CASE 3 富士通 活性化は経営、人材育成そのもの― 健康リスクと“ワーク・エンゲイジメント”がひとめでわかるツールを開発
富士通では、健康推進本部が“パフォーマンス向上のための健康推進”に取り組んでおり、オリジナルのツールも開発している。
健康推進と組織活性化が密接な、同社の事例を紹介したい。
● 背景1 経営としての健康推進
ICTソリューションをグローバルに展開する富士通。従業員数16万人超という大所帯であるため、社員一人ひとりが生き生きとした組織を維持していくためには注意や工夫が必要だ。実際、同社では早くから社員の健康推進に取り組んできた。
1940 年代に医務室を設立し、1960年代には精神衛生活動・健康診断データの入力を開始。その後も継続して健康推進の取り組みを進めているが、2009 年に、人事とも総務とも独立した「健康推進本部」を立ち上げたことには、同社が社員の健康推進を福利厚生やリスク管理の面だけではなく、経営の観点から重要なものとして捉えていることを示す意図もあった。
東京・大田区の富士通ソリューションスクエアで人事部長を務めていた佐藤光弘氏や、損害保険業界でEAP( 従業員支援プログラム)に携わっていた玉山美紀子氏等のメンバーが集められ、本格的な取り組みが始められた。
●背景2 目標設定と意識改革
まず行われたのは、健康推進本部の目標(図1)の策定と、それに付随した社内の意識改革である。「社員が安心して働ける風土を築く」から始まる目標に込められた内容について、玉山氏はこう語る。
「この目標には、200名ほどの産業保健スタッフ(産業医を含む)の皆さんに対して、意識を変えていただく意味が込められています。
私たちが行うべきことは、これまでのような、何かがあって社員が相談に来た際に初めて支援や指導をする、といった“2次予防(早期発見・ケア)”や“3次予防(リハビリ・復職支援等)”をすることだけではありません。社員一人ひとりが普段から自分の健康状態と向き合い、仕事のパフォーマンスを高め、その先にいらっしゃるお客様に価値を提供できるようにする。そうした1次や0 次といえるような未然予防を支援することが産業保健スタッフの行うべきことだと考えたからです」(玉山氏)
加えて、社員自身にも意識を変えてもらう必要もある。
「社員のヘルスリテラシーの向上が必要です。富士通社員の平均年齢は現在40歳を超えています。一般的に40歳を超えると持病を持つ人が増えます。かつての健康推進の考え方は早期発見・治療や健康指導でしたが、これからは何らかの病気を持っていてもうまく付き合いながら働き、人生を充実させることが重要になります。そのアナウンスも徹底して行いました」(佐藤氏)
こうした考えのもと、メンタルヘルス不調者が出る前に組織の活性化や個人のケアを行う、「0 次予防」への施策を進めていった。なお、「健康管理専門家会議」という名の会議を設定し、大学教授を中心メンバーとする有識者に出席してもらい、随時アドバイスやフィードバックを受けながら進めたという。