CASE 1 ブラザー工業 グローバル環境は現場にあり 「百聞は一見にしかず」の機会を 新人から惜しみなく与える
グローバル人材とは何か。改めて考えさせられるのが、ブラザー工業の事例だ。
売上に占める海外比率が8割を超え、従業員の日本人比率は約3割、製造拠点はほぼ海外。となれば同社で働くことは、そのままグローバルに仕事をすることを意味する。
そんな同社の人材の捉え方と育成法を聞いた。
● 背景 全員に必要なグローバル視点
「当社では、普段から国内と国外を分けて考えることはありません。採用に際して、志望者はみんな、海外で事業展開する企業であることを理解済みと考えています」と、人事部採用教育グループの岡田英嗣シニア・チーム・マネジャーは語る。
早くから海外展開に取り組んできたブラザーでは、“グローバル”は仕事を進めるうえでの前提条件であり、つまりは社員全員がグローバル人材といえる。
全世界のグループ社員は、1999年制定の『ブラザーグループ グローバル憲章』に従う。グループ全従業員の意思決定と実行の基準として、「基本方針」と「行動規範」からなる憲章は、27の言語に翻訳されている。それだけ多くの国の人々が働く国際企業がブラザーグループであり、日本人も、同社に所属する多数の人種のひとつに過ぎない。
「今やお客様のほとんどが日本以外の国の方です。ほぼ全ての商品の製造拠点が海外に散らばっている。だから仕事も、全てグローバルを意識したものとなるのです」と岡田氏。「グローバル」は同社では早くから所与の条件となっていた。
1947年には輸出を開始し、1954 年にはアメリカに販売拠点を設立。戦後の早い時点から海外に目を向け、着実に手を打ってきた。
「現在50 代の社員層がグローバル化の牽引役といえる存在です。彼らが海外に渡り、拠点の立ち上げや体制構築に貢献してきました。おそらくはとてつもない修羅場をくぐり抜けながら、販売及び製造の拠点を1つずつ確立してきてくれました。その成果が今の姿といえるでしょう」と岡田氏は、同社の歴史を振り返る。
● 新人海外研修の狙い・概要 「百聞は一見にしかず」を徹底
そうした歴史を持つ同社では、十数年前から、現場=海外という状況になる。しかし日本で働く社員にとっては、現場が遠い存在になってしまった。現地・現場・現物が重要となる仕事だが、それらを見るには機会をつくる必要性が出てきたのだ。
その一環として、2013 年より、新入社員向けに現場に触れ、体感する内容の研修が導入された。毎年50名程度になる新入社員全員を、約10日間送り出す。行き先は中国の生産拠点や香港やタイにある販売拠点である。
海外研修実施の背景には、座学研修に対する問題意識があった。人事部採用教育グループの瀧尻純子氏はその意識と、研修の狙いをこう語る。
「座学形式ではありますが、それまでも世界の状況の理解を促す研修を行っていました。けれども、話を聞くだけでは限界があります。百聞は一見にしかず、見ればすぐにわかるのだから、行ったほうが早い。また、早期に一度海外に行っておけば、先々仕事で出張が必要となった時にも、ためらいなく出掛けられるはずです」
研修目的は、とにかく現場を見ることだ。研修生たちには生産ラインの傍らに立ち、作業の様子をじっと観察する時間が設けられている。
といっても、ただ眺めているわけではない。研修後は、各自が担当した工程についての改善案を提出する。わずかなムダも見過ごさないよう注視することが求められる。コンマ1秒のムダを削り、数銭単位でのコスト削減に努める現場感覚を、身を以て体験するのだ。
「同世代の女性が立ち仕事で一生懸命に作業する姿に、強い印象を受けた参加者もいました。現場でこんなにも頑張っているのだから、自分も集中しなければと刺激を受けたようです」と瀧尻氏は成果を語る(より具体的な成果は43ページ、体験者の林氏の話を参照)。