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中途採用者の早期戦力化と組織適応 2021/2/27 特別レポート(オンライン)

企業規模の大小にかかわらず、職場に中途採用者が増えています。早期の戦力化が望まれる中途採用者ですが、現実はそう簡単ではありません。また、テレワークの浸透によって支援の難しさも一層高まっています。中途採用者を早期戦力化し、組織に適応してもらうには、どのような支援や育成、マネジメントが必要なのでしょうか。実施された400社の企業、500人の中途採用者に対しての大規模な調査結果をもとに、甲南大学の尾形真実哉氏にそのポイントをお話いただきました。会員の皆様限定で当日の動画・セミナーレポートを公開いたします。ぜひご覧ください。

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第1部-1 中途採用者の組織適応に関する分析①

高まる中途採用へのニーズ

企業では今後、少子高齢化のなかで良い人材を確保することが難しくなることから、中途採用活動の重要性はますます高まっていくでしょう。現に令和2年のデータによると、767万人の有職者のうち、前職入職者が496万人でした(厚生労働省職業安定局調べ)。新規学卒者が122万人ですから、圧倒的に転職入職者のほうが多いという現状がみてとれます。

どんな企業でも、中途採用者がうまく会社に適応して期待通りのパフォーマンスを発揮してほしいと考えますが、現実にはこれが難しいのです。

中途採用者が早期に期待通りのパフォーマンスを発揮できないことが多い原因は、受け入れ側の、中途採用者に対する理解が乏しいことです。解決するにはまず、中途採用者の組織適応課題を正確に理解すること。そのうえで、オンボーディングやサポート施策をしっかりとつくる。この2つが大切です。

なお、中途採用者とは「前の会社を辞めて新しい会社に参入した個人」と広く定義しています。

中途採用者の6つの組織適応課題

中途採用者の転職先での組織適応課題について、ある会社の営業職5名と技術職6名、性別はすべて男性で、1人につき1~2時間の聞き取り調査を行いました。適応課題として整理したのは、以下の6つです(図1)。

① スキルや知識の習得
② 暗黙のルールの理解
③ アンラーニング
④ 中途意識の排除
⑤ 信頼関係の構築
⑥ 人的ネットワークの構築

図1 中途採用者の適応課題と行動 中途採用者の適応課題と行動

まず、組織社会化課題に分類される「①スキルや知識の習得」から説明します。中途採用者には、すでにスキルや知識が備わっていると思われがちです。しかし、同じ業種でも、扱う製品や業者が異なると、仕事のやり方やプロセスなどが違うため、新しい会社に適した知識をほぼゼロから習得する必要があります。

「②暗黙のルールの理解」は、既存の社員が無意識的に実践していることなので、教えること自体がとても難しいものです。それゆえ、中途採用者は、自分自身で学習し、理解していかなければなりません。これはとても時間がかかり、大変なことです。

次の「③アンラーニング」と「④中途意識の排除」は、中途採用者固有の課題です。組織社会化課題は新卒採用者にも共通する課題ですが、この課題に関しては、異なる対応とサポートが求められます。

「③アンラーニング」とは時代遅れになったり、組織や人を誤った方向に導いたりする知識を捨て去るプロセスのことです。新しい職場では、まったく違う仕事のやり方があるので、過去の信念ややり方に固執し過ぎるとうまく適応することができなくなります。

「④中途意識の排除」ですが、中途採用者は、自分のことを「よそ者」と感じるなど、遠慮意識をもっている人が多く、その意識が、既存の社員との感に溝をつくってしまいます。この「よそ者」意識を取り除いて、既存社員と積極的にコミュニケーションを取り合うことが必要です。

中途ジレンマである「⑤信頼関係の構築」は、仕事を円滑に行うためにとても重要です。既存社員は、時間をかけて信頼関係を構築していくものですが、中途採用者は、時間的な猶予をあまり与えられずに、高いパフォーマンスを求められます。既存社員にも「お手並み拝見意識」をもち、親身になって教えてくれないことがあります。こうしたなかで、ほとんどの中途採用者が信頼関係を築くには「成果しかない」と言います。しかし、成果を出すためには信頼関係が必要です。中途採用者はこの矛盾を抱え、しかも、成果創出を短時間で求められていますから、窮屈な状況のなかで板挟みになっているといえるでしょう。

