でありたい。フレンドリーとは、お店の対応がフレンドリーで優しい会社でありたいということです。この2つを目指して、今後も企業として成長していきたいと考えています。本日はご清聴ありがとうございました。

図表5 健康経営戦略マップ
図表5 健康経営戦略マップ

Ⅲ.質疑応答

樋口:

まず振り返りとなりますが、平賀さんのお話を聞いて感心したことが、3つほどあります。まず、歴代の経営者をご紹介いただきましたが、創業当時から「人」に対する理念を企業文化としておもちで、時代を経て、経営者が代わっても一貫している点です。つまり、企業文化や経営戦略の中に「人」に対する位置づけが明確にあることがとても素晴らしいと思いました。

2つめは組織体制です。私はよく企業さんから、「うちの健康保険組合がなかなか協力してくれない」と聞きます。逆に健保さんに行くと、「うちの会社はやる気がなくて。どうしたら健康経営ができるようになるのか経営者を説得してほしい」と言われます。オートバックスセブンさんの文化にあるのは、企業、健康保険組合、労働組合、安全衛生委員会といった組織体制と役割分担がしっかりされていのだと実感しました。

3つめは、この春に平賀さんからご依頼を受けて、オートバックスの経営者の皆様へ健康経営のお話をさせていただいたのですが、その時も、健康のあり方について、経営層の皆様がディスカッションする場所を用意されているのだと感じました。かつ人事の皆様は戦略的に物語をつくって健康経営の取り組みをされています。平賀さんは、道半ばでまだ結果は出ていないとお話しされましたが、例えば、喫煙者を採用しないといった戦術がしっかり組み上げられているのは非常に参考になると思いました。

ではここからは、平賀さんに参加者の皆さんからのご質問をお選びいただき、ご回答いただきたいと思います。

質問1:健康マネジメント研修は、どの企業のものを使っていますか。
平賀:

1992年から進めている健康マネジメント研修は、最初は自前で行っていましたが、最近は、ルネサンス社にご協力いただいています。非常に好評で、オンラインでもできる運動なども取り入れながら実施しており、参加しやすい研修になっていると思います。

質問2:「休職者以外のアブゼンティズムの指標や取り組みの予定はありますか」
平賀:

これは非常に難しく、我々としても悩ましいところですが、保健師が人事部内に在籍しているので、ブラック、レッド、イエローの区分に基づき、生産性が落ちていると思われる方については、定期的に面談を行っています。また、人事にもメンタル相談窓口がありますので、その相談内容について、関係者でコミュニケーションを取りながら対策を進めています。まだ明確な指標はできていないのですが、問題意識をもって取り組んでいます。

質問3:「健康経営を推進するにあたり、健康経営推進室や健康経営推進チームなどを設けて定期的に会合をしていますか」
平賀:

健康保険組合、労働組合、共済会という福利厚生を行う団体など、オートバックスチェーンの各団体とともに健康経営推進チームをつくって活動しています。先ほど紹介したみんなで歩いてクオカードをもらおうという「ラン&ウォーク」の企画は、オートバックスセブンとしてではなく、共済会に依頼して実施した取り組みが、店舗全体にも波及した事例です。

質問4:「取締役に定期的にプレゼンしていますか。しているのであれば、内容と頻度を教えてください」
平賀:

頻繁にプレゼンするいうよりも、定期的に情報を伝えていくことが大事だと思います。先日ルネサンス樋口様には、弊社の取締役と執行役員全員が参加する会議でご登壇いただき、健康経営とは何かについて、あらためて解説をいただきました。その後、私から、今の取り組みの課題や、それに対してどうアプローチしているのかを説明しました。

また、大きな会議体で継続的にプレゼンするというよりも、日々のコミュニケーションの中で、禁煙の成功例などについて、部門長と話をするようなことも大切です。役員とのコミュニケーションの中では、定期的に従業員の健康に関する話題を盛り込むことが効果的ではないかと思います。

質問5:「『オフィスおかん』の内容を教えてください」
平賀:

人事部で一部費用負担をしながらバランスのある食事を食べていただこうと考え、「オフィスおかん」を提供している会社のサービスを入れたものです。どの企業様でも導入できるものです。事務所の冷蔵庫などに総菜系の食事を置いてもらい、好きなものを選んで食べられるというものです。

質問6:「禁煙活動で、いわゆる岩盤層(なかなか禁煙しない層)に対してどんな取り組みをされていますか?」
平賀:

