人材教育最前線 プロフェッショナル編 教育は人事制度の柱。 人が育って初めて人事制度が回る
オフィスから工場、水道・エネルギー設備まで、あらゆる施設で使われるバルブなどの流体制御機器を手掛けるキッツ。国内のみならず、アジア、アメリカ、ヨーロッパ各地に製造・販売拠点を持ち、世界規模で事業を展開するグローバル企業である。そんな同社の発展を人事、教育制度の構築で支えてきたのが、管理本部 総務人事部 人材開発グループ長の海治勝氏だ。「教育は人事制度の柱であり、人が育って初めて人事制度が回る」と語る海治氏は、ビジネス拡大につながる人材の育成をめざし、DNAの継承と教育に取り組んでいる。
理屈で人は動かせない
流体制御機器メーカーのキッツで現在、人材開発グループ長を務める海治勝氏は、大学卒業後に入社した企業で、1年目から工場採用の高校卒の新入社員教育に携わった。もともと父親が中学校の教師で、教育という仕事を幼い頃から身近に感じていた。また自らも大学で社会学を専攻し、人や組織に興味を持っていたため、いきなりの新入社員教育にも抵抗感や不安はなかったという。
その際、今でも変わらない育成への考え方につながる大きな学びを得た。それは、「無理矢理押しつけても人は動かない」ということ。
「高卒者に限らず新卒者は、仕事への期待や、自分なりのやりたいことを抱いて入社してきます。まだ自分の気持ちに素直ですから、面白いと思えることには進んで取り組みますが、そうでないものにはなかなか興味を持ってくれません。そんな時は、一人ひとりを見て指導することが必要だと思いました」
ただ「これをやれ」と一方的に伝えるのではなく、相手の考えていることを理解し、興味を引くところをうまくアピールする。加えて、「なぜこれが必要なのか」を、相手の理解度に合わせて説明する。そうして納得してもらえれば、人は興味を持って自ら動くようになるのだ。
さらに、海治氏に大きな影響を与えた経験がもう1つある。
海治氏は1989 年に北沢バルブ(現・キッツ)に入社したが、3 年後の1992年から3 年間、米テキサス州ヒューストンにあるグループ販売会社、KITZCorporation of AMERICAに赴任し、海外工場への発注や在庫管理、経理などを担当した。
「KITZ Corporation of AMERICAでは、日本人社員と現地のアメリカ人が一緒に働いている様子をよく目にしました。当初、アメリカ人は“英語が流暢な日本人”についていくのだと考えていました。しかし、よく観察するとそうではなく、重要なのは“人間的に信頼できる人かどうか”でした。人間的魅力のある人に周りがついていく姿を幾度となく見て、語学が必ずしも絶対条件ではないこと、また、人として一番大切なのは、“人間性”であることを実感しました」
重視するのはDNA の継承
「人間性」の重要性に海外で改めて気づいた海治氏だが、それ以前、キッツに入社した時から、同社社員の「誠実さ」も強く感じていた。
「弊社社員には“ウソやごまかしなく、真っ直ぐやろう”“お客様のために誠心誠意尽くし、社会に貢献していこう”という姿勢が強いのです。意志の強さや、誠実に、しかしスピード感を持って仕事に取り組む慣習というか……。そうした会社のよい伝統を受け継ぐ人を育てていきたいと考えています」
この想いを具現化した教育がある。「Do it True(誠実・真実)」「Doit Now(スピード・タイムリー)」「Doit New(創造力・チャレンジ)」の3つからなる行動指針と、これらを60 数個の項目にブレイクしたものが以前からあったが、海治氏はこれらの項目を、新入社員の育成ツールとして活用。日々の仕事の中で実現できているかを社員が自問自答し、振り返ることができるよう仕組み化した。