同様に中途ジレンマである「⑥人的ネットワークの構築」にも時間がかかります。この人的ネットワークや仕事の遂行に重要な役割を果たし、成果にも大きな影響を及ぼします。中途採用者へのヒアリングのなかで「know who」という言葉が出てきました。これは、社内の誰がどのような知識をもっているか、誰に聞けばいいのかがわかることを言いますが、この知識があるかないかでは、仕事の成果に大きな差が生じるというものです。人的ネットワークの構築や「know who」の習得は、大きな課題だと思います。

この意味で、「中途採用者=即戦力」ではなく、新卒採用者とそれほど変わらないと捉えることが大前提でしょう。

「人的ネットワーク構築」が最優先課題

中途ジレンマの克服のためには、特に「⑥人的ネットワーク」をどう構築するかが最優先課題だと考えています。その点について、日本企業3社の中途採用者142名にアンケート調査を行いました。

人的ネットワークについて、「ネットワークの数」と「know who」の2つで捉え、それが組織適応にどう影響を及ぼすのかを分析しました。組織適応は、主観的業績、組織文化の理解、情緒的コミットメント、被信頼感の各点から考えます。なお、情緒的コミットメントとは、会社に対する愛着や帰属意識などの感情のことです。

図2が統計的に分析した結果です。「*」がついているところが影響を及ぼしているところです。「ネットワーク数」は、すべてに影響を及ぼし、「know who」は主観的業績以外に関して影響を及ぼしていることが分かります。

これを見ると、中途採用者の人的ネットワークが、組織適応に重要な役割を果たすということがあらためて理解できます。そのための仕組みをどう構築するかについて、組織としてしっかり取り組まないといけないのです。

図2 人的ネットワークが中途採用者の組織適応に及ぼす影響に関する分析結果 図2 人的ネットワークが中途採用者の組織適応に及ぼす影響に関する分析結果

では、組織内の人的ネットワーク構築のために効果的なコミュニケーションとは、どのようなものでしょうか。昨今のIT化やテレワークの普及によって、職場におけるコミュニケーションの在り方は大きく変化しています。そのなかで、オンラインコミュニケーションが、中途採用者のネットワークの構築にどのような影響があるのかについて調査しました。

図3は、コミュニケーションのタイポロジーによる、4つのマトリクスです。今回は対面・会話の「対面による会話」、非対面・文書の「チャット」の2つのコミュニケーションのあり方を比較する調査を実施しました。

図3 コミュニケーションのタイポロジー 図3 コミュニケーションのタイポロジー

図4のとおり、ネットワーク数の分析結果は、職場における活発な対面コミュニケーションが最も効果的だということを示しています。「OC」はチャットのことですが、OCはほとんど効果を発揮していないことも見て取れます。

図4 中途採用者のネットワーク数に効果的なコミュニケーション 図4 中途採用者のネットワーク数に効果的なコミュニケーション

図5のknow whoの分析結果もネットワーク数と同様に、効果を発揮しているのは対面のコミュニケーションでした。

図5 中途採用者のknow whoに効果的なコミュニケーション 図5 中途採用者のknow whoに効果的なコミュニケーション

つまり、職場における対面のコミュニケーションが、中途採用者の組織内人的ネットワークの構築、広範化のためには効果的だということです。様々な情報やknow who、人的ネットワークは、対面でのコミュニケーションによって得られます。そのためには、コミュニケーションが活発になる職場デザインが重要になるので、配属先のマネジャーの職場デザイン力が問われることになるでしょう。

第1部-2 中途採用者の組織適応に関する分析②

中途採用者の組織内人的ネットワークを構築・広範化する要因

中途採用が組織内で人間関係を構築・広範化するために、コミュニケーション以外に何があるでしょうか。さらに分析を進めると、個人要因、他者要因、組織要因の3つがネットワークを広げる促進効果があることがわかりました(図6)。

