巻頭インタビュー 私の人材教育論 顧客が喜ぶアイデアは 社員の夢と目標から生まれる
「荷~造り~ご無用~ 0123♪」のCMで知られる
「アート引越センター」を中核とするアートコーポレーション。
日本第一号の引越専業として陸運局の認定を受けて以来、
業界初となるサービスを次々と開発してきた。
“アイデアを生み出すのは人であり、人が主役”とする同社が、
社員に何より求めるのは、「夢」と「目標」を持つことである。
知恵と工夫が付加価値の源
─人口減少に伴う平均世帯人数の減少という、向かい風の状況の中、増収増益を続けています。
寺田
おっしゃる通り、少子高齢化の進行に伴い、人口も減っているのが日本の現状です。引越業にとって重要な指標である世帯数は増加していますが、一世帯当たりの人数は減少しており、マーケットの大きな拡大は望めません。ただ、マーケットがなくなるわけではなく、努力次第でシェアアップは可能です。
─実際に、ここ数年は年率7~8%程度の成長を維持しています。
寺田
シェアアップのためには、付加価値を高めることです。お客様に喜んでいただけるサービスを常に開発し続ければ、当社を選んでもらえる確率が高まり、単価もアップできます。マーケットの縮小はどうにもなりませんが、知恵を出し工夫を重ねて付加価値で勝負すればいいのです。悲観する必要は何もありません。
─知恵と工夫がカギとなるなら、その担い手は人材ですね。
寺田
私たちのビジネスは、人が人に対してサービスを提供することで成り立っています。引越サービスの品質は、作業に携わる人によって決まるのです。
今のように事業環境の変化が激しい時には、私たちのような無形のサービスにこそ勝機があります。環境の変化を見逃さず、必要とされるサービスを、常に開発し続ける。前向きな姿勢が大切です。
ムードと業績の関係
─よいサービスを提供するために、必要な人材とは。
寺田
サービス業は、人の“意欲”が全てだと考えています。何かをやろうと強い意欲を持っている人、仕事に対するモチベーションの高い人がどれだけいるか。知識や知恵も重要ですが、それらを活用するハートの熱さがカギになります。
ですから社員には「夢」と「目標」を持ってほしいと語り続けています。持っていない夢が叶うことはあり得ませんし、立ててもいない目標を達成することも、絶対にありませんから。
─夢と目標が「やりがい」の強さにつながるのですね。
寺田
当社の社員構成上の特徴は、現場で働く生産部門(引越作業員)の割合が高いことです。
自分の仕事が、誰かの役に立っていると感じる。そうして感じるやりがいが、仕事へのモチベーションを高めるのです。
頑張った結果、生産部門から支店長となるケースは多く、全国119支店(2015年6月末時点)のうち、半分以上の支店長が生産部門の出身者です。もちろん支店長だけがゴールではなく、適材適所でさまざまなポストを用意しています。やりがいを持ち、上をめざす気持ちの強い人─そんな社員の多いことが、当社の何よりの強みです。
─創業時から、そうした空気づくりを心がけてきたのですか。
寺田
トラックの運転手さんたちと始めた会社です。創業当初は難しいことを考えず、とにかく「よいムード」で仕事をすることに集中していました。
お客様のところへ出かける時によいムードだったら、仕事はきっとうまくいくでしょう。また気分よく帰ってきた彼らを精一杯よいムードで迎えれば、明日への活力につながります。
我々のような労働集約型産業では、人の質が仕事の質に直結するのです。今でもムードのよい支店は、業績も良好な傾向があります。ムードがよいから業績がよいのか、業績がよいためにムードもよくなるのか、因果関係は明確にはわかりません。ただ、ムードと業績がセットであることだけは間違いありません。