人材教育 The Movie ~映画でわかる世界と人~ 第34回 「スニーカーズ」川西玲子氏 時事・映画評論家
「スニーカーズ」
1992年 アメリカ 監督:フィル・アルデン・ロビンソン
『スニーカーズ』が公開されてから、もう20年以上経つ。私も歳を取るはずだ。この20年でITは飛躍的な進歩を遂げた。公開当時、「こんなことができるのか」と目を見張った技術も、今では当たり前になっている。さらに20年後には、スマホがスーパーコンピュータ並みの性能になるというから、果たしてどんな未来が待ち受けているのだろう。
だが21世紀になっても、この映画の持つ独特な存在感は薄れていない。というより、この種の映画はもう現れないだろう。理由のひとつは、この映画が1992年に製作されているからである。ベルリンの壁が消滅し、ソ連が崩壊し、東西冷戦が終わったばかりだった。これから世界がどういう方向に向かうかわからない、混沌とした時代だったのである。それが映画の内容と深く関わっている。
もうひとつの理由には、今やITが当たり前になり、その出自が忘れられてしまったからである。だがこの映画には、東西冷戦時代の60年代から70年代にかけて花開いた、対抗文化の匂いが濃厚に漂っている。それが貴重なのだ。