巻頭インタビュー 私の人材教育論 めざすは、挑戦にワクワクし組織を引っ張るドライバー人材の集合体
CVT(無段変速機)でトップシェアを誇るジヤトコは、日産系列の自動車部品メーカーだ。さらなるグローバル展開をめざし、2011年、カルロス・ゴーン氏に請われて就任した新社長は、プラスチック業界出身の秦孝之氏。秦氏が強力に推進する、組織を牽引するリーダー育成について聞いた。
“シャイな会社”が強さを自覚
―― 貴社は、世界有数のオートマチックトランスミッション(自動変速機。エンジンからの動力を最適にタイヤに伝える)専門メーカーです。なかでもCVT(無段変速機)では世界で49%のシェアを獲得。あらゆるタイプの自動車に対応するラインナップを持たれていると伺っています。
秦
「電子制御5速オートマチックトランスミッション」「2リッタークラス金属ベルト式CVT」「トロイダルCVT」など、創業以来、一貫して自動変速機を作り続けてきました。この分野では先駆け中の先駆けといえるでしょう。それを支えるのは、やはり技術開発力。現在主流である中型車クラスの金属ベルトCVTにしても、商業化に成功したのは当社が間違いなく世界初です。
――CVTの仕組みは、ベルトを使って変速比を無段階に設定し、エンジンの動力を理想的な駆動力に変える、というものですね。
秦
理論的には可能でも製品化は不可能だろうと、当時は業界の誰もが思っていたようです。もちろん開発の裏には、山あり谷ありの苦労があったと聞いています。ですが、試行錯誤の末、製品化に成功し世界シェアを獲得したのは、まさにこの会社の実力、「やりきる力」によるものと思いますね。
現在、全世界で500万台の変速機を生産していますが、高品質な製品を大量生産できるところにも、我々の強みがあります。
―― 2011年6月に社長に就任されましたが、この時の抱負と課題とは。
秦
まず、とてつもない実力と可能性を持った会社だなと思いました。同時に感じたのは、その自覚の欠如です。
ジヤトコはシャイな会社です。上場もしていませんし、テレビCMも流しません。そのままでもビジネス自体は成り立つ。でも、自分たちの強さを皆に再認識してもらいたいと思いました。そこで、新しくタグライン(企業やブランドが持つ感情面と機能面の優れた点をわかりやすく伝えるための表現)を定めたのです。
――“The mission is passion.”というタグラインですね。
秦
はい、皆で考えたものです。優秀な若手を選抜して合宿しましてね。そこで「これから我々はジヤトコをどんな企業にしたいのか」を徹底的に話し合って決めました。
――社員の皆さんにとっては新鮮で刺激的な取り組みだったのでは。
秦
ええ。当社は日産自動車、三菱自動車工業、そしてスズキを株主に持つ、大変恵まれた環境にあります。しかし株主から要請のあった製品を開発するのがこれまでのパターンだったために、ともすれば「指示待ち」の空気が漂いがちでした。自らイノベーションを起こす、という気概に欠けるところがあった。
だから着任以来、ずっと言い続けました。「自分たちの強さを認識しろ」「自分たちの未来は自分たちで創れ。でないとサラリーマン人生など楽しくないぞ」と。一人ひとりにやりきる力を自覚してもらい、発揮してほしいのです。