Part2 経営者は振り返る① 加藤丈夫 ― 社会構造の大転換期
日本企業はこの10年の間に2度の大不況を経験し、同時にかつてない社会構造の変化に直面している。将来的に、深刻な労働力不足となることは避けられそうもない。こうした状況を引き起こした要因について考え、同一価値労働同一賃金の実現による非正規社員・高齢者層の戦力化、OJTの強化による現場力の回復など、経営が打つべき手について考える。
人材力が低下した日本企業の10年
この10年はITバブルの崩壊で幕を開け、リーマン・ショックで終わる10年であった。不況を2度も経験する中で、企業は当面の収益改善に追われ、長期的な視点での経営や人づくりを行ってこなかった。これが将来の日本企業に与える影響は、決して小さくない。1990年代の初頭にバブル経済が弾けた時も雇用の面で大きな影響があったが、さらに2000年に始まったITバブルの崩壊によって、日本企業の人材力は大きく低下してしまった。この時期に企業は徹底したリストラを行ったが、対策の中心は、新卒者の採用抑制と定年に近い高齢者の早期退職の勧奨であった。これが技能・技術の伝承の断絶につながった。
そして、その後の景気回復期には企業は正社員の雇用を抑制しながら非正規社員を増やすことで対応し、この10年間で就業人口に占める非正規社員の割合が1/3を超えるに至ったが、これによって技能・技術力の低下に一層の拍車がかかることになってしまった。
2007年からはいわゆる「団塊の世代」の定年退職が始まったが、この時期も企業はリストラ対策に追われ、この層の豊かな経験を有効に活用する余裕がなかったというのが実態だろう。また企業内にパートタイマーやアルバイト、派遣社員、契約社員など雇用形態や勤務形態の異なる社員が多数混在するようになって、職場の人事管理がさまざまな新しい問題に直面することになった。その例として職場内のコミュニケーションが難しくなったことや、社内教育、特にOJTの機会が減少したことが挙げられるが、それはまさに日本企業を支えてきた現場力の低下につながる変化といえるだろう。このたて直しは相当困難で、中でも人員構成のひずみを是正するには相当の時間を要する。企業の経営は、改めて長期的な視点で人材の確保と育成に取り組む必要がある。
社会構造の変化を示す4つのポイント
リーマン・ショック以降の景気の低迷は、単なる景気循環の谷間ではなく、社会構造転換の1つの節目である。したがって、企業もこの構造を踏まえて今後10年の対策を講じていかなければばらない。社会構造転換のポイントは、以下の4点だ。
①本格的な人口減少・少子高齢化社会の到来
現在、日本は世界に例のないスピードで人口の減少と高齢化が進んでいる。50年後には人口は30%減少し、65歳以上の高齢者比率は現在の20%から40%に倍増する見通しだ。これが年金や医療費などの社会福祉に深刻な影響を及ぼすことはいうまでもないが、考えておかなければならないのは、将来必ず到来する「絶対的な労働力不足」への対応である。企業にとっては人材の質・量双方の確保が大きな課題になるだろう。