私たちも同じ悩みを抱えています。先ほど、禁煙・卒煙を促す社長DMの例をお話ししましたが、これは結構効果的でした。特に部門長向けには、禁煙・卒煙だけではなく、会社が健康経営に真剣に取り組んでいることをアピールできると思います。単に親心でやめてほしいのではなく、生産性を上げて会社が成長するための使命なんだと。

特に部門長が率先して取り組むことが大切ということで、昨年は社長からの呼び出しという形で面談して、DMをその場で手渡しました。それでも吸い続ける方も一定数はいますが、根気強く、おせっかい人事といわれても継続したいと思います。

質問7:「保健師さんは何名いますか?」
平賀:

現在は弊社の人事部には、東京の豊洲本社に1名、大阪の出入橋に1名ということで、2名います。

樋口:

ありがとうございました。オートバックスセブン様では、喫煙者への対応にしても、理念・利害・力学の3つをきちんと使い分けていると思いました。喫煙者は採用しないという条件はいかがなものかというご意見もあろうかと思いますが、力学だけやってしまうと、たしかにハラスメントや差別になりNGです。しかし、しっかりした理念があれば、採用条件の中に喫煙していないという項目があっても問題がない。そういう判例も出ています。

ただし、物事の順序としては、まず理念があり、そのうえで教育があり、最終的な判断は本人に任せるということです。そうしたなかでの率先行動として、役員の更新の条件にタバコを吸わないことが盛り込まれているのは一番の力学で、それを上位者に使っていることが大きなポイントだと思いました。

私からは、人事戦略について質問したいと思います(図表)。オートバックスの健康経営は、健康経営の指針が一番下の土台にあって、その上に「働きがい」「チャレンジ」「戦略的配置」というフレームがあり、生産性の向上と企業の成長という物語がきちんとあります。あらためて聞きたいのは、中期のテーマとして「『ヒト』のパフォーマンスを最大化することで生産性を向上させる」と書かれているところです。なぜ、従業員の健康が必要なのか、経営戦略の中でどうして人が大切なのか。このあたりをぜひお伺いしたいと思います。

図表 人事戦略
図表 人事戦略
平賀:

我々の業界は、以前はカー用品を売っていました。こうしたなかで、例えばカーナビが流行ったら、次に出る新車には純正(標準装備)になります。ETCも同じで、この循環なんです。将来的にも、車好きの減少、EV車が増えてオイル交換がなくなるといった変化と危機感を考えると、新しいマーケットを次々につくっていく必要がある。このマーケットをつくるのは人です。そして、そもそも健康でなければマーケットをつくる人も輩出できず、育ちもしません。

樋口:

自動車業界は、メーカーが先行しているのだと思っていましたが、メーカーが先につくったものでも、皆様の努力でさらに市場を開拓していく。それをまた純正品という形でメーカーが取り入れていく、というサイクルがあるのですね。

そう考えると、自動車業界でイノベーションを起こすには、御社のような企業が先行していかないと成長は見込めないということですね。あらためて人の重要性という観点について質問させていただきました。岩崎さんは、ご質問はありますか。

岩崎:

このコロナ禍で、健康に対する意識が変わってきたのではないかと感じています。オートバックスセブン様の中で、コロナ前後での変化がもしあれば、お聞かせいただければと思います。

平賀:

店舗の対応と、オフィスの対応の両方ありますが、コロナ禍の前後でいうと、店舗ではやはり「感染しない、させない」の徹底が重要になっています。接客においては、生産性と効率化を両立して、お客様と接点をもつ必要がある部分と、接点をもたなくていい部分については新しい提案ができないかという視点で対応していくことが加わったと思います。

またオフィス勤務は現在(2021年4月現在)、出社3割以下を目標に、在宅勤務中心になっています。コロナ後、ワクチン接種後は以前と同様の働き方になるのか等について、人事部として発信していく必要があると考えています。

樋口:

御社のコロナ禍での取り組みの中で印象的だったのは、コミュニケーションを大切にされていることです。健康管理の物語は、やはり心と体になりますが、従業員のコミュニケーションの活性化も大きな課題です。コロナ禍で、オフィスそのものの価値や、環境軸としてのコンフォート(心地よさ)、コミュニケーションというテーマも大切にされていると実感しました。

最後にお願いが一つあります。健康経営は「道半ば」ということですが、これから進めていく取り組みについて、ぜひまた一緒に登壇させていただき、今日お聞きしきれなかったことや、アップデートしたことについて、お聞かせいただければと思います。私たちも、これからもいろいろな形で情報提供させていただきたいと思います。

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