図6 中途採用者の組織内人的ネットワークを構築・広範化促進要因の分析結果 図6 中途採用者の組織内人的ネットワークを構築・広範化促進要因の分析結果

1つめの個人要因はプロアクティブ行動。プロアクティブ行動とは、「個人が自分自身や環境に影響を及ぼすような先見的な行動であり、未来志向で選択志向の行動」のことです。ネットワーキング行動も含まれます。

とはいえ、中途採用者みんながプロアクティブ行動を取れるわけではないため、自分から積極的になれない人に対してサポートする人、つまり「コネクター」が必要だと考えます。これを2つめの他者要因としました。たとえば、他部署にコンタクトをとる必要がある場面で、「この人だったら知ってますよ」「口を利いてあげるよ」といったネットワークを繋いでくれる存在です。この役割は、他部署にもある程度影響力がある役職者がいいと思います。

最後の組織要因は2つに分けられます。組織的な「場」の設定と人事制度です。組織的な「場」の設定とは、朝会などの定例会や他部署との共同プロジェクトなど、部署内のメンバーとのつながりや中途採用者同士のネットワークをつくるための場を用意することです。そのような場があることで既存社員からも声を掛けやすくなるというメリットもあります。

人事制度とは研修やジョブローテーションのことを指します。中途採用者研修は、その内容も大切ですが、つながりをつくってあげることへの意識も重要です。研修では、中途採用者同士のつながりをつくる機会と、既存社員とのつながりをつくる機会の双方が得られる内容をデザインすることが重要だと思います。

ジョブローテーションは、配属前ジョブローテーションが特にいいでしょう。中途採用者は、即戦力として採用され、雇用時点で配属が決まっているケースが多いと思いますが、携わる仕事と関連する部署に仮配属させ、事前にネットワークをつくることも効果的ではないでしょうか。

すぐに部署に配属して不適応を起こしてしまうよりは、最初の数週間は関連部署で仕事の理解度を高めたり、人的ネットワークを広範化させたりしたほうが、パフォーマンスを発揮できる可能性が高まるのではないかという推察です。即戦力であっても、「人的ネットワーク構築期間」と呼ばれる準備段階が必要です。多少時間はかかりますが、長期的に見れば組織にとって目的にかなった人材補助になるのではないかと思います(図7)。

図7 人的ネットワーク構築期間の導入 図7 人的ネットワーク構築期間の導入

また、人的ネットワークが広範化することで、それ以外の5つの適応課題も解決につながる、ドミノ効果を生むと考えています(図8)。その意味で、組織としてここをしっかりとサポートすることが大切です。

図8 人的ネットワークの広範化がドミノ効果を生む 図8 人的ネットワークの広範化がドミノ効果を生む

メンタルもサポートする「適応エージェント」

人的ネットワーク構築を促進する要因として「コネクター」という存在が出てきました。コネクター以上に重要なのが、「適応エージェント」という存在です。

適応エージェントとは、中途採用者の環境への適応をサポートし、促進する重要な他者のことです。コネクターと異なるのは、ネットワークや仕事のサポートだけでなく、メンタルサポートも含めた存在であることです。

それでは中途採用者にとって、理想的な適応エージェントとはどんな存在でしょうか。新卒採用者で組織に長く所属している人と比較したのが、この分析結果です(図9)。青が新卒採用者、赤が中途採用者の適応エージェントの人数です。新卒採用者と中途採用者で違いがみられるのは「同一会社、他部門」です。新卒採用者が15人であるのに対し、中途採用者は4人だけです。中途採用者は、他部署にネットワークを広げることが難しいことを示しています。一方、異なる会社では中途採用者のほうが適応エージェントを多くもちます。前職の職場の上司や同僚などが含まれていると考えられ、中途採用者の特徴と考えられます。

図9 中途採用者の適応エージェントの所属 図9 中途採用者の適応エージェントの所属

次に、適応エージェントの職位をみると、新卒採用者は役職者の適応エージェントが多く、中途採用者は同期が多くなっています。同期も重要ですが、仕事の知識やネットワークに乏しい中途採用者こそ、役職者の適応エージェントを多くもつことが重要だと考えます(図10)。

