Part2 経営者は振り返る② 松井忠三 ― 市場縮小の10年
21世紀初頭10年は、バブル崩壊などの影響で国内市場が激しく縮小していった時期だった。そんな環境の中、流通業界では、どういった対策がとられたのか。この10年の「経営と人づくり」を、人事経験を持つ経営者、良品計画会長・松井忠三氏が振り返る。
国内マーケットの縮小がこの10年で決定的に
近年の日本の経済環境の変遷において、最初に訪れた大きな転機は1973年の第一次オイルショックだ。これにより高度経済成長は終焉を迎え、消費社会はじわじわと成熟時代に移行していく。とはいえ、無印良品が誕生した1980年代初頭にはまだ、「いいものを持ちたい」「人と差別化できるものを」といった、モノに対する強い憧れが残っていた。ところが1991年のバブル崩壊で、日本人の価値観は根底から変わる。従来のような経済成長は期待できず、消費はどんどん縮小していった。そして2000年代に入ると、日本のマーケットの縮小はさらに進行し、多くの企業に大きなインパクトを与え続けている。
マーケットの縮小を加速した第一の原因は「デフレ」。経済が停滞し、モノが売れないため、当然ながら企業収益が悪化し、給与は削減傾向に。そうなれば人々は、毎日の生活に対して防衛的にならざるを得ない。
もう1つはマーケットの成熟化だ。家庭はすでにモノであふれ、かつての豊かな日本を象徴していた「いつかはクラウンを」「新・三種の神器を」といった価値観は過去のものとなった。当然ながら、高齢化が消費に与える影響も無視できない。
そうした傾向が如実に現れているのが、百貨店の売上が13年連続で前年割れするという現象。現在、日本の大手百貨店グループは4つだが、アメリカの高級百貨店はすでに、サックス・フィフス・アヴェニューとニーマン・マーカスの2社しか残っていない。日本でもさらに統合が進む可能性は少なくない。
このように縮小し、今後大きな伸びが期待できない国内マーケットでは、競争がさらに激化していく。勝ち抜けるかどうかは、まさに体力勝負である。
グローバル化の波は日本の賃金体系にも
“このまま日本にとどまっていては、ジリ貧になるのでは”という危機感が、推測から確信へと変わっていったこの10年、多くの日本企業にとって、「世界で勝てる企業への転換」が極めて重要な課題になった。
日本は特にここ数年で、成長力・競争力の地盤沈下が顕著になっている。そんな中で欧米やアジアの企業群と闘い、勝ち残っていくためには、「物をつくる力」「販売する力」「経営する力」などを大きく変革していかなければならない。そして当然のことながら、人材をどう捉え、どのように採用・配置・育成していくかについても、方向性や方法の見直しが迫られている。
ところで、ビジネスのグローバル化を語る時、忘れてはならないのは労働条件のグローバル化だ。製造拠点の中心が中国、インド、インドネシアなどに移ると、日本の労働条件もそれらの国の状況に引っ張られるので、日本だけ高水準の賃金を維持する、というわけにはいかなくなってくる。そうなれば人件費の変動費化が起こり、「賃金カット+臨時雇用や派遣の増加」という方向に傾いていくのは必然だ。しかも、海外諸国はどこも職務給の世界。終身雇用を背景に、年齢給を柱にした年功型の処遇という、日本企業で長年続けられてきた賃金制度は通用しなくなる。これもまた、この10年で顕著になってきた現象だ。