CASE.3 メーカーズシャツ鎌倉 「全ての行動をお客様のために」が商人道の原点 “放牧型”権限委譲と “お客様が教育係”の施策で お客様の利益を考える人材を育てる
「商才」ではなく「商人道」の追求にこだわるメーカーズシャツ鎌倉。
「商才」にはお金を効率よく儲ける印象があり、「商人道」には人の役に立つための道との考えがあるためだ。
率先垂範して「商人道」を貫く創業会長の思いは、どのように社員に伝わっているのか。
● 基本哲学1「儲ける」ではなく「役に立つ」
お金を効率よく儲けることを「商才」とするなら、当社では商才をあえて封じている。少なくとも、高い利益を追求し、その達成をもって尊しとする価値観は存在しない。お客様や関係先など、あらゆる人に役立つ仕事をし、喜んでいただける商品を提供する──「商人道」という道をひたすら進むだけだ。
主力商品の「鎌倉シャツ」は、原価率59%。一般的なシャツは20%以下だから、効率はよくない。だが、そもそもお金を儲けたいという動機で始めた事業ではない。私の中にあったのは、「人の役に立ちたい」という、シンプルな欲求だった。やる以上は長く続けたいし、「あの会社がなくなったら困る」と言われたかった。
では、シャツ屋である我々は何を提供すればいいか。上質なシャツを着てビジネスパーソンとしての品格を上げたい。ビジネスを有利に運びたい。そんな要望に応えるシャツだろう。漠然と「おしゃれになりたい」と考えている人びとの潜在的なニーズにも応えたかった。
生地は綿100%、素材は高級といわれる80番手以上のものに決めた。ボタンは天然貝だ。コストはプラスチックボタンの20 倍だが、一つひとつ異なる表情が楽しめるうえに留めやすい。芯地にもランクの高いフラシ芯を選んだ。生産効率は下がるが、表地の風合いを活かせるし、何より着心地がよい。
さらに、より多くのサイズ展開をめざした。ドレスシャツは合うサイズがなければどんなに品質がよくても買ってもらえない。現在、メンズシャツは合計17サイズに対応しているが、これほど多いサイズ展開は、専門店でも稀だと驚かれる。
しかし、値段が高過ぎて手が出ないのでは意味がない。私たちは、一般的な方がたが「買ってもいいかな」と思えるぎりぎりの価格を維持することにした。1993年の創業以来、税抜4900円(2014 年10月以降は税抜5000円)で提供し続けている。レディスシャツや、後に扱うようになったネクタイも同様である。我々が提供する5000円の商品は、市価1万2000円~1万5000円の商品に匹敵する品質だと胸をはって言える。