図10 適応エージェントの職位 図10 適応エージェントの職位

接触頻度に関しては、新卒採用者は毎日が多いのに対し、中途採用者は月1回が最も多くなっています。中途採用者こそ頻繁に適応エージェントと接することが必要でしょう(図11)。

図11 適応エージェントとの接触頻度 図11 適応エージェントとの接触頻度

最後に、適応エージェントとの知人期間は、新卒採用者が10年以上であるのに対し、中途採用者は3~5年が1番多くなっています。在籍期間が長い新卒採用者と比較したので、結果としては予想どおりですが、重要なのは知人期間の長さが相談内容の質に影響を及ぼすという点です(図12)。

知人期間が長い新卒採用者からの相談は、お互いに信頼関係があり、相手の特性もよく把握しているので深い相談にも乗れますが、中途採用者とはそこまでの関係ができていない場合があります。中途採用者のほうがより踏み込んだ相談ができると理想なのですが、それができないジレンマが見てとれます。

図12 適応エージェントとの知人期間 図12 適応エージェントとの知人期間

以上から言えることは、中途採用者こそ、良質な適応エージェントが求められるものの、実際には得られていないということです。たとえば、入社1カ月程度で中途採用者の適応エージェント調査を実施して、理想的な適応エージェントが得られていない場合は、役職者も含めたよい適応エージェントを与えるといった組織からのサポートが必要ではないでしょうか。

中途採用者の組織適応の促進要因を大規模調査から読み解く

以上の結果を踏まえ、中途採用者の組織適応の促進要因について499名の中途採用者へのアンケート調査を行いました。

組織適応を貢献実感、仕事フィット、職場フィットの3つから、予期的社会化、個人要因(行動)、組織・職場要員、上司・同僚要因(適応エージェント)、職務要因、職務ストレスが、それぞれどう影響しているのかを分析しました。

予期的社会化とは組織に入る前に組織のことを理解できていたかどうかです。事前知識と経験、RJP(仕事情報の事前開示)から成ります。個人要因(行動)はネットワーキング行動、フィードバック探索行動。組織・職場要因は教育機会、コミュニケーション風土。上司・同僚要因は同僚サポート、上司サポート、上司フィードバック。職務要因は職務自律制、課題解決、タスク重要性。最後に阻害要因として、職務ストレスを役割過負荷、精神的プレッシャーの2つで聞きました。

図13が分析結果になります。「*」がついているものが影響を与えている要因です。これを見ると、貢献実感、仕事フィット、職場フィットの3つすべてに影響を与えているのは「ネットワーキング行動」と「タスク重要性」でした。ネットワークの重要性は先の調査に加え、この結果からも理解できます。タスク重要性は、中途採用者に重要な仕事や社会貢献を実感できるような仕事を与えることが重要であることを示しています。

逆に組織適応を阻害しているのが、精神的プレッシャーです。精神的プレッシャーをあまり与えない、取り除くことが仕事フィット、職場フィットを促進するといえます。

面白いことに、課題解決に積極的に取り組めるような仕事については、貢献実感はマイナスですが、仕事フィットはプラスになっています。おそらく、課題解決のための仕事に携われるのではないか、という中途採用者自身の仕事イメージにうまくフィットしているため、仕事フィットには正の影響を与えているのだと思います。一方、貢献実感がマイナスになっているのは、そのような仕事は、転職してきてすぐに成果を出すのが難しいので、携わっていてもまだまだ貢献できていないと捉えてしまうからだと考えています。以上のように、どのような仕事を中途採用者にアサインするかも重要であることがわかります。

図13 組織適用の促進要因分析結果 図13 組織適用の促進要因分析結果

これらの結果から、中途採用者の組織適応のために人事部・上司・本人ができることを考えます。まず、採用時に人事が、中途採用者がどのような知識やスキルを有しているのかをしっかりと把握し、中途採用者に対して、正確な情報を提供することによって、精神的プレッシャーを軽減できます。

