第24回 ハイヤー並みのタクシーで差別化 運転手たちのモチベーションアップ 川鍋一朗氏 日本交通 社長 他|中原 淳氏 東京大学 大学総合教育研究センター 准教授
2020年に東京オリンピック開催が決定し、観光都市としての魅力を高め、訪れる人々を「おもてなし」しよう、という機運が高まりつつある東京。その最前線に立っているのがタクシーだ。首都圏最大のタクシー会社、日本交通では、同料金でハイヤー並みのサービスを受けられる「黒タク」を導入し、他社と差別化を図っている。タクシー運転手のやる気を引き出す仕組みを取材した。
人気の「黒タク」とは?
最近、街でよく見かける「黒いタクシー」、通称「黒タク」。黒く光る車体が、ハイヤーのような高級感を醸し出しています。その割に料金は通常のタクシーと同じ、というお得感で密かな人気となっています。首都圏最大のタクシー会社、日本交通では、この「黒タク」にドアサービスなどハイヤー並みのサービスを導入し、他社と差別化を図ることで、業績を伸ばしているとのこと。日本交通の黒タクは何が違うのでしょうか。まず気づくのは、無線配車の際の運転手さんによるドアサービスです。乗り降りの際に、運転手さんがわざわざ回り込んでドアの開閉を行ってくれます。車内は広々としてすっきりクリーンな印象。「車内はお客さまの空間」という考えから、余計なものは一切なく、運転席と後部座席を仕切るパネルも、ハイヤーに近い仕様にするため取り払ったとのこと。パネルに貼られた広告などがないことも、すっきり感につながっています。応対も「日本交通の〇〇でございます」と丁寧。大荷物がある時は、トランクへ荷物を運んでくれます。これだけスマートなサービスを受けられて通常の黄色いタクシーと同料金ならば、「次も黒タクで」と人気が出るのも納得です。しかし、通常の黄色いタクシーと同料金で、これだけのサービスを実現できるのでしょうか。その秘密を探るべく、日本交通の「黒タク講習」なる社内研修に潜入。そこには、タクシードライバーたちのやる気を引き出す仕組みが隠されていました。
潜入「黒タク講習」
「桜にN、日本交通に集う私たちは……」と、黒タク講習会の始まりは全員が起立しての社是と社訓の唱和から。この日、日本交通本社会議室に集まったのは36名のタクシードライバーです。全体的に年配の男性が多い印象ですが、中には比較的若い運転手や女性の姿もあります。続いて、「皆さん、おはようございます!」と日本交通の川鍋一朗社長の講話が始まりました。全員スーツのボタンをきちんと留めて、姿勢を正して聞いています。講話の内容は、「黒タク乗務員としての心構え」。一人ひとりが黒タクの運転手として誇りを持って仕事をすることで、乗客から「また乗りたい」と思ってもらえる。その積み重ねで日本交通の黒タクは予約や法人契約などで、「選ばれるタクシー」となり、一人ひとりの営業収入も上がっていく。それには日々、誰もが手を抜くことなく、マニュアル通りの接客、対応を続ける必要があり、そのために抜き打ちチェックなども行っている、といった内容です。