CASE.1 いなげやウィング 健常者、職場へのフォローが重要 職場適応と定着支援は 迅速、きめ細やかに長い目で
首都圏の1都3県に130店舗を展開するスーパーマーケットいなげや。障害者雇用を拡大し定着を図るために設立したのが、いなげやウィングだ。
知的障害者・精神障害者を雇用し、いなげやの店舗で健常者とともに長く働き続けてもらうための配慮や新規事業の試みを探る。
●取り組みの背景経営理念の実現に含まれる障害者雇用
関東を中心にスーパーマーケットの「いなげや」や「ウェルパーク」などを展開するいなげや。同社は2000年から積極的に障害者雇用に取り組み、2010年に特例子会社いなげやウィングを設立。店舗業務の一部を切り出して請け負うなど、障害者の能力を引き出し、活かしている例といえる。しかし、「ここまでくるには長い年月が必要で、今も日々苦労がある」と語るのは、いなげやウィング管理運営部次長の浮田俊明氏だ。
「弊社のやり方はうまくいっているところもありますが、日々、障害者の職場適応の支援や、健常者との間の調整に追われています。いなげやの障害者雇用も世間で思われているほど簡単ではありません」(浮田氏、以下同)日々の苦労はあるが、現在の同グループの障害者雇用率はおよそ3.8%。ここまで推進してきた背景には、創業以来の思想がある。経営理念「すこやけく」だ。「すこやけく」とはいなげやの造語で「健やか+希(け)く」。「いなげやのある街、いなげやの出店する街に健康で豊かな暖かい心を育みたい。そしてよりすこやかな社会の実現にお店を通じて貢献する」という意味だ。障害者雇用は、地域貢献(新たな雇用の創造)と社会的責任(障害者の自立支援)を果たすことを通じて「すこやけく」を実現しようという取り組みなのである。さらに、同グループではトップの取り組みへの理解があったために、社内で障害者採用の機運が高まっていったという。
●障害者雇用の経緯さらなる推進へと特例子会社設立
実際の雇用の経緯は、まず2000年に特別支援学校から知的障害者を新卒で採用。2002年7月より、ハローワークの「精神障害者グループ就労モデル事業」に参加し、同社の精肉加工センターで就労訓練を受け入れた。そしてそこで訓練を受けた精神障害者5人を、そのままセンターに採用。2003年度に法定雇用率を達成し、その後も知的・精神障害者を受け入れてきた。しかし、さらに障害者雇用を進めようとすると、壁が立ちはだかる。
「2010年にはいなげやの130店舗中約80店舗で120人以上が働いていましたが、これ以上雇用を進めようとすると仕事の切り出しが難しく、『いなげや』だけの採用では限界が見えてきたのです」
そこでグループ会社にも障害者採用を拡大し、新しい仕事を創出するため、特例子会社として2010年10月にいなげやウィングが設立されたのである。設立後は、いなげやウィングが、自社の従業員として障害者を採用。採用実績は96人で、内訳は身体障害者5人、知的障害者63人、精神障害者28人と、知的障害者と精神障害者の比率が高い(2013年3月現在)。同社に採用となると、障害者は、グループ店舗へ派遣となるか、またはいなげやウィングが主に親会社より請け負った仕事に参加する。後者の「業務請負」は2010年10月からの新しい取り組みで、店舗での早朝品出しを行うもの。新店舗を中心に2013年3月現在、6店舗で実施している。
派遣と業務請負では、障害者側の受け止め方も異なるようだ。派遣では店舗の健常者に混じって働くため、周囲の人間関係やコミュニケーション不足などで障害者の労働意欲が低下し、退職してしまう場合もある。一方、業務請負の場合は健常者のリーダー2~3人と障害者5~6人がチームとなり、決まった店舗で早朝品出し(午前7時~11時)を行うため、チーム内のコミュニケーションが図られ、障害者も安定して仕事に専念しやすいという。