入社後、上司の役割としては、中途採用者に重要な仕事を割り当てたり、職場のコミュニケーションを活性化させたり、中途採用者のメンタルサポートを欠かさないことです。もちろん、中途採用者自身も、環境に依存するだけではなく、上司のサポートを得ながら、自分自身でネットワーキング行動やフィードバック探索行動をとることが大切です。さらに、人事部としては、「中途採用者をサポートしている上司」をサポートすることが重要だといえます。

第2部-1 中途採用者へのオンボーディング施策に関する分析

中途採用者にオンボーディング施策は有効か

ここからは、中途採用者のオンボーディング施策に視点を移したいと思います。

「オンボーディング」とは、新しい環境に入ってくる人に対する組織側からのサポートのことです。学術的な定義では、「新人の適応を促進する組織やエージェントによって従事される公式、非公式な訓練、プログラム、政策(Klein and Polin 2012)」となります。

オンボーディングには、情報を与える(inform)、迎え入れる(welcome)、導く(guide)という3つの側面があります。

オンボーディングをするために、組織としてどのようなサポートが必要なのでしょうか。それを理解するために、日本企業416社に対して調査を行った結果から、中途採用者のオンボーディング施策の現状の把握と、中途採用者の組織適応に効果的な施策について検証したいと思います。

オンボーディング施策実施数の多い上位5位をみると(図14)、「入社1カ月以内の導入研修」「ランチや飲み会などの歓迎イベント」「ハラスメントなどの相談窓口の開設」「上司と中途採用者の定期的な面談」「職場内のコミュニケーション活性化の推進」となっています。

図14 オンボーディング施策実施上位5 図14 オンボーディング施策実施上位5

オンボーディングを阻害する要因については、「予算や人員が足りないから」「何から取り組めばいいか分からないから」「トップ(経営)がその重要性を理解していないから」「現場の理解や協力が得られないから」「定着率がいいから」「対策しても離職率は下がらないから」「上司のマネジメント力が高いから」となっています(図15)。

「予算や人員が足りない」と「現場の理解や協力が得られない」については、トップがオンボーディングの重要性を理解してくれれば解決につながると思います。人事部としても、トップへの説明が重要になるということです。

図15 オンボーディング施策の阻害要因 図15 オンボーディング施策の阻害要因

次に、オンボーディングに力を入れている企業と、そうでない企業について統計的に比較しました。すると、「力を入れている」170社の平均値が3.20、「力を入れていない」222社が2.82と、「力を入れている」ほうが中途採用者の定着率が統計的に有意であることがわかりました(図16)。

中途採用者のパフォーマンスに関しても、「力を入れている」企業は3.25、「力を入れていない」企業は3.0ということで、差が見られました。オンボーディングに力を入れている企業のほうが、中途採用者の定着率とパフォーマンスの双方の数値が有意に高いことがわかります。
 なお、企業の規模による違いは見られませんでした。

以上の結果から、中途採用者の定着率やパフォーマンスについては、企業の規模は関係なく、オンボーディングに力を入れているか入れていないかが重要であることが分かりました。

図16 オンボーディング施策の中途採用者定着率とパフォーマンスの影響 図16 オンボーディング施策の中途採用者定着率とパフォーマンスの影響

中途採用者に効果的なオンボーディング施策とは

さらに「力を入れている」と回答した170社に関して、オンボーディング施策が中途採用者に及ぼす効果について深掘りしていきます。

「中途採用者」「組織」「職場」の3つレベルに、どのようなオンボーディング施策が影響を及ぼしているのかを分析しました。(図17)。

図17 オンボーディング施策が中途採用者に及ぼす効果 図17 オンボーディング施策が中途採用者に及ぼす効果

まず、「中途採用者」個人のレベルに及ぼす効果です。中途採用者の離職率の低下には、人事と中途採用者の定期的な面談が効果を発揮しています。離職を防ぐためには、上司ではなく、人事の方が中途採用者と話し合うことが重要だという結果になっています。

中途採用者のパフォーマンスの向上には、メンターや相談役などの支援制度が影響を及ぼしています。中途採用者のパフォーマンスを高めるためには、仕事上で相談できる支援者をつけることが重要です。

