巻頭インタビュー 私の人材教育論 挑戦、チームワーク、納得性の高い評価がファインプレーを生む
イチローや本田圭佑、北島康介など、一流選手のプレーを支えるスポーツ用品製造・販売を行うミズノ。
その裏には、社員たちの数々のファインプレーが隠されていることはいうまでもない。
1人ひとりのファインプレーを生み出していたのは、挑戦する風土、チームワーク、納得性の高い評価、創業時から続く徹底したクリーンな社風などである。
104年の歴史を重ねる同社の土台について、4代目社長の水野明人氏が語る。
スポーツから学べる3つのF
――人をつくる、人を活かすことは企業経営で最も大事な施策の1 つですが、御社ではどのような理念を持って人材育成、人材活用に取り組まれているのでしょうか。
水野
スポーツ関連企業ですから、社員たちも“明るく元気で”いられるところに活力の源泉を置かなければなりません。では皆に元気に働いてもらうにはどうするか。
我々は、経営や教育などの理念に“3つのF”――「フェアプレー」「フレンドシップ」「ファイティングスピリット」を掲げています。この3つはスポーツには欠かせない要素で、これを徹底することで皆、明るく元気に働き、成長していってくれたらいいなと思っています。
「フェアプレー」は、スポーツでいえばルールを守るという基本中の基本。ところが企業社会では、盛んにコンプライアンスや法令遵守が叫ばれているように、守るべきことが守られていない。フェアプレーが実行されていないということです。教育によってしっかりと身につけて欲しいと思っています。
「フレンドシップ」は企業の中に当てはめれば、チームプレー、チームワークに相当します。仕事においても、個人個人の働きは大事ですが、個人プレーではなく、チームで力を合わせてプロジェクトや業務を遂行していくことが重要と考えています。
さらに、企業の中でなくてはならないのが「ファイティングスピリット」。積極的に挑戦していく気概を持って、新しいこと、困難なことに立ち向かっていかなければ、企業は発展しません。失敗を恐れて何もしないよりも、失敗してもいいから何かにチャレンジするほうがミズノの中では評価が高いし、そういう人を積極的に評価するようにしています。そのような気風、考え方を組織に醸成していかなければ、人はなかなか育たないと私は思っているんです。
――個人のファインプレーも、これら3つのFがあってこそ生まれるということですね。3つのFは人事や教育施策、組織づくりなどにも反映されているとお聞きしました。
水野
当社の経営に対する考え方の基本的な部分は、この3つのFでかなりカバーできるでしょう。
教育については、さまざまなテーマがあり、必ずしも理念に合致したものばかりとはいえないのですが、週に一度行っている「ミズノビデオコミュニケーション」や、毎週、各部ごとに行っている「教育の時間」などの根底にも、これら3つのFをしっかりと身につけてもらおうという意図が込められています。
――ユニークなお取り組みのようですね。具体的にはどのような教育なのでしょうか。
水野
「ミズノビデオコミュニケーション」は1983年から、会社の方針を全社員に知ってもらう狙いで始めたものです。社長方針や各部門の動向、ニュースなどを映像にまとめて放映しています。当初は月1回でしたが、現在は毎週火曜日、朝9時30分から約20分間、全社員に一斉に視聴してもらっています。私は毎回、冒頭の2~3分間ですが、時の話題や業界動向、教育的な話題などを話しているわけです。たとえば先般はサッカーが大いに盛り上がった時期でしたので、サッカーと経営の共通性、つまり、局面局面での判断の大切さといったことを話しました。全社の考えを一本化するうえで役に立っていると思います。
もう1つの「教育の時間」とは、各部ごとの勉強会。毎週金曜日の朝9時30分から10時までは、各部の皆で集まって、ある1つのテーマに沿って学びます。部門長が講師となって話をしたり、皆でフリーディスカッションをします。テーマは「CSR(企業の社会的責任)」「自分再発見(信念)」「人格・能力の向上」「品質強化」といったことです。
チャレンジの機会で若手が一皮むける
――水野社長は米国の大学、そして日本の大学を卒業されてから、26歳で入社されたと伺いました。
水野
米国から帰国後、スポーツの勉強を兼ねてヨーロッパに1年行っていたこともあり、1975年の入社なんです。ミズノ生活も35年になりますね。