巻頭インタビュー 私の人材教育論 真のグローバル化に向け勝負はこれからが本番
全世界に拠点を持ち、売上高構成を見ても、ほぼ半分を海外が占める。
押しも押されもせぬグローバル企業と誰もが認める島津製作所。
ところが、服部会長の目には、本当の意味でのグローバル化は、まだできていないと映る。
真のグローバル化に欠かせない条件とは何だろうか。
脱・日本発想のモノづくり
──2014年3月期は、史上最高の好決算となりました。
服部
おかげさまで業績は好調で、計測機器では世界トップ3に入るところまで来ました。主力の計測機器に関しては、売り上げの6割近くが海外市場によるもので、生産拠点に加えて経営拠点も海外に多数展開しています。
現状を一般的に判断すれば、グローバル企業と呼ばれてもおかしくはないのかもしれません。けれども、本来の意味でのグローバル化ができているとは、私自身は全く考えていません。むしろ、これから本格的に取り組むべき課題だと認識しています。
──全世界に拠点を展開する島津製作所の、これからのテーマが「グローバル化」というのは意外です。
服部
確かに拠点は海外に多数ありますが、本来のグローバル化とはそんなレベルのものではありません。
グローバル化のカギは、ダイバーシティにあります。すなわち国家、民族、言語、習慣、性別など多様性に富んだ世界の中で、どれだけ柔軟に対応し、価値を創造できるかということです。各地のニーズに合ったビジネスを展開できてこそ、グローバル化は達成できるのです。
──現状では実現できていないと?
服部
まだまだです。なぜなら、メーカーとして当社は、依然として日本発想のモノづくりから抜け出せていないからです。
日本企業は、どうしても自社視点でのモノづくりにこだわってしまいます。日本で開発した製品を単に現地で展開してもダメなのです。その発想からは、日本で作った優れた製品を、現地事情に合わせてアジャストするといったニュアンスが拭えません。しかしそうではなく、例えば世界中からお客様や営業マンを集めて議論を尽くし、お客様が望む価値を探り、それを生み出すことが重要です。そしてその価値が地域によって違うのであれば、同じコンセプトに基づいた製品を最初から3タイプぐらい用意する。これが本当の意味でのグローバル対応です。
その実現には、まず企業内部でダイバーシティを受け入れることが必要です。そのうえで多様な価値観をぶつけ合い、競い合わせる。そこから新たな価値を生み出し、行動に移すようなメカニズムを構築する必要があります。
グローバル人材4つの要件
──これからの日本のリーダーとして、「グローバル人材」に期待が集まっています。
服部
大学などでもグローバル人材育成を打ち出すところが増えてきました。けれども、企業人として活躍できるグローバル人材の育成は、それほど簡単なことではありません。そうした人材には、「変革力」「実行力」「遂行力」「対話力」が求められます。
「変革力」とは、常に新しい技術に挑戦し、これまでにないものを生み出すことで世界を変えていく力です。
「実行力」は、自分の意志で積極的に動いて挑戦することです。失敗を恐れてはいけません。ちなみに当社では仕事の失敗で解雇された人はいません。失敗からいろいろなことを学び、それを活かすことを求めています。一方、一度挑戦を始めたら途中で放棄しないこと。最後までやり抜くのが「遂行力」です。
そして「対話力」とは、コミュニケーション力です。これを挙げているのは、顧客はもとより関係各省庁や大学の研究者などとの対話や、社員同士の議論の中から斬新なアイデアが生まれるからです。
いずれも大学で身につけることは難しいでしょう。