次に、組織レベルの成果です。組織レベルの成果である中途採用活動へのアピールには、メンターなど支援制度があることや、受け入れ側への教育となりました。これらがあるということは、中途採用候補者への効果的なアピールとなり、優秀な中途採用者を確保できる可能性があるということもわかりました。

最後に、職場レベルの成果として、所属部門の業績向上に影響を及ぼしていたのが、上司など受け入れ側に対する教育、メンターや相談役などの支援制度でした。メンターや相談役などの支援制度が効いているのは、個人のパフォーマンスの向上にも影響を及ぼすからです。中途採用者のパフォーマンスが高まれば、職場の業績も上がります。上司など受け入れ側への教育もしっかりしていれば、職場全体の業績が上がるということです。

職場のコミュニケーション活性化に効果を及ぼしたのは、メンターや相談役などの支援制度、上司と中途採用者の定期的な面談です。残念ながら、入社1カ月以内の導入研修がマイナスの影響を及ぼしていたのですが、その理由はまだ導き出せていません。なお、メンターや相談役の支援制度と上司と中途採用の定期的な面談はプラスになっています。

こうした結果を元に重要なオンボーディング施策を整理すると、まず大切なのは「メンター相談役などの支援制度」で、これは多方面に影響を及ぼしていました。次に「上司や受け入れ側に対する教育」です。見逃されがちな施策ですが、中途採用者への働きかけだけでなく、上司や受け入れ側に対する教育も重要なのです。

また、施策の設定にあたっては、ただ単に設定するのではなく、メンターや相談役に関しても人事によるしっかりしたサポート体制が必要だと思います。

中途採用者は特に、上司には相談できないけれども、人事には相談できることがあると考えられますので、上司面談と人事面談の役割分担が必要になるでしょう。

以上をまとめると、オンボーディング施策としては、中途採用者へのサポートだけではなく、受け入れ側への働きかけも大事です。さらに組織全体で、中途採用者に対する意識を変えていくことが求められます。「いつ」「どのタイミングで」「何を」行うのかということがとても大事です。私も引き続き研究していきたいと考えております。

第2部-2 実践的提言

中途採用者の教育は「脱色」「染色」の2段構え

最後にオンボーディングに関する実践的提言をさせていただきます。新卒採用者の場合、組織への参加の時点で「白紙」の状態なので、組織の色に染める「染色教育」が必要です。しかし、中途採用者の場合、前職の色がついているので、(役立つ知識や経験は維持したまま、邪魔になるものは)アンラーニングしたり、中途意識の排除をしたりといった「脱色教育」をまずしなくてはいけません。

つまり、脱色と染色という二段階で教育を進める必要があります。白を赤に染めるのは簡単ですが、黒を赤に染めるのは難しい。それぞれが異質な教育になるので、新卒採用者以上に、中途採用者の教育を充実させる必要があります(図18)。

図18 新卒採用者以上に、中途採用者の教育を充実化させる 図18 新卒採用者以上に、中途採用者の教育を充実化させる

また、新人をどう育てるかについてよく質問を受けますが、「新人を育てたかったら、上司を育てよ」です。それと同じように、中途採用者の育成に関しても上司が鍵となります。中途採用者を活かすための人的ネットワークの構築や、知識スキルの習得をサポートするための場づくり、仕事の割り当てについても、上司が役割を果たすことが理想です。ただし、上司に丸投げするのでなく、組織としても上司をしっかりサポートすることが求められます。

今後も中途採用者は重要な労働力となりますが、オンボーディング施策が整備されていない企業は、中途採用をしても思うような成果は出せず、コスト増にしかならないでしょう。自社のオンボーディング施策が整備されていないのならば、しっかりと整備する。短期的には、中途採用者の適応課題を理解して、施策を充実化させ、上司や既存社員の教育を整える。それを継続して、長期的に組織の「中途文化」を形成していくことが大事だと思います。

最後に、中途採用者の適応課題と6つの提言を図19にまとめました。ぜひ参考にしていただければ幸いです。本日はありがとうございました。

図19 中途採用者の適応課題解決のための6つの提言 図1