連載 ID designer Yoshikoが行く 第56回 行く年も来る年も日本は魅力的
都内のデートスポットのクリスマスツリーに、省エネLEDランプがキラキラ輝き始めた頃、ブライアンの送別会が開かれた。
彼は、私の英文原稿のネイティブチェックなどをしてくれた米国人で、この暮れに、20年近く住み慣れた東京を離れ、思い切って故郷ミズーリ州カンザスシティに帰ることになったのだ。
2012年を迎えるにあたり、2011年を振り返ってみると、「この際、思い切って……」と、日本を離れる決心をした外国の友人たちのことを、寂しく思い出す。『帰宅難民』の群れに飲み込まれた3.11を境に、今まで当然のように享受していたインフラ、システム、ネットワークは、あっという間に『メルトダウン』、安心しきって胡坐をかいていた『安全神話』も想定外の脆さだった。
ある友人は、震災直後に、母国からの帰国命令に従って日本を去った。またある友人は、踏みとどまってはいるものの、放射能汚染への不安は隠せない。
そしてこの度、長年のビジネスパートナーも帰国することになって、「ブライアン、お前もか!」の心境である。 「やっと、横浜から155個の荷物を送ったぞぉ~」と大げさに友人たちと乾杯するブライアンに、思い切って聞いてみた。「今の日本って、魅力ない?」
「そう思っているのは日本人だけじゃない?」
彼が初めて東京にやってきたのは、バブルの残り香漂う1992年。米国の大学で中国語とマーシャルアーツ(東洋武術)を学んだ青年にとって、当時アジアで最も安全で、便利で、豊かな国日本で、英語教師をしながら東洋武術の奥義を究めることは、子どもの頃からの夢の実現への第一歩だった。「あの頃の日本企業には、英語を学んで海外に行きたい、MBAをとって出世したい、という目標を掲げる若いビジネスパーソンがホントに多かったよねぇ」と遠い目をするブライアン。
若気の至りか、海の向こうにさえ行けば、生まれ変われるような気持ちがしていたなぁ、わたしも。それに比べたら、やっぱり、今の日本は覇気がない?「そう思ってるのは、日本人だけじゃないかな?」意外な答えが返ってきた。
ブライアンが日本に来た当初、良く聞かれた質問が、「日本人ってどう見えますか?」ビジネスパーソンは必ずといっていいほど『日本人論』の本を読んでいて、こんなに外国の目を気にする国民は珍しいなと、びっくりしたことが忘れられないという。
挨拶の仕方、プレゼンのマナーから、値切り交渉の仕方まで、「おかしくない?」と聞かれ答えに窮したこともあった。そんな彼らがグローバルなシーンで活躍するために身につけなければならないのは、完璧な英語力でもスマートなビジネスマナーでもない。他人の価値観でコントロールされることから脱して、セルフ・コンフィデンス(自信)と、自分で評価基準を設定する能力を持つことだな、と切実に感じたという。