人材教育最前線 プロフェッショナル編 教え合う風土と当事者意識がつくる 「300年成長する企業」の礎
トップセールスマンとして、営業現場の第一線で活躍していた源田泰之氏。同氏の人事の道は、予想もしていなかった突然の異動から始まった。だが、常に自分が果たすべき役割と向き合い、どんな時も目の前の課題に全力で取り組んできた。販売スタッフ研修をつくるために、自ら店頭に立ち接客を体験。経営者育成をめざし、他社の有能な経営者たちを次々と訪問――。強い当事者意識があるからこそ、自ら行動せずにはいられない。そんな源田氏が見つめているのは30年、300年先のソフトバンクの姿だった。
販売員研修をつくるため自ら店頭に立ち接客する
人事本部 人材開発部長として現在、東京の本社でソフトバンクグループの人材開発と教育の指揮を執る源田泰之氏。福岡で育ち、1997年にデジタルツーカー九州(のちのボーダフォン)に入社した同氏が、販売研修部門の研修課長として東京転勤の辞令を受けたのが2006 年。ソフトバンクモバイルによるボーダフォンの買収がきっかけだった。入社以来、営業の道一筋。デジタルツーカーショップから地元の有力な量販店の本部・店舗、さらには商社や法人営業を経験し、営業担当者の中でも成績上位だった源田氏にとって、東京行きは寝耳に水だった。「私自身、人事・教育に足を踏み入れることは全く希望していませんでした。『どうして私なんですか』と上司に(異動の再考を)直談判したほどです」当時ソフトバンクモバイルでは、全国の販売店を強化する計画があった。そのスタッフ教育のために、各地域の営業職社員が集められたのだ。だが、異動先の研修部門は新設されたばかり。座る席すらも決まっていない混沌とした状態でのスタートだった。「研修といっても何をすればいいのか全くわからず、もちろんマニュアルや教育ツールも何一つありません。手元にあるのは携帯電話の契約申込書くらい(笑)。それでも『明日、100人の研修よろしく』といったオーダーがどんどん来ましたから、メンバー全員、必死でした」営業を担当していた源田氏だが、長く法人営業や店舗のマーケティングコントロールに携わっていたため、店頭での販売経験は豊富ではなかった。そこで、販売スタッフに必要なスキルや知識を把握するために、直営店の店頭に立たせてもらい、自ら接客をして勉強した。その後、どうにか研修の形ができ、実際にスタートしてからもメンバーたちに息つく暇はなかった。研修は新規のスタッフだけでなく既存スタッフ、アルバイトから正社員まで、あらゆる販売員が対象だった。チャネル研修課のメンバーは最大で17人いたが、フル稼働で全国を飛び回り、1年で1万人以上を教育したという。さらに、商品知識や接客といった基礎研修だけでなく、顧客満足度やアフターサービスに特化した研修など、ラインナップも次々と増やしていった。「とにかく毎日が楽しかったですね。自分が思い描いていたキャリアとは違う道に進みましたが、何もないところから1つのものをつくり上げたという経験は結果的に私自身の成長と自信につながりましたし、仲間とのつながりも強くなりました」