TOPIC1 どんな環境でも“善”を判断できる 実践知リーダーを グローバルに育てる方法
一橋大学名誉教授・野中郁次郎氏の考え方をベースにしたリーダー育成プログラムがある。
「善」を軸に社会的イノベーションを起こすことのできる“実践知リーダー”の育成をめざしているというが、それはどんなリーダーで、どのように育成するのだろうか。
アジアの次世代リーダー集合
「I am Taka. I work for ◯◯◯.えー、My goal…… through this program is …….」
2015年8月30日の朝、鮮やかな赤色の椅子が並ぶ中央大学ビジネススクールの教室に、懸命に英語で話す集団がいた。
彼らは、あるリーダーシップ開発プログラムへの参加者たちだ。ベトナムやインド、フィリピン、そして日本など、アジア諸国から集まった23名(毎期20名前後)が初めて顔を合わせ、自己紹介と抱負について語っている。
彼らはこの日から約3.5カ月をかけて日本、ハワイ、シンガポール、タイ、そして再度日本と、国をまたぎながら切磋琢磨し合うことになる。
現在、世界中の企業・国々が、明確なゴールを示し、人を動かし生産性・業績向上や課題解決を成し遂げるリーダー人材を熱望している。そうしたリーダーを育てる方法論も、以前からさまざまに提唱されてきた。
そうした中、富士通は1972年、「日米の架け橋になる国際ビジネスパーソンを養成したい」という当時の社長、高羅芳光氏の構想をもとに、教育機関「JAIMS※1」をハワイに設立。以来、国際社会貢献活動としてグローバルリーダー育成を行ってきたのである。
2007年からは、第6代所長として野中郁次郎氏を迎え、氏の考え方をベースとしたプログラムによる教育を開始。2012年からは特にアジア・パシフィック地域からリーダーを輩出することに焦点を当て、アジア各地から参加者を募っている。
※1 2012年、JAIMS は「一般財団法人富士通JAIMS」に。また野中氏はエグゼクティブアドバイザーに就任。2013年退任。
“共通善”を判断できるリーダー
これからのリーダーシップ開発にはもう1つ、忘れてはならない観点がある。現在このプログラムのディレクターを務める遠山亮子教授(中央大学大学院戦略経営研究科)は「プログラムの目的」を、こう語る。「変化の激しい時代の中でも、常に“共通善”をベースにしながら判断や行動ができる“実践知”を持つリーダーを育てることです」
「共通善」(Common Good)とは、野中氏が唱えた概念で、倫理的に正しいといえる“善”のこと。だが、何が善かというのは、土地や文化といった、背景となる文脈や状況によって異なる。したがってリーダーには、どこにいつ身をおいても何が正しいのかを判断できる能力が求められる。
そして“実践知”とは、「共通善に基づいて判断や行動ができる高潔な習慣」(遠山氏)である。そうした知を持つリーダーだからこそ、人を動かし、社会的価値のあるイノベーションを起こし、変化を生み出